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障害者虐待防止法、施行から1年 困窮した家族に支援を/神奈川

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 障害者虐待防止法の施行から1年余り。厚生労働省が今月11日にまとめた施行後半年間の虐待件数は、全国で1500人超に上る。被害が表面化しにくいとされてきた障害者虐待で、初めて明らかになった実態から見えてくる課題は何か−。福祉の現場と行政の両面から障害者施策に携わる鈴木敏彦・和泉短期大学教授に聞いた。

 −今回の集計結果をどう受け止めたか。

 「今まで見えていなかった実態が、初めて明らかになったということは大きな成果だ。都道府県の件数のばらつきは、地域の取り組みの違いが出ていると見ざるを得ない。他県では虐待ゼロという報告もあるが、果たして本当か。障害者は生きていく地域を選べない。仮に虐待に直面していても発見してもらえないことがあってはならない。今回の集計結果が氷山の一角ということは言うまでもなく、地域の感度を高めることが大切だ」

 −通報を受ける市町村の態勢は整っているか。

 「市町村が立ち入り調査や一時保護、後見審判請求などを行うスキームを国は示しているが、全ての市町村が対応できるわけではない。警察、病院、施設などとネットワークを構築してきたか、専門的な人材を配置しているか−などの違いが地域差を生じさせている。先行して成立した児童虐待や高齢者虐待、DV(ドメスティックバイオレンス)といった各防止法に沿って市町村が積み上げてきた実績が問われている」
 「虐待対応は本当に難しく、家族が介入を拒み、施設側が協力しない場合もある。短期的には介入するスピード感と、長期的には虐待を受けた障害者が普通の生活に戻っていくための支援が求められる。行政には、いざというときには障害者を何としても守り抜く、という強い覚悟が期待されている」

 −家族による虐待件数が大半を占めている。

 「追い詰められている家族の姿がうかがえる。障害者を同居家族が支えていく場合、気力や体力、その他にいろいろなものが必要になる。集計によれば、虐待者のうち50歳以上の中高年層が半数以上を占めており、家族の高齢化が引き金となっているのではないか。風呂に入れたり、暴れたときになだめたりすることが体力の衰えとともに難しくなり、思わず手を上げてしまうこともある」
 「続柄では男性が多い。例えば、定年退職後の父親が、それまで主に母親が担ってきた子どもの支援に初めて関わって苦労するようなケースもある。また、経済的虐待が比較的目立つのは、障害者の年金にすがらなければ暮らしていけない家族の窮状もあるのではないか」

 −家庭内の虐待防止は、どのような対応が必要か。

 「集計結果では、4人に1人が福祉サービスを利用していない。家庭内で頑張ってきたが、支えきれなくなり、虐待という形で表に出てきたことになる。虐待は許されない行為だが、障害者本人だけでなく家庭全体の支援を行わなければなくせない。さらに障害者は児童虐待やDVなど、あらゆる虐待を人生の中で背負う可能性がある。児童、DV、高齢者、障害者−という四つの虐待防止策を横軸でつないだ対応ができるかも大きな課題となる」

 −施設職員による虐待はどう見るか。

 「施設の分類をみると、半数が入所施設やグループホームなど障害者の日常の生活の場で起きている。まずは不適切なケアや支援が虐待につながるという職員の自律が必要だ。職員自らが、権利擁護者から権利侵害者に転じる可能性があることを十分に認識しなければならない。虐待は突発的に起きるわけではない。コップの表面張力に例えると、中を満たしていく水が『不適切な関わり』で、最後の1滴がポツンと入り、水があふれる。それが虐待のイメージだ。利用者に対する日常の言葉遣いが荒い職員などは危うく、日々の中で不適切な行為を起こさせないという取り組みが大事だ」

 −どんな対応が必要か。

 「とてもストレスフルな仕事なので、施設側が職員を支援する仕組みもしっかりつくらなければならない。難しいケースを担当職員だけで抱え込まないようにする態勢づくりのほか、先輩職員からのアドバイスやストレスマネジメントという研修も必要だ。神奈川では、ボランティアが施設を訪れて入居者の相談に応じる『福祉オンブズマン』の活動が盛んだ。こうした活動を施設が受け入れることで不適切な行為が早めに見つかるきっかけになることもある」

 −地域社会はどう向き合うべきか。

 「児童虐待と比べればまだまだ知られていない。多くの県民が障害者虐待の存在を知り、許されないものだと共感して初めて通報に結びつく。いざ通報となると『違っていたら不安』と躊躇してしまう人もいるかもしれないが、本当に起きていたら障害者が死に至るケースもあることに想像力を働かせてほしい。法律にあるよう、通報は国民の義務だ。間違ってもいい。行政だけが頑張っても虐待は防げない。地域社会の一人一人が考え、行動することが大切だ」


◆すずき・としひこ
 和泉短期大学(相模原市中央区)児童福祉学科教授。社会福祉士。社会福祉法人試行会(横浜市青葉区)理事。県障害者地域自立支援協議会権利擁護部会副部会長、横浜市障害者施策推進協議会障害者施策検討部会委員などを務める。43歳。

カナロコ(神奈川新聞)-2013年11月20日


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