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「特例子会社」は障害者雇用に風穴を開けるか

神戸から羽ばたく、食品卸トーホーの願い

「特例子会社」という制度をご存知だろうか――。厚生労働省の資料には、「障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別に配慮をした子会社」と記されている。

特例子会社を設立すれば、親会社とは異なる就業時間や昇給の仕組みなど、特例子会社だけに適用できる労働条件の設定も可能となり、企業の雇用管理の弾力性が増す。また、耳の不自由な人に対しては照明などで注意を喚起する装置の導入が望まれるが、そうした設備投資を集中的に行うことができる。

厚生労働省によれば、2013年6月1日現在で特例子会社の認定を受けている企業は、前年より31社増え380社。ここ数年は年間20数社ずつ増えており、10年前と比較しても約3倍となっている。

業務用食品卸の最大手であるトーホーも、そのうちの1社だ。かねてから障害者雇用に積極的だった同社は、特例子会社「トーホーウイング」を設立し、2014年1月から営業を開始した。

設立時の従業員数は障害者8人を含む15人。障害者8人のうち3人はグループ内からの転籍で、5人を新規に採用した。主な業務内容は事業所内の清掃業務、データ入力代行などのオンデマンド業務、郵便仕分けなどの庶務業務を行う。

企業の採用姿勢は二極化

厚労省が2013年11月にまとめた「障害者雇用状況」によれば、同年6月1日現在の雇用障害者数は前年比7.0%増の40万8947人と過去最高を記録。実雇用率も1.76%となり、こちらも過去最高を更新した。

ただし、採用に積極的な企業とそうでない企業との差が拡大しているのも事実だ。法定雇用率を達成した企業の割合は前年比4.1%ポイント減の42.7%。2006年(43.4%)以来の低水準となっている。

特例子会社は、こうした現状に風穴を開ける仕組みとして期待されている。通常は企業集団を形成するとき、グループ内各社が個々に法定雇用率をクリアする必要がある。だが、特例子会社が認められれば、その子会社に雇用されている障害者は親会社に雇用されているとみなされる。さらに、グループ全体での雇用者数として算入され、個社ごとではなく、グループ全体で法定雇用率をクリアすればよいとされている。

トーホーの場合、2013年6月1日現在で身体、知的、精神の各障害者91人を雇用しており、数年前から法定雇用率を順守してきた。2013年1月期の障害者雇用率も2.02%と、法定雇用率が引き上げられる前から2%を超えていた。しかし、今後の展開を考えたとき、特に規模の小さいグループ会社は障害者をさらに受け入れる余地に限界もあった。特例子会社はこうしたネックを解消した。

仕事量の確保が課題

足下の問題は、いかに仕事量を確保するか。クリーン業務や印刷業務など、グループ各社から業務を切り出して仕事を作っているが、「業務量が全然、足りていない」と、トーホーウイングの社長に就任した小田隆氏は悩みを打ち明ける。

特例子会社だからといって、採算度外視で業務を受注していてはいつまで経っても独り立ちできない。逆に、高単価で受注すれば、発注先のグループ企業の業績を圧迫し、いずれはほかの外注先に仕事を奪われる。

特に発足当初は従業員の習熟度も低いことから、できる仕事自体が限られる。当面はグループ各社で外注に出している仕事を難易度や緊急性、重要度などに切り分けた後、できる仕事を引き受けていく方針だが、障害者就労支援団体と連携しつつ、技術を向上させ、業務の枠を少しずつ広げていく。「業務探しに奔走しなければ」と小田氏は気を引き締める。

事業が軌道化すれば、高齢者の継続雇用やメンタルヘルスの復職支援などの役割を果たすことも視野に入れている。毎年、業容拡大に合わせ2〜3人をコンスタントに採用しつつ、5年後には単独での黒字化を果たす目標だ。

社名にある「ウイング」には、障害者と手を取り合って、将来に向けて羽ばたいていきたいとの願いが込められている。名前に込めた思いとともに、トーホーウイングは上昇気流に乗ることができるか。

東洋経済オンライン - 2014年01月19日

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