万引きなどで8回服役した知的障害者の男性(60)=東京都葛飾区=が2002年以降、養子17人、養親10人の計27人と縁組を繰り返し、姓が12回変わっていたことが分かった。男性は「身に覚えがない」と話し、縁組の相手とも面識がないという。更生を支援する弁護士は「障害で理解できないことにつけ込み、何者かが勝手に偽装縁組をした」と訴え、男性は26日、養子縁組の無効確認を求めて東京家裁に提訴する。
養子縁組を交わせば養子側の姓が変わり、新たな名義で銀行口座開設や携帯電話契約などが可能になる。偽装縁組などで別人になりすます行為は「ネームロンダリング」と呼ばれ、振り込め詐欺グループや暴力団が悪用するケースが多いとされる。男性名義の口座も詐欺などの犯罪に利用された形跡があるという。
男性は路上生活と服役を繰り返す累犯障害者。訴状などによると、6回目の服役中だった02年4月に初めて養子縁組が交わされ、埼玉県に本籍がある男性の養子になった。その後、03年に養親2人▽04年に養親3人、養子3人▽07年に養親2人、養子5人▽08年に養親2人、養子4人▽09年に養子5人−−と縁組を重ねた。離縁などで前の姓に戻った時期もあり、これまでに計12回改姓されていた。
縁組届は主に関東地方の市役所や区役所に提出され、署名欄に記入された男性の名前の筆跡は本人のものとは異なるという。訴状で男性側は「あずかり知らない第三者が無断で届け出た」と主張している。
男性は11年8月、万引きで逮捕され、懲役1年6月の実刑が確定し、今年4月に出所した。東京都地域生活定着支援センターなどが社会復帰をサポートする過程で、ネームロンダリングの疑いが判明した。従来は、暴力団組員や関係者が共謀して偽装縁組し、犯罪に利用するケースが着目されていたが、弱い立場の累犯障害者が新たな標的になっている実態が浮かんだ。
男性の代理人を務める法テラス東京法律事務所の太田晃弘弁護士は「放置していれば、本人の知らないうちに養親の借金も相続しかねない。知的障害や路上生活で社会に埋もれていることを利用した悪質な人権侵害だ」と訴えている。
山田壮志郎・日本福祉大准教授は「路上生活者の個人情報が携帯電話の契約や身分証明書の作成に悪用された事態はあるが、養子縁組を偽装したこれほどの例は聞いたことがない。福祉の支援体制も整える必要がある」と指摘している。
【ことば】累犯障害者
犯罪を繰り返す障害者(主に知的障害者)。2011年に刑務所に入った人のうち、知的障害の疑いがある「IQ相当値70未満」と診断された人は5532人で全体の22%。生活苦から万引きや無銭飲食を重ねる例が多い。都道府県の地域生活定着支援センターが、こうした出所者を福祉に橋渡しする取り組みを進めている。
毎日新聞 2013年07月26日 08時29分(最終更新 07月26日 12時01分)
養子縁組を交わせば養子側の姓が変わり、新たな名義で銀行口座開設や携帯電話契約などが可能になる。偽装縁組などで別人になりすます行為は「ネームロンダリング」と呼ばれ、振り込め詐欺グループや暴力団が悪用するケースが多いとされる。男性名義の口座も詐欺などの犯罪に利用された形跡があるという。
男性は路上生活と服役を繰り返す累犯障害者。訴状などによると、6回目の服役中だった02年4月に初めて養子縁組が交わされ、埼玉県に本籍がある男性の養子になった。その後、03年に養親2人▽04年に養親3人、養子3人▽07年に養親2人、養子5人▽08年に養親2人、養子4人▽09年に養子5人−−と縁組を重ねた。離縁などで前の姓に戻った時期もあり、これまでに計12回改姓されていた。
縁組届は主に関東地方の市役所や区役所に提出され、署名欄に記入された男性の名前の筆跡は本人のものとは異なるという。訴状で男性側は「あずかり知らない第三者が無断で届け出た」と主張している。
男性は11年8月、万引きで逮捕され、懲役1年6月の実刑が確定し、今年4月に出所した。東京都地域生活定着支援センターなどが社会復帰をサポートする過程で、ネームロンダリングの疑いが判明した。従来は、暴力団組員や関係者が共謀して偽装縁組し、犯罪に利用するケースが着目されていたが、弱い立場の累犯障害者が新たな標的になっている実態が浮かんだ。
男性の代理人を務める法テラス東京法律事務所の太田晃弘弁護士は「放置していれば、本人の知らないうちに養親の借金も相続しかねない。知的障害や路上生活で社会に埋もれていることを利用した悪質な人権侵害だ」と訴えている。
山田壮志郎・日本福祉大准教授は「路上生活者の個人情報が携帯電話の契約や身分証明書の作成に悪用された事態はあるが、養子縁組を偽装したこれほどの例は聞いたことがない。福祉の支援体制も整える必要がある」と指摘している。
【ことば】累犯障害者
犯罪を繰り返す障害者(主に知的障害者)。2011年に刑務所に入った人のうち、知的障害の疑いがある「IQ相当値70未満」と診断された人は5532人で全体の22%。生活苦から万引きや無銭飲食を重ねる例が多い。都道府県の地域生活定着支援センターが、こうした出所者を福祉に橋渡しする取り組みを進めている。
毎日新聞 2013年07月26日 08時29分(最終更新 07月26日 12時01分)