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<キラリ★人生> がん克服し、障害者向けトイレ開発

 障害者対応トイレなどを製造、販売するエムズジャパン(浜松市)の社長、松井満さん(62)=浜松市中区=は振り返る。


 三十代で商社勤めを辞めて独立。サウナの装置を製造、販売する会社を出身地に近い浜松で興した。夜行列車も頻繁に使い、全国で装置を売りまくった。


 四十歳で転機が訪れた。腹の張りが続き、なんとなくだるい。冬の日、急に激しい腹痛に襲われ、市内の病院で調べたら大腸がんが見つかった。食べたこんにゃくの塊が、がんで細くなった大腸をふさいでいた。苦痛で冷や汗が止まらなかった。手術で大腸を約三十センチ切り取った。


 だが、その後も苦闘は続いた。今ほど発達していない抗がん剤の治療は、副作用も強かった。激しい吐き気や倦怠(けんたい)感との闘い。ベッドから起き上がるのも難しく、二時間かけてはってトイレを往復した。家族や看護師の介助は拒んだ。


 「人の助けを借りたくなかった。誰だって見られるのは嫌。それが人の尊厳では」


    ◇    ◇

 仕事に復帰して数年後、取引先から札幌市の米本英雄さん夫婦を紹介された。夫婦は、事故による脊椎損傷で下半身がまひし、オストメイト(人工肛門を付けている人)の息子について語った。


 「トイレ介助を嫌がるため、車いすでスムーズに入れ、楽に便座に移乗できる新しいトイレを考え、家につけた。息子は気に入ってくれた。息子を安心して外出させられるよう、このトイレを普及させたい。力を貸して」


 闘病中に自身が感じたことと重なった。知り合いの製造業者らの力も借りて一九九九年、障害者も健常者も使えるバリアフリータイプの「札幌式トイレ」を世に送り出した。同時に会社の業務も福祉機器の製造販売中心に変更。以後は障害者との接点が増え、さまざまな要望が寄せられるようになった。


 バリアフリー法などの後押しもあり、今はかなり普及しつつあるオストメイト対応トイレ。だが、同社が作り始めた十年前、対応トイレはほぼ皆無。このため、オストメイトは外出などの際、人工肛門から袋にたまる排せつ物の処理で、非常に不便を強いられていた。


 対応トイレには、通常の便器とは別に、排せつ物を流す水洗装置が必要だ。この装置の高さや排せつ物を流す受け皿の大きさなど、要望を基に障害者らの協力を得て設計、試作を重ねて製品を出す。新たな要望が寄せられれば改良する。汚物流し台が上下する昇降型、省スペース型、災害時用…。現在では九種類に増えた。


 「世の中にないものを作って、誰かが幸せになる。ものづくりは楽しいですよ」

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自社開発したオストメイト用トイレを前に、ものづくりへの思いを語る松井満さん=名古屋市港区で

中日新聞-2013年8月7日

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