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障害者差別解消法Q&A - 川島聡 2

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【法的義務と努力義務】

Q23 差別解消措置は、どのような主体に義務をかしていますか?

差別解消措置は、行政機関等と事業者を義務主体にしています。行政機関等とは、1)国の行政機関、2)独立行政法人等、3)地方公共団体、4)地方独立行政法人のことです。事業者とは、商業その他の事業をおこなう者をいいます(2条)。


Q24 差別解消措置は、法的義務と努力義務のどちらをかしていますか?

行政機関等の場合は、差別的取扱いの禁止と合理的配慮の不提供の禁止のどちらも法的義務です(7条)。事業者の場合は、差別的取扱いの禁止は法的義務ですが、合理的配慮の不提供の禁止は努力義務です(8条)。

ちなみに、参内閣委で、政府参考人は、公立の小中学校は地方公共団体の事務事業にはいるので、特別支援学級と通常の学級のどちらにおいても、障害のある児童生徒にたいする合理的配慮の提供は法的に義務づけられる、とのべています。


Q25 民間の事業者の合理的配慮義務は、なぜ努力義務なのですか?

障害者の権利を重視する観点からは、民間事業者がおう合理的配慮義務も法的義務にすべきだといえますが、私的自治を考慮にいれる観点からは、民間事業者の合理的配慮義務を努力義務にして、主務大臣のさだめる対応指針(11条)のもとで民間事業者の自発的なとりくみをうながし、この点の啓発を徹底的におこなうべきだといえます。この法律は、後者の立場をとります(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案(骨子案)」を参照)。ただし、民間事業者の合理的配慮義務(努力義務)にかんして、主務大臣は報告徴収、助言・指導・勧告という措置(12条)をこうずることによって、行政的観点から実効性を担保することが予定されています。

なお、本法施行後に、相談例や裁判例などが徐々に蓄積されるようになれば、民間事業者の合理的配慮を、努力義務から法的義務に変更する法改正もありうるでしょう。

【対応要領】


Q26 行政機関等の職員は、どのように差別解消措置をこうじることになるのですか?

行政機関等の職員は、対応要領にもとづいて、差別解消措置をこうじることになります。この対応要領は、まだ作成されていません。そのため、職員の差別解消措置のこうじ方は、いまのところわかりません。一般に、差別をしてはいけないというのはわかっていても実際どうすればいいのかわからないとか、どういった合理的配慮をおこなえばよいのか、といった疑問があります。この点については、対応要領のなかで一定の行動指針をあきらかにすることが必要だとおもわれます。

基本的には、差別を解消するための第一歩は、安易に相手を糾弾したり非難したりすることではなく、当事者同士が建設的に話し合うこと、交流すること、コミュニケーションをとることです。


Q27 対応要領は、どのように作成されるのですか?

対応要領は、政府の基本方針にそくして作成されます。対応要領の作成義務の性格にかんしては、国と地方で異なります。一方で、国の行政機関の長と独立行政法人等は、基本方針にそくし、「国の行政機関職員等対応要領」を策定する法的義務をおっています(9条)。他方で、地方公共団体の機関と地方独立行政法人は、基本方針にそくし、「地方公共団体職員等対応要領」を作成する努力義務をおいます(10条)。対応要領を作成するさいに障害者その他の関係者の意見を聴取する点にかんしても、前者の場合は法的義務ですが、後者の場合は努力義務です。

【対応指針】


Q28 事業者は、どのように差別解消措置をこうじるのですか?

事業者は、対応指針にもとづいて、差別解消措置をこうじることになります。この対応指針はまだ作成されていません。そのため、事業者の差別解消措置のこうじ方は、いまのところわかりません。さきにのべた対応要領の場合とおなじように、対応指針のなかで一定の行動指針をあきらかにすることが必要だとおもわれます。


Q29 対応指針は、どのように作成されるのですか?

対応指針は、政府の基本方針にそくして作成されます。主務大臣は、基本方針にそくして、対応指針を作成する法的義務をおっています(11条)。そして、主務大臣は、対応指針を作成するさいに障害者その他の関係者の意見を聴取する点について法的義務をおいます。

【実効性の確保】

Q30 主務大臣は、事業者の差別解消措置にかんして、どのような権限をゆうしていますか?

