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負担増で運営に影響も 知的障害者施設スプリンクラー義務化

 今年二月、長崎市の認知症高齢者グループホームで起きた火災死亡事故を受けて、少数の知的障害者らが共同生活する小規模施設にも来年度から、スプリンクラー設置を義務付ける方向で消防庁が政令改正を進めている。設置費や管理の問題が、新規開設や運営継続のネックになる可能性がある。福祉関係者らは「地域で暮らす選択肢を奪わないよう配慮を」と訴えている。

 「業者見積もりで三百万円かかるそうです」。愛知県安城市内で知的障害者のグループホームを運営する「ぬくもり福祉会」の飯野恭央(やすお)さん(44)は、二階建て民家を転用した5LDKの施設のスプリンクラー設置に違和感を覚える。利用する知的障害者は現在四人で、延べ床面積は百八十平方メートル。二百七十五平方メートル以上に設置が義務づけられる現行規制からは外れているが、政令改正やその運用次第では対応を迫られる。

 同会の世話人が常に寝泊まりし、自動火災通報装置も備えている。定期的に避難訓練も実施。「建物が広くないので、実際に避難時間はかからない」。スプリンクラーを付ければ、周辺住宅と比べて飛び抜けた防火態勢になる。「費用負担も大きいが、普通の暮らしの場として認めてもらえないのが残念」と漏らす。

 福祉関係者らは、スプリンクラーの効果を否定しない。ただ、四階建て延べ約五百八十平方メートルに十七人がいた長崎の火災を機に、なぜ一般住宅規模の施設に適用を広げるのか、現場担当者は理解に苦しむという。

 名古屋市内で一般住宅を活用し、複数の知的障害者グループホームを運営する「さふらん会」の繁原幸樹(しげはらこうき)さん(31)は、防火設備のハード面に偏りがちな消防行政に疑問を投げかける。消防の厳しい指導で、間口の狭い玄関に避難誘導灯を二十万円かけて設置したが、実際には広いリビングから縁側に抜けた方が早い。

 「何が有効かを話し合おうとしても、『決まりなので』の一辺倒。検査でも利用者が作業所などに出かけて誰もいない時間に来て、建物と書類しか見ない。入所者個人の能力やソフト面の対策を見てくれない」。障害があっても地域の一員としての生活を支えようとする繁原さんらと、消防現場の意識の差は大きい。

 全日本手をつなぐ育成会(東京)の室津大吾さん(36)は「障害者グループホームの供給が滞り、地域で暮らす場の選択肢が狭まってしまう」と指摘。グループホームが運営されている物件の七割は賃貸。家主が設備の費用負担や管理上のリスクを避け、借りられる物件が減るのを心配する。さらに「行き場を失った障害者が高齢の親との同居に戻ったり、設備とケアが不十分な施設を利用したりして、より危険な状態になる可能性もある」と危ぶむ。

 国は今月中旬に閣議決定された本年度の補正予算案に、社会福祉施設のスプリンクラー設置費を補助する予算を計上。消防庁予防課は「全施設で必要とは考えておらず、設置義務を課さない例外規定を今後の検討会で考える」という。障害者が地域社会で共生することを目指す、障害者基本法の理念を踏まえた施策が求められる。

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自動火災通報装置を設置した知的障害者グループホーム。4人が利用する5LDKの民家で、さらにスプリンクラー設置を課せられる可能性も=愛知県安城市で
東京新聞-2013年12月26日

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