日本で起きている日常的な差別
ここ数日で、日本で深刻な差別が起きているというニュースが相次いだ。たとえばこの記事。
“日本に戻らなければよかった” (NHK)
16歳で自死したカナダと日本人のダブル(ルーツが複数ある方)の女性は、過去に日本の中学校で「天然パーマ」「毛が濃いんだよ」などと言われるなど、壮絶な差別といじめに遭っていた。読むのが辛くなるかもしれないが、ぜひ読んで頂きたい。
さらに、いまや当たり前になった、コンビニや居酒屋で働く外国人労働者が、日常的にどれだけ差別を受けているか。
スーパーで働くある中国人女性は、レジでお金を落としただけで客から差別発言を浴びせられたという。
中国人の女性が心を痛めた言葉 日本で起きている差別のリアル(BuzzFeed News)
このような差別は実に約半数近くの外国人労働者が受けている、という反レイシズム情報センター(ARIC)の調査結果が出ている。
NPO法人反レイシズム情報センター(ARIC)は4月16日、東京都内で行った外国人留学生や外国人労働者への差別実態調査の結果を発表した。
これらBuzzFeed Newsの報道によれば、外国人留学生ら340人中167人の49%が、なんらかの差別を受けていたことが明らかになっているという。
繰り返すが、約半数の外国人労働者が日本で差別を受けている。
いまや差別は日本のいたるところで日常茶飯事となりつつある。
そして、差別は残念ながら、一見差別がないと思われがちな社会福祉の世界にも入り込んできている。
中国国籍者だけ学費が高い東京福祉大学
前回、留学生大量失踪事件の背景にある福祉系大学の乱立問題ー東京福祉大学のような事件を繰り返さないためにーでは、東京福祉大学を取り上げた。
この東京福祉大学でも、じつは差別問題が起きていた。
石渡氏の東京福祉大学、中国籍の外国人研究生を差別か~学費の差は何のため?によると、東京福祉大学は中国国籍者だけ他の留学生よりも高い学費を設定していた。
石渡氏によれば、つまり、中国籍の留学生は中国籍以外の留学生よりも学費が24万2000円、高く設定されている、というのである。
これは、国籍差別をしている、と非難されかねない、きわめて問題のある記述内容と言わざるを得ない、と指摘している。
深刻さを増す福祉関係者による差別
差別はただでさえ、あってはいけない。
なぜかといえば、差別された人々を苦しめ、場合によっては命や生活を奪う危険性を持っているからだ。
特に福祉関係者の差別は、より深刻で危険な結果を招く。
たとえば、ナチスが優生思想や財政問題を口実に差別して行った障害者へのジェノサイド(大量殺害)では、医療や福祉関係者の差別が大きな役割を果たした。障害者は「死ななければならない人間」だと差別して歴史上あってはならない事件を引き起こした。
この教訓はしっかりと引き継がれているだろうか。
だから、福祉関係者は、職業柄とくに差別を許してはならない。
福祉関係者が差別を許すなら、平等を原則とする社会福祉そのものが成立しなくなる。
死んでもいい人間がいるのであれば、人々へのケアや福祉的な介入など議論する必要もなくなってしまうだろう。
もし人種や民族、性別や性的志向、障害から所得階級など、何らかの社会的属性によってその人を差別するなら、社会的属性を理由に社会福祉を削減したり、介護や生活保護を拒否することがいくらでもできてしまう。
みなさんは2016年7月26日に起きた相模原障害者施設殺傷事件を覚えているだろう。
19名の死者、26名の負傷者を出したこの事件の加害者は元施設職員、つまり福祉関係者だった。
じつは福祉事業者や福祉専門職が障害者施設内で起こす虐待件数が近年増加傾向にある(厚生労働省「平成26年度「使用者による障害者虐待の状況等」の結果」)。
相模原障害者施設殺傷事件から学ぶべき教訓の一つは、福祉関係者として差別を容認しないことだろう。
僕は一人の福祉専門職として、福祉系大学が中国国籍者を差別していることに、強い懸念を抱いている。
大学という教育機関が差別することは、性や民族を理由にすれば「差別していいんだ」というメッセージを社会に発信することになるのではないか。
特に学生に対して差別は「仕方ないもの」とか「正しい」と教育する効果さえ、持ってしまうのではないだろうか。
これではいくら福祉の原則が人間の平等だと教員が熱を込めて教えても、効果は薄まってしまうだろう。
社会問題を見えるようにするソーシャルアクション
大学内部で問題解決が図られることを願う。
だが一方で、往々にして大学のような大きな機関の差別は内部での解決は難しいことも現実だ。
だからこそ、ジャーナリズムやNGOの調査活動や、差別の情報提供が重要な役割を果たす。
今回の事件に限らず、社会問題は一気に解決するようなものではない。
最初はまず社会問題を見えるようにすることが重要なソーシャルアクション(社会を変える方法)になる。
じつは東京福祉大学の中国人の学費差別問題は、石渡氏の記事以前に、反レイシズム情報センター(ARIC)のツイッターが発信していた。
軽いフットワークを活かした学生による調査活動が埋もれていた差別を明るみに出し、社会問題にするやり方は、ソーシャルアクションの基本ともいえる。
差別や人権侵害をみたら、Twitterでつぶやいて知らせる。
こういう誰にでもできるアクションが、社会を変えるキッカケになる。
東京医科大学の入試での女性受験生差別事件なども教えるように、大学外からのジャーナリズムやNGOや弁護士のアクションがあるからこそ、大学内部にいる関係者も問題解決のために動くことが可能となる。東京福祉大学の問題も同じだろう。
最後に念のため。
差別が起きたら、それで「大学おしまい」「人生おしまい」ということにはならない。
事実関係を明らかにして、差別の原因を調査し、再発防止策を公表することで、社会的信用を向上させる道も開かれている。
いまならまだ間に合う。
ポジティブな解決が東京福祉大学でも図られることを強く願っている。
藤田孝典 NPOほっとプラス代表理事 聖学院大学人間福祉学部客員准教授
1982年生まれ。埼玉県越谷市在住。社会福祉士。首都圏で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカー。生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する活動と提言を行う。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。元・厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(生活困窮者自立支援法)。著書に『貧困クライシス』(毎日新聞出版 2017)『貧困世代』(講談社 2016)『下流老人』(朝日新聞出版 2015)『ひとりも殺させない』(堀之内出版 2013)共著に『知りたい!ソーシャルワーカーの仕事』(岩波書店 2015)など多数。