障害者や社会的少数者(マイノリティー)に対する誤解や偏見を減らし、相互理解を深めるイベント「ヒューマンライブラリーin長崎」が24日、長崎市桜町の県勤労福祉会館で開かれる。人を「本」に見立てて「読者」(参加者)に貸し出す「生きている図書館」という設定で、本1冊に読者が多くて3人までという少人数で対話するのが特徴。同実行委の宮崎聖乃委員長は「親密な距離で場を共有し、互いを理解する強い共感力が生まれるのが魅力。ぜひ体験してみてほしい」と呼び掛けている。
「フェイスブックで友達やきょうだいにカミングアウトしたばかり。2週間前です」。性同一性障害で「中身は男性」という福岡県の大学生、福元沙季さん(22)が言うと、机を挟んで向き合っていた女性3人は一様に驚きの表情を浮かべた。
6月8日、長崎市興善町の市立図書館で開かれた「プチ・ヒューマンライブラリー」。読者はブックリストから読みたいを本を予約し、同じテーブルに着いて会話する。時間は30分。1冊目が終われば、休憩を挟んで2冊目の読書に移る。「色」によって心身を癒やす「パステルアート」教室の代表や障害児向け工作教室の代表、イスラム教徒、そして福元さんの4人が本になり、読者8人が参加した。
福元さんは中学生の時に自身の性への違和感を自覚。いずれは性別適合手術を受けて戸籍上の性別も変更、結婚したいと考えている。本として初参加したこの日は女性との交際経験や両親との関係など葛藤に満ちた胸の内を打ち明けた。
「自分の性同一性障害について話すのは怖かった。でも『わりと自然体だね』と言われた時はまた一人、偏見が消えてよかったと思ったし、私自身に偏見があることにも気付かされた」と言う。
「読者」として参加した県立大3年の嶽知子さん(24)は「自分の価値観の枠が広がった。私もつらい経験をしたことがあるが、自分だけじゃないんだと励まされた気がする」と感想。同市の会社員、志田正和さん(39)は「障害者が置かれている厳しい現状や同じ目線で考えることの大切さが分かった」と話した。
ヒューマンライブラリーは2000年、デンマークのロック音楽祭の企画で開かれたのが始まり。読者と本の両方に偏見の低減や多様性への気付きなどをもたらす効果が期待され、今では世界60カ国以上に拡大。日本でも明治大などの主催で開かれてきた。
長崎での開催は、活水女子大准教授の宮崎さんが昨年、東京であった日本語教育学会の研修会でヒューマンライブラリーを経験したのがきっかけ。自身が代表を務める多文化共生を目指すNPO「いろは塾」を中心に実行委を組織、県社会福祉協議会の助成金も受けて準備を進めてきた。
宮崎さんはヒューマンライブラリーについて「本と読者が理解を深める共同作業的な側面がある。近しい距離感と共感性によって『マイノリティーの話を聞いた』ではなく、『○○さんの話を聞いた』と感じられる点も大きな魅力」と話している。
24日は義足生活者ら障害者や介護者、性的マイノリティー、在日外国人ら7人が「本」となる予定。午前の部(10時〜正午)と午後の部(1〜3時)で、2冊ずつ読書できる。予約は各部とも先着順で午前9時半、午後0時半から受け付ける。無料。問い合わせは同塾(iroiroiroha@hotmail.com)。
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福元沙季さん(手前)の話を聞く「読者」たち=長崎市立図書館
(2013年8月22日更新)長崎新聞
「フェイスブックで友達やきょうだいにカミングアウトしたばかり。2週間前です」。性同一性障害で「中身は男性」という福岡県の大学生、福元沙季さん(22)が言うと、机を挟んで向き合っていた女性3人は一様に驚きの表情を浮かべた。
6月8日、長崎市興善町の市立図書館で開かれた「プチ・ヒューマンライブラリー」。読者はブックリストから読みたいを本を予約し、同じテーブルに着いて会話する。時間は30分。1冊目が終われば、休憩を挟んで2冊目の読書に移る。「色」によって心身を癒やす「パステルアート」教室の代表や障害児向け工作教室の代表、イスラム教徒、そして福元さんの4人が本になり、読者8人が参加した。
福元さんは中学生の時に自身の性への違和感を自覚。いずれは性別適合手術を受けて戸籍上の性別も変更、結婚したいと考えている。本として初参加したこの日は女性との交際経験や両親との関係など葛藤に満ちた胸の内を打ち明けた。
「自分の性同一性障害について話すのは怖かった。でも『わりと自然体だね』と言われた時はまた一人、偏見が消えてよかったと思ったし、私自身に偏見があることにも気付かされた」と言う。
「読者」として参加した県立大3年の嶽知子さん(24)は「自分の価値観の枠が広がった。私もつらい経験をしたことがあるが、自分だけじゃないんだと励まされた気がする」と感想。同市の会社員、志田正和さん(39)は「障害者が置かれている厳しい現状や同じ目線で考えることの大切さが分かった」と話した。
ヒューマンライブラリーは2000年、デンマークのロック音楽祭の企画で開かれたのが始まり。読者と本の両方に偏見の低減や多様性への気付きなどをもたらす効果が期待され、今では世界60カ国以上に拡大。日本でも明治大などの主催で開かれてきた。
長崎での開催は、活水女子大准教授の宮崎さんが昨年、東京であった日本語教育学会の研修会でヒューマンライブラリーを経験したのがきっかけ。自身が代表を務める多文化共生を目指すNPO「いろは塾」を中心に実行委を組織、県社会福祉協議会の助成金も受けて準備を進めてきた。
宮崎さんはヒューマンライブラリーについて「本と読者が理解を深める共同作業的な側面がある。近しい距離感と共感性によって『マイノリティーの話を聞いた』ではなく、『○○さんの話を聞いた』と感じられる点も大きな魅力」と話している。
24日は義足生活者ら障害者や介護者、性的マイノリティー、在日外国人ら7人が「本」となる予定。午前の部(10時〜正午)と午後の部(1〜3時)で、2冊ずつ読書できる。予約は各部とも先着順で午前9時半、午後0時半から受け付ける。無料。問い合わせは同塾(iroiroiroha@hotmail.com)。

福元沙季さん(手前)の話を聞く「読者」たち=長崎市立図書館
(2013年8月22日更新)長崎新聞