徳島市で全盲の視覚障害者の男性と盲導犬が、警報音を鳴らさずに後退してきたダンプカーにひかれて死亡した事故から、3日で1年になる。警報音は、世界各国で「騒音」として苦情が多く普及が課題となっており、国連で義務化に向けた協議が始まった。視覚障害者団体は「音は命を守るための重要な情報源」と理解を求めている。
スイス・ジュネーブの国連欧州本部で9月、国連の自動車基準調和世界フォーラム「騒音に関する専門家会議」が開かれた。出席した国土交通省の担当者によると、会議ではドイツが「車両の後退時の警報装置について統一的な基準を作りたい」と提案した。各国から異論はなく、大型車が後退する際の警報音を義務付けるため、音量や音色などの基準について協議に入る。ドイツやフランス、イタリア、日本、韓国など約50の国・地域の統一的な基準になる見通しだ。「警報音を騒音と捉える国民が多く、普及が遅れている」(独自動車メーカー)という事情が背景にある。 「騒音」苦情、後絶たず徳島市の事故でも、ダンプの運転手が以前の取引先から「うるさい」と注意され、警報音が鳴らないよう設定していた。全日本トラック協会は「業界への調査を通じ、警報音に対する苦情は少なくないと把握している」と話す。事故を機に徳島県は昨年12月、車の接近や後退を周囲に知らせる装置を備えた車両に、その使用を義務付ける全国初の条例を制定した。
警察庁によると、2015年に視覚障害者が巻き込まれた交通事故は全国で44件。徳島市での事故を含め3人が死亡し、12人が重傷を負った。うち14件が後退中の自動車による。自動車の後退時の安全確保について国交省は、警報音の義務化を最優先とせず、後方の視界を補う「バックカメラ」の普及などを優先する方針だ。「安全運転の義務は運転者にあり、歩行者に回避を促す警報音などの対策は補完的であるべきだ」(自動車局技術政策課)との立場からだ。
国交省に警報音の義務化を求めている日本盲人会連合の藤井貢(みつぐ)組織部長は「バックカメラとともに警報音の普及を進めるべきだ。警報音をうるさく感じる人もいるだろうが、国連での議論がルールづくりにつながってほしい」と期待している。
毎日新聞 2016年10月2日