都内の企業で働く障害者が増え続けている。企業は職場体験の場を設け、採用に向けてコミュニケーションや指示の出し方を学んでいる。
東京労働局は昨年11月、都内の企業(約1万8千社)で働く障害者が約15万8千人と公表。前年より5・8%増え、障害者雇用率は1・77%となり、それぞれ過去最高を更新し続けている。だが、障害者雇用促進法は従業員50人に1人(雇用率2%)以上の障害者雇用を義務づけており、達成に向け、企業側もさらに努力が求められている。
企業が注目しているのは障害者の職場体験だ。特別支援学校の生徒や障害者就労支援センターに登録した障害者が、地域の企業や店舗などで数日間、仕事を体験する。企業側は清掃や荷受け、皿洗いといった仕事を提供し、採用を想定しながら、コミュニケーションの図り方を習得する。
武蔵村山市障害者就労支援センター「とらい」は2010年から市内のイオンモールむさし村山で職場体験をしている。テナントに入る飲食店や雑貨店など十数店舗が受け入れる。
モール内のヤマト運輸支店で荷物の仕分けなどを体験した知的障害の男性(26)は「仕事の内容がよくわかった。楽しくできた」。仕事ぶりを見た支店側は「仕事の早さは劣るが、丁寧で手抜きがない。労災につながるような危ないことがなかった」と話す。
13年には職場体験から採用につながった。モール内に「東京洋食屋 神田グリル」を出店するジローレストランシステム(本社・渋谷区)が精神障害の男性をアルバイト採用した。フルタイムはきついという希望を優先して1日4時間、週5日の勤務。総務マネジャーの三和友晃さん(40)は「皿洗いや料理の仕込みからドリンクやデザートの配膳まで内容は健常者と変わらない。ふさぎこむときがあるが、店では『今日はしんどいですね』と話しかけたりしている」。
障害者雇用促進法で、従業員200人超の企業では、雇用率が足りないと1人につき年間60万円の障害者雇用納付金を課される。4月からは100人超の企業に広がるため、中小企業には不安も募る。
独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の東京障害者職業センター多摩支所(立川市)が昨年10月にハローワークと共催したセミナーには約150社が参加した。
吉澤純支所長によると、雇用の経験がない中小企業は不安が先に立つといい、「障害者にやってもらう仕事がない」「指導役を付けられない」といった相談の声が多く聞かれたという。
吉澤支所長は「身体障害者だけでは求人需要に追いつかないのが東京の現状。知的障害者や統合失調症、うつ病など精神障害者を雇わなければ、雇用率を満たせない」と指摘する。雇用したが障害者に適した業務や受け入れ態勢を用意できず、退職することも目立つという。
「(雇用率を伸ばすために)あせって結果を出そうとするとうまくいかない。体験実習を受け入れ、成功例をつくってほしい」と吉澤支所長は話す。
2015年1月28日 朝日新聞デジタル