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Channel: ゴエモンのつぶやき
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障害者虐待 人権守る理念の再認識を

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 知的障害のある男性を椅子に座らせ、頭上の壁に貼った的に向けて千枚通しを投げ付ける−。一瞬、耳を疑った。事実なら、とんでもないことだ。

 福岡県小郡市にある障害者就労支援施設の元次長が、そんな暴行容疑で福岡県警に逮捕された。現職だった昨年5月、施設内の作業場で起きた事件だという。男性にけがはなかった。元次長は「記憶にない」と容疑を否認している。

 昨年10月に「(次長が)暴力行為をしている」との通報を受け、福岡県が施設を2回にわたり立ち入り調査した。

 その結果、2010年夏ごろから、通所者の男性4人に暴力を振るっていた疑いがあるとして、施設を運営するNPO法人に改善を勧告している。同県警小郡署によると、施設職員や通所者の証言では、男性をエアガンで撃ったり、ザリガニのハサミで鼻を挟んだりする暴力行為を繰り返していた疑いもあるという。

 福岡県から通報を受けた佐賀県も、同県内の系列施設で立ち入り調査し、利用者に性的虐待などをしたことを認定した。今月5日には、障害者虐待防止法に基づき被害者3人のうち施設の利用を続けていた2人を、別の施設に移す「一時保護」の措置が取られている。

 NPO法人の理事長は容疑者の父親で、施設内部の聞き取り調査では暴行の事実は確認できなかったが「疑われたのは事実」として逮捕直前に次長を懲戒解雇している。釈然としない対応である。

 昨年12月には、北九州市で知的障害と精神障害があった女性の遺体が自宅の床下から見つかった。

 同居していた義妹が義母と共謀の上、昨年8月から9月にかけて虐待を繰り返し、女性を死なせたとして死体遺棄罪などで身内の2人が起訴されている。これまた、信じ難い事件である。

 「何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない」。そんな理念を掲げた障害者虐待防止法が施行されたのは昨年10月のことだ。にもかかわらず、痛ましい障害者虐待事件が相次ぐ。問題の根深さをあらためて認識せざるを得ない。

 同法は虐待が疑われる家庭や福祉施設に対する強制立ち入り調査や被害者保護を可能にしたのが最大の特徴だ。障害者への虐待を未然に防ぐのが目的だが、強制措置の実施にはプライバシーの問題もあって課題が多い。障害者自身に虐待の認識がない場合も少なくないという。

 「人命を第一に考え、行政は必要な介入をためらうべきではない。福祉に詳しい専門職員の養成や増員も急務だ」とする専門家の指摘に耳を傾けたい。施設や障害者のいる家庭などが、地域住民と日常的に交流できる環境整備を進めることも、虐待防止には有効だろう。

 障害者虐待防止法の通報対象から外れている学校や医療機関でも、虐待が起こる恐れは十分考えられる。一連の事件を機に、障害者の人権を守るという理念を社会全体で再確認し、共有したい。


=2013/02/19付 西日本新聞朝刊=

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