横浜市に住む日本画家、中畝(なかうね)常雄さん(62)は二〇一〇年、同市青葉区のコミュニティーカフェ「スペースナナ」の開設に参加した。目的は併設のギャラリーで年に一度、障害のある人のアート展を開催すること。十一年前に十代で亡くなった障害者の長男への思いから、障害者アートにかかわっていきたいという強い希望があったからだ。
スペースナナは、地域活動の場として中畝さんら十三人が出資、地元の空き店舗を改装して開いた。絵画教室を主宰している中畝さんは「月に四日間、このカフェを教室に使わせてもらっています」と説明する。
東京芸術大で日本画を学び、同級生だった治子さんと結婚。やがて初めての子、長男の祥太さんが誕生した。しかし、生まれつき重度の障害があり、寝たきりの生活を余儀なくされた。夫婦とも画家。育児や家事を夫婦交代で担いながら、足りないところは周囲の人や福祉関係者の力を借りて、ともに仕事を続けた。
しだいに障害児を持つ親同士や、地域で福祉活動などに取り組んでいる人たちとつながりができた。中畝さんも障害者に絵を教えるようになった。
だが、祥太さんは〇二年、十七歳という若さで短い生涯を閉じた。中畝さんは「祥太といると、ご飯が全部食べられてよかったね、今日も元気でいてくれてありがとう、そんな気持ちになるんです。生きているだけでいいなあと…。祥太は私の生きがいだったんです」と思い出を話す。
〇八年、地元の雑誌主催の地域を考えるフォーラムに顔を出した。地域や福祉の活動を担う人々と出会い、会合を重ねるうちに、「地域でゆるやかに支え合う場をつくろう」とコミュニティーカフェの計画が持ち上がった。
「祥太が亡くなって時間がたち、できた心のすきまを埋めるためにも、もう一度障害者の皆さんとつき合う機会を持ちたい。そういう場があればアート展も開ける」と参加を決めた。「みんな自分が描いた絵などを発表して、家族や周囲の人に見てもらえると、とてもうれしいんです」
一一年に「ココロはずむアート展PART1」と名付けて開催した。障害者アートに接するうちに気がついた。「彼らには、うまく絵を描いて、皆から評価されたいという気はまったくありません。心をはずませながら、気持ちや感性で描き、たくらみのない絵なんです。でも、私は絵を頭で考えてしまう。教えられることがたくさんあります」
七月にはPART3として三回目のアート展を開く。同市内の知的障害者約二十人の作品五十点ほどを展示する。期間中、出品者が会場で作品を制作する様子を公開する日も設ける予定だ。中畝さんは「彼らのアートはとても魅力的です。多くの人に見て、知っていただきたい」と思いを語る。
◆ギャラリーや物品販売も
スペースナナはビルの1階にあり、広さは約80平方メートル。カフェやギャラリーのほかに物品販売のスペースも。午前11時〜午後6時、月火曜定休。電045(482)6717。横浜市の商店街空き店舗活用事業から助成金198万円のほか、オープン時に出資者13人が約40万円ずつ負担した。2012年にNPO法人化。有料でスペースの貸し出しも行っている。アート展などの詳細はHP(「スペースナナ」で検索)で。
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カフェスペースでスケッチブックに絵を描く中畝常雄さん=横浜市青葉区で
岩手日報-2013年5月22日
スペースナナは、地域活動の場として中畝さんら十三人が出資、地元の空き店舗を改装して開いた。絵画教室を主宰している中畝さんは「月に四日間、このカフェを教室に使わせてもらっています」と説明する。
東京芸術大で日本画を学び、同級生だった治子さんと結婚。やがて初めての子、長男の祥太さんが誕生した。しかし、生まれつき重度の障害があり、寝たきりの生活を余儀なくされた。夫婦とも画家。育児や家事を夫婦交代で担いながら、足りないところは周囲の人や福祉関係者の力を借りて、ともに仕事を続けた。
しだいに障害児を持つ親同士や、地域で福祉活動などに取り組んでいる人たちとつながりができた。中畝さんも障害者に絵を教えるようになった。
だが、祥太さんは〇二年、十七歳という若さで短い生涯を閉じた。中畝さんは「祥太といると、ご飯が全部食べられてよかったね、今日も元気でいてくれてありがとう、そんな気持ちになるんです。生きているだけでいいなあと…。祥太は私の生きがいだったんです」と思い出を話す。
〇八年、地元の雑誌主催の地域を考えるフォーラムに顔を出した。地域や福祉の活動を担う人々と出会い、会合を重ねるうちに、「地域でゆるやかに支え合う場をつくろう」とコミュニティーカフェの計画が持ち上がった。
「祥太が亡くなって時間がたち、できた心のすきまを埋めるためにも、もう一度障害者の皆さんとつき合う機会を持ちたい。そういう場があればアート展も開ける」と参加を決めた。「みんな自分が描いた絵などを発表して、家族や周囲の人に見てもらえると、とてもうれしいんです」
一一年に「ココロはずむアート展PART1」と名付けて開催した。障害者アートに接するうちに気がついた。「彼らには、うまく絵を描いて、皆から評価されたいという気はまったくありません。心をはずませながら、気持ちや感性で描き、たくらみのない絵なんです。でも、私は絵を頭で考えてしまう。教えられることがたくさんあります」
七月にはPART3として三回目のアート展を開く。同市内の知的障害者約二十人の作品五十点ほどを展示する。期間中、出品者が会場で作品を制作する様子を公開する日も設ける予定だ。中畝さんは「彼らのアートはとても魅力的です。多くの人に見て、知っていただきたい」と思いを語る。
◆ギャラリーや物品販売も
スペースナナはビルの1階にあり、広さは約80平方メートル。カフェやギャラリーのほかに物品販売のスペースも。午前11時〜午後6時、月火曜定休。電045(482)6717。横浜市の商店街空き店舗活用事業から助成金198万円のほか、オープン時に出資者13人が約40万円ずつ負担した。2012年にNPO法人化。有料でスペースの貸し出しも行っている。アート展などの詳細はHP(「スペースナナ」で検索)で。

カフェスペースでスケッチブックに絵を描く中畝常雄さん=横浜市青葉区で
岩手日報-2013年5月22日