たんの吸引などの医療的ケアが必要となる児童・生徒が、特別支援学校に通う際の通学手段がないとして、保護者らが改善を訴えている。多くの学校が、スクールバスに医療的ケアを行える看護師らを配置していないためだ。保護者がマイカーでの送迎を余儀なくされ、送迎できない日には、学校を休ませなければならないことも。識者は「通学の権利を守るために対策が必要だ」と指摘する。
◆送迎重い負担
大阪市東淀川区の高瀬真由美さん(51)はこの10年間、三女の高校1年、愛華さん(16)を車に乗せて市立光陽特別支援学校まで朝夕、往復している。脊髄小脳変性症の愛華さんは、体がほとんど動かせない。誤飲による肺炎を防ぐため器官を切開しており、たんの吸引が必要で、学校側からは一人でのスクールバス乗車が認められていない。
片道30分だが、送迎中にヒヤリとすることも多い。愛華さんが苦しそうにすると慌てて路肩に車を寄せる。様子を見るため夜中に何度も起きねばならず、運転中に眠気が襲うことも。自身の体調不良を理由に、学校を休ませる日もある。
週3回、教師に自宅に来てもらう「訪問学習」を選ぶこともできた。しかし、学校では、同級生との交流や給食、プールなど、自宅ではできない体験も多い。何より娘の笑顔が増える。「いつまで生きられるかわからない娘には、できるだけのことをしてやりたい」と高瀬さんは話す。
◆学ぶ権利尊重を
2010年2月、高瀬さんは他の保護者や学校関係者らと「大阪市立特別支援学校の医療的ケアを考える会」を設立、署名活動などで市教委にバス通学が可能になるよう対策を求めてきた。しかし、同じ境遇の保護者は市内でも20人弱。大きなうねりにはならず、対策はとられないままという。
看護師同乗の自治体も 国の対応鈍く
重度の身体障害を持つ児童・生徒の通学手段の確保について、国の対応は鈍く、自治体任せなのが現状だ。
文部科学省は「通学は保護者の責任で安全を確保するのが原則」との考えで、たんの吸引などが必要な児童・生徒のスクールバス利用を認めることには消極的。同省の担当者は「福祉行政の範囲」とする。
一方、厚生労働省は「通学や通所の手段は、受け入れ施設側が用意すべきだ」とし、外出時に看護師が付き添う移動介助サービスの利用も、通学・通所は対象外としている。
そんな中、独自の負担で対策を進める自治体も。兵庫県伊丹市は、市の予算で看護師を雇用。市立伊丹特別支援学校の生徒4人のため、輪番制で毎日スクールバスやタクシーに同乗させて送迎している。
同県川西市の市立川西養護学校も年間約450万円の予算で市がタクシー会社と契約、看護師を同乗させて送迎する。
滋賀県は昨年度、保護者からの要望を受け、バスが使えず送迎が必要な児童・生徒の実態調査を実施。調査結果をもとに今後の対応を検討するとしている。
医療的ケア 日常的に必要となる医療行為で原則、医師、看護師、本人や家族しか行えない。特別支援学校内では「たんの吸引」「経管栄養」「導尿補助」の三つに限り、看護師の指導を受けた教員が実施できる。
(2013年12月21日 読売新聞)
◆送迎重い負担
大阪市東淀川区の高瀬真由美さん(51)はこの10年間、三女の高校1年、愛華さん(16)を車に乗せて市立光陽特別支援学校まで朝夕、往復している。脊髄小脳変性症の愛華さんは、体がほとんど動かせない。誤飲による肺炎を防ぐため器官を切開しており、たんの吸引が必要で、学校側からは一人でのスクールバス乗車が認められていない。
片道30分だが、送迎中にヒヤリとすることも多い。愛華さんが苦しそうにすると慌てて路肩に車を寄せる。様子を見るため夜中に何度も起きねばならず、運転中に眠気が襲うことも。自身の体調不良を理由に、学校を休ませる日もある。
週3回、教師に自宅に来てもらう「訪問学習」を選ぶこともできた。しかし、学校では、同級生との交流や給食、プールなど、自宅ではできない体験も多い。何より娘の笑顔が増える。「いつまで生きられるかわからない娘には、できるだけのことをしてやりたい」と高瀬さんは話す。
◆学ぶ権利尊重を
2010年2月、高瀬さんは他の保護者や学校関係者らと「大阪市立特別支援学校の医療的ケアを考える会」を設立、署名活動などで市教委にバス通学が可能になるよう対策を求めてきた。しかし、同じ境遇の保護者は市内でも20人弱。大きなうねりにはならず、対策はとられないままという。
看護師同乗の自治体も 国の対応鈍く
重度の身体障害を持つ児童・生徒の通学手段の確保について、国の対応は鈍く、自治体任せなのが現状だ。
文部科学省は「通学は保護者の責任で安全を確保するのが原則」との考えで、たんの吸引などが必要な児童・生徒のスクールバス利用を認めることには消極的。同省の担当者は「福祉行政の範囲」とする。
一方、厚生労働省は「通学や通所の手段は、受け入れ施設側が用意すべきだ」とし、外出時に看護師が付き添う移動介助サービスの利用も、通学・通所は対象外としている。
そんな中、独自の負担で対策を進める自治体も。兵庫県伊丹市は、市の予算で看護師を雇用。市立伊丹特別支援学校の生徒4人のため、輪番制で毎日スクールバスやタクシーに同乗させて送迎している。
同県川西市の市立川西養護学校も年間約450万円の予算で市がタクシー会社と契約、看護師を同乗させて送迎する。
滋賀県は昨年度、保護者からの要望を受け、バスが使えず送迎が必要な児童・生徒の実態調査を実施。調査結果をもとに今後の対応を検討するとしている。
医療的ケア 日常的に必要となる医療行為で原則、医師、看護師、本人や家族しか行えない。特別支援学校内では「たんの吸引」「経管栄養」「導尿補助」の三つに限り、看護師の指導を受けた教員が実施できる。
(2013年12月21日 読売新聞)