生まれた時に「運が悪かった」という理由だけで、その人の人生が決まる社会というのはとてもおかしい。障がいを持たずに生まれる、障がいを持って生まれるなどはすべて運である。障がいは後天的にもやって来る。運が悪かった人たちに感情的に「かわいそう」と手を差しのべるのでは問題は解決しない。スティーヴィー・ワンダーやレイ・チャールズの音楽に感動する際に「障がい者だから」と枕詞が付くことはない。純粋にその「作品」の素晴らしさに人の心は動かされる。
このような考えをビジネスの現場で40年間実践してきた企業がある。大分・日出に飛んで、盛田陽一ソニー・太陽(株)代表取締役社長に聞いた。陪席はダイバースビジネス部の瀬口晋二郎統括部長である。同社では社員約180名のうち、約120名が障がい者である。
太陽の家企業会では年に3回情報交換や研修を行う
――創立40周年記念式典が2月9日に広瀬勝貞大分県知事、本田博文日出町長、ソニー本社、平井一夫代表執行役社長兼CEO(現会長)などを迎えて盛大に執り行われました。本日は障がい者の雇用や障がい者のキャリア形成などに関していろいろとお聞きしたいと思います。まずは、創立そして(福)「太陽の家」との関係から教えていただけますか。
盛田陽一氏(以下、盛田) ソニー・太陽はファウンダーである井深大が40年前に創立しました。(福)「太陽の家」創設者である中村裕博士の「世に身心障がい者はあっても、仕事に障害はありえない、身障者に保護より働く機会を」の理念に賛同し、「障がい者の特権無しの厳しさで健丈者より優れたものを」を企業理念としています。
当時、「太陽の家」の理念には、オムロン(立石一真ファウンダー)、ホンダ(本田宗一郎ファウンダー)、三菱商事、デンソーなど日本を代表する大企業が賛同、提携して共同出資会社をつくりました。その後は富士通エフサスも加わり、現在では地元企業なども含めて、11社で「太陽の家」企業会をつくり、年に3回情報交換や研修を行っています。
瀬口晋二郎氏(以下、瀬口) 障がい者雇用に関する研修では国内(北九州、東京、神戸など)のみならず、韓国やスウェーデンなど海外にも行っています。スウェーデンには障がい者雇用に関して有名な世界最大のサムハル社(※1)があります。
別府はダイバーシティの街といえるかも知れません
盛田 私はこちらに来て約1年半ですが、別府市(人口:約12万人)を中心にこの界隈は、障がい者にとても優しい街だと感じています。障がい者用のトイレを設置しているお店が多く、車道と歩道に段差があるところも少ないです。バリアーがあっても周りの人がカバーする、そんな街の中には障がい者がたくさんいます。
さらにいえば、別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)は約6,000人の生徒数のうち半数以上が外国人です。街には、障がい者だけでなく、外国人も多く、文字通り別府は「ダイバーシティの街」といえるかも知れません。
まず意欲・能力、配慮すべき障がいの有無は次の話
――創立から40年が経ちました。その間の歩みを振り返っていただけますか。何が変わって、何が変わらないと感じておられますか。将来的には、どのようになっていくべきかとお考えですか
盛田 ソニー・太陽では障がい者雇用を40年やってきました。福祉政策がどのように変わったとしても、しっかりその内容を吟味し、ソニー・太陽は独自にどうすべきかを判断できる領域に達していると思えます。障がい者の法定雇用率は今年から民間企業の場合、2.2%(従来は2.0%)に上がり、21年には2.3%に上がることも決まっています。その点からいえば、これからは障がい者採用に関する競争率は上がっていくと思います。
変化という点に関していうならば、現在、ソニー・太陽では、ほとんどの障がい者が身体障がい者です。しかし、これからは精神障がい者の方の雇用も増えてくることになると思います。弊社に限りませんが、この部分のノウハウの蓄積はないので、今後は、ソニー・太陽だけでなく、ソニー本社、ソニーグループ全体として取り組んでいくことになると思います。
ソニー・太陽は特例子会社(※2)です。しかし、企業であって、(福)ではありません。この原点に戻れば、話はそんなに難しくはありません。身体障がい者、精神障がい者という区別でなく、健常者とまったく同じで「人物次第」ということです。すなわち、ソニー・太陽に実質的に貢献してくれる、意欲・能力を持っている人間を採用します。配慮すべき障がいがあるかないかは、次の話になります。また、私たちは、採用後は、その障がいを乗り越えられるように、生産技術などで、全力で支える用意があります。
弊社の3代目社長を務めた長田博行は自身が身体障がい者でしたが、「特例子会社などなくなればいい」という言葉を残しています。
(つづく)【金木 亮憲】
※1 サムハル社
約2.3万人の従業員のうち85%が障がい者。スウェーデン国内250カ所で雇用、職業訓練・技能訓練を通じて障がい者の社会参加を支持している。
※2 特例子会社
日本法上の概念で、障害者の雇用に特別な配慮をし、障害者の雇用の促進などに関する法律第44条の規定により、一定の要件を満たしたうえで厚生労働大臣の認可を受けて、障害者雇用率の算定において親会社の一事業所と見なされる子会社。
<COMPANY INFORMATION>
ソニー・太陽(株)
代 表:盛田陽一
所在地:大分県速見郡日出町大字大神字寒水1402‐14
設 立:1978年1月14日
資本金:5,000万円
資本構成:ソニー(株)76.7%、(福)太陽の家 23.3%
社員数:約180名(内:障がい者約120名)※2017年4月現在
2018年05月14日 NET-IB NEWS