主務大臣は、対応指針にさだめる事項について報告を求めたり、あるいは助言、指導、勧告をおこなったりすることができます(12条)。報告をおこなわなかった者、あるいは虚偽の報告をおこなった者は、20万円以下の過料に処せられます(26条)。このような行政措置を担保することによって、差別解消措置の実効性を確保することが予定されています。

なお、この法律は、違反行為に対する民事法上の効果(損害賠償請求権、契約の無効など)を規定していません。そのような効果は、個々の事案で、民法等の一般規定にしたがい判断されることになるでしょう(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案(骨子案)」を参照)。差別禁止部会意見も、「実際に差別をうけた場合に、どのような救済が認められるかは、民法等の一般法と民事手続法に従って判断されることになる」としるしています。

【差別解消支援措置】


Q31 差別解消支援措置とは、どのようなものですか?

差別解消支援措置は、1)相談・紛争防止・紛争解決のための体制整備(14条)、2)啓発活動(15条)、3)情報の収集・整理・提供(16条)、4)障害者差別解消支援地域協議会の組織(17条-20条)という4本の柱からなっています。

これらのうち、1)と2)は、国と地方公共団体の法的義務です。3)は、国の法的義務です。そして4)について、障害者の自立と社会参加に関連する分野(医療、介護、教育等)に従事する国・地方公共団体の機関は、障害者差別解消支援地域協議会を組織することができます。この協議会は、NPO法人、学識経験者等を構成員としてくわえることができます(17条)。

【地域協議会】


Q32 障害者差別解消支援地域協議会は、なにを目的としているのですか?

障害者差別解消支援地域協議会は、差別の相談をふまえた障害者差別解消のとりくみを効果的かつ円滑にすすめることを目的としています(17条)。


Q33 障害者差別解消支援地域協議会は、なにをおこなうのですか?

障害者差別解消支援地域協議会の事務は、情報を交換すること、差別の相談をふまえた障害差別解消のとりくみにかんして協議すること、この協議にもとづき障害差別解消のとりくみをおこなうことです(18条)。地域協議会については、衆内閣委と参内閣委でも、重要な議論がおこなわれています。そこでの政府参考人の意見は、つぎのようなものです。

まず、地域協議会は、橋渡し的な役割をはたし、行政措置の権限をゆうする主務大臣たる行政機関と連携したり、調停やあっせん等の機能をゆうする既存の紛争解決機関に結びつける役目をになったりします。地域協議会が、そのような役割をはたすことによって、そういった既存の諸機関が全体として差別解消の実効性を担保するようになることが期待されています。このように、地域協議会は、問題を個別に解決する機能をもつのではなく、むしろ問題の解決を後押しする役割をはたしていくことになります。

そもそも、障害者差別解消法は、新しい機関を設置するのではなく、地域協議会というフレームワークのなかで既存のさまざまな諸機関を活用しながら差別解消をすすめることを予定しています。さまざまな既存の諸機関を構成機関とする地域協議会をもうけることによって、相談や紛争解決のネットワークがつくられることになります。そして、この構成機関には、国の出先機関がはいり、それによって、行政措置の権限をゆうする主務大臣への橋渡しがスムーズになるのです。

参内閣委では、どこかの地域において、地域協議会の運営にかんする範をしめすことができるよう、モデル事業を先行的に実施する点についても議論がありました。

【施行日】

Q34 障害者差別解消法の施行日はいつですか?

2016年4月1日から施行されます(附則1条)。施行3年後に、政府は必要な見直しをおこないます(附則7条)。この点、衆内閣委と参内閣委の附帯決議は、「本法の施行後、特に必要性が生じた場合には、施行後3年を待つことなく、本法の施行状況について検討をおこない、できるだけ早期に見直しを検討すること」としるしています。

なお、衆内閣委で、政府参考人は、障害者差別解消法の施行日(2016年4月1日)以前に障害者権利条約を批准することに問題はない、とのべています。

【障害者雇用促進法との関係】


Q35 障害者差別解消法と障害者雇用促進法とは、どのような関係にあるのですか?

行政機関等と事業者が、事業主としての立場で、労働者にたいしておこなう障害差別を解消するための措置にかんしては、障害者雇用促進法のさだめによるところとなります(障害者差別解消法13条)。改正障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律)は、2013年6月13日に衆議院本会議で可決、成立しました。

障害者差別解消法では、事業者の場合、合理的配慮の不提供の禁止は努力義務となっています(8条)。しかし、改正障害者雇用促進法のもとでは、事業主の合理的配慮義務は法的義務です。また、この促進法は、紛争解決については、紛争調整委員会による調停や、都道府県労働局長による勧告などを予定しています。

【条例との関係】


Q36 障害者差別解消法と条例とは、どのような関係にあるのですか?

この法律は、条例との関係について明文規定をおいていません。この法律は、条例を拘束するものではありません。衆内閣委と参内閣委の附帯決議は、「本法が、地方公共団体による、いわゆる上乗せ・横出し条例を含む障害を理由とする差別に関する条例の制定等を妨げ又は拘束するものではないことを周知すること」としるしています。

【外国の動向】



Q37 日本以外の諸国では、障害差別禁止法の制定はすすんでいますか?



おおまかにいいますと、まず、アメリカ、オーストラリア、イギリスで1990年代前半に包括的な障害差別禁止法が成立し、2000年代にはいってヨーロッパ大陸諸国やアジア諸国ですこしずつ法整備がすすんでいます。このように、諸外国においても、障害差別禁止法はわりあい新しい立法現象だといえます。2002年から検討がはじまり2006年に成立した障害者権利条約が、このような新しい世界的動向にそうとうおおきな影響をあたえています。日本もそのような影響をうけた国のひとつです。

【障害者差別解消法の影響】

Q38 障害者差別解消法が制定されましたが、国民の意識はすぐに変わるのですか?


国民の意識が変わるかどうかは今後のとりくみにかかっています。もちろん、国民の意識を変えることは、この法律の趣旨を実現するためにたいへん重要です。国民の意識を変えるために、この法律は、差別解消支援措置のひとつとして、国と地方公共団体による啓発活動をさだめています。そして、この法律が施行されるまでに、その周知を徹底させていくことも重要となります(なお、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案(骨子案)」は、この法律は個人の思想・言論にたいする法的効力をもたない、としるしています)。


やはり、国民の意識を変えていくためには、安易に相手を糾弾したり非難したりすることではなく、まずは当事者同士が建設的に話し合うこと、交流すること、コミュニケーションをとることが重要だということができますので、そのための環境と制度を整備することが大切となります。

Q39 障害者差別解消法(と改正障害者雇用促進法)によって、障害当事者の実生活はどう変わりうるのですか?



たとえば、雇用や教育やサービス提供の場面などにおいて、障害者の社会参加の機会がますことが期待されています。とくに、合理的配慮がおこなわれることで、障害のある諸個人の個別具体的なニーズにそって、社会参加をさまたげる社会的障壁が除去されることが期待されています。



そういった期待にこの法律が現実にこたえられるかどうかは、1)基本方針、対応要領、対応指針がどのような内容をさだめることになるか、2)相談・紛争防止・紛争解決の体制(14条)や、障害者差別解消支援地域協議会(16条)が、どのような機能を実際にはたすか、3)障害者団体や関係者がどのような役割をはたすか、4)この法律の趣旨と内容が日本社会の構成員全体(障害者をふくむ)に浸潤し、その意識が現実に変わっていくか、といった諸点におおきく左右されるとおもわれます。

サムネイル:『Wheelchair』Joshua Zader

http://www.flickr.com/photos/zader/6612258681/


障害者の権利条約と日本―概要と展望
出版社:生活書院( 2012-10 )
定価:¥ 2,940
Amazon価格:¥ 2,940
単行本 ( 398 ページ ) ISBN-10 : 4903690989
ISBN-13 : 9784903690988
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川島聡(かわしま・さとし)
国際人権法 / 障害者法

明治大学法科大学院教育補助講師。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。新潟大学大学院現代社会文化研究科修了(2005年)。博士(法学)。東京大学大学院経済学研究科特任研究員(2007-2012年)。内閣府障がい者制度改革推進会議(障害者政策委員会)差別禁止部会構成員(2010年-2012年)。ハーバード・ロースクール客員研究員(2011年)。主な研究分野は国際人権法、障害者法。著書に『障害学のリハビリテーション』(共編著、生活書院、2013年8月予定)、『増補改訂:障害者の権利条約と日本─概要と展望』(共編著、生活書院、2012年)、『障害を問い直す』(共編著、東洋経済新報社、2011年)、『概説 障害者権利条約』(共編、法律文化社、2010年)など。http://disabilitylaw.jp/

BLOGOS-2013/07/02

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