エイズウイルス(HIV)感染者で、企業や自治体の障害者雇用枠を活用した就職に関心が高まっている。事前に感染を会社に開示するため、通院などの健康管理がしやすく、隠して働くストレスから解放されるという。企業などの障害者法定雇用率が、四月から0・2ポイント引き上げられたことも背景にある。
HIV感染者は「免疫機能障害者」として、身体障害者手帳を取得できる。企業は雇用すれば障害者雇用率に算定できるが、感染者が会社に伝える義務はなく、偏見や無理解を恐れ、伏せたまま働くケースが多いようだ。
関東地方の衣料品関係の会社で働く四十代男性は二年前、障害者枠で正社員採用された。面接時に感染を伝え、配属前には職場でHIV勉強会を開催。二カ月に一度、通院が必要な現在の自分の状況や、将来の夢を説明。「自分の取扱説明書のようなもの。周りに理解しておいてほしい」
男性は二〇〇四年に感染が判明。前の会社では個人情報が保護されるか不安で、伝えなかった。当時は月一回、平日に有給休暇を取って通院。税金の障害者控除も会社に知られないよう、確定申告で還付を受けていた。現在は会社が状況を把握しているため、余分なことに気を取られず仕事に集中。収入は減ったが「気兼ねなく通院でき、働きやすい」。
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障害者枠で就職したHIV感染者の障害者手帳。障害名に「免疫機能障害(2級)」とある=東京都内で(一部画像処理)
厚生労働省によると、全国のハローワークに免疫機能障害者として昨年、登録した新規求職者は九百八十九人で、このうち就職できた人は二百四十九人と、徐々に増えている=グラフ。同省研究班が〇九年に実施した調査では、就労中のHIV感染者約八百七十人のうち、障害者枠を活用したのは3・1%。一方で未就労者約二百六十人の64%が枠の利用に意欲的だった。
調査を担当し、HIV感染者の就労を支援するNPO法人「ぷれいす東京」代表の生島嗣(ゆずる)さん(55)は「感染が知られないかという、精神的負担を減らして働きたい人が増えているのでは」と分析する。
障害者枠での待遇は非正規で給与が低かったり、仕事が単純な内容が多かったりする。それが近年は変わりつつある。人材紹介会社「インテリジェンス」(東京)によると、システムやコンサルタント、コールセンターなど高い技能や語学を必要とする業種で、働く上で比較的制約の少ないHIV感染者の能力を買い、障害者枠の半分を採用する企業も出てきた。
経営的に多様な人材を確保する観点から、アクサ生命やジョンソン・エンド・ジョンソンは、これまで一人〜数人の感染者を障害者枠で事務職などに採用。日本IBMでは障害者枠を設けず、一般と同じ選考で現在、営業職やエンジニアら四人(自己申告分)が働く。日本IBMは「能力を発揮するため必要なことは、本人に提案してもらい、最大限実現に努める。それが会社の利益につながる」と話す。
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働く上で感染者に健康上の問題はないのか。エイズ治療に携わる国立病院機構名古屋医療センター(名古屋市中区)の医師、横幕能行(よこまくよしゆき)さん(43)によると、一日一回一錠から数錠の薬を服用する治療を続ければ、健常者と同様に働くことができる。「エイズは既に『死の病』ではない。早期に治療を始め、定期的に通院すれば定年まで十分働ける」という。日常生活でウイルスが唾液や汗、くしゃみ、せきなどでうつることはなく、「普通の接し方をしていれば、職場で感染することはない」と断言する。
ただ、偏見や差別も根強い。生島さんによると障害者枠で応募しても、面接で障害名を明かしただけで断られたり、職場に感染を伝えた後、休職に追い込まれたケースもあるという。「どこまで職場に開示するかや病状など、感染者の状況はさまざま。本人と雇用者側が十分話し合いながら、相談窓口を明確にしておくことが大切」と指摘する。
中日新聞 : 2013年12月27日
HIV感染者は「免疫機能障害者」として、身体障害者手帳を取得できる。企業は雇用すれば障害者雇用率に算定できるが、感染者が会社に伝える義務はなく、偏見や無理解を恐れ、伏せたまま働くケースが多いようだ。
関東地方の衣料品関係の会社で働く四十代男性は二年前、障害者枠で正社員採用された。面接時に感染を伝え、配属前には職場でHIV勉強会を開催。二カ月に一度、通院が必要な現在の自分の状況や、将来の夢を説明。「自分の取扱説明書のようなもの。周りに理解しておいてほしい」
男性は二〇〇四年に感染が判明。前の会社では個人情報が保護されるか不安で、伝えなかった。当時は月一回、平日に有給休暇を取って通院。税金の障害者控除も会社に知られないよう、確定申告で還付を受けていた。現在は会社が状況を把握しているため、余分なことに気を取られず仕事に集中。収入は減ったが「気兼ねなく通院でき、働きやすい」。

障害者枠で就職したHIV感染者の障害者手帳。障害名に「免疫機能障害(2級)」とある=東京都内で(一部画像処理)
厚生労働省によると、全国のハローワークに免疫機能障害者として昨年、登録した新規求職者は九百八十九人で、このうち就職できた人は二百四十九人と、徐々に増えている=グラフ。同省研究班が〇九年に実施した調査では、就労中のHIV感染者約八百七十人のうち、障害者枠を活用したのは3・1%。一方で未就労者約二百六十人の64%が枠の利用に意欲的だった。
調査を担当し、HIV感染者の就労を支援するNPO法人「ぷれいす東京」代表の生島嗣(ゆずる)さん(55)は「感染が知られないかという、精神的負担を減らして働きたい人が増えているのでは」と分析する。
障害者枠での待遇は非正規で給与が低かったり、仕事が単純な内容が多かったりする。それが近年は変わりつつある。人材紹介会社「インテリジェンス」(東京)によると、システムやコンサルタント、コールセンターなど高い技能や語学を必要とする業種で、働く上で比較的制約の少ないHIV感染者の能力を買い、障害者枠の半分を採用する企業も出てきた。
経営的に多様な人材を確保する観点から、アクサ生命やジョンソン・エンド・ジョンソンは、これまで一人〜数人の感染者を障害者枠で事務職などに採用。日本IBMでは障害者枠を設けず、一般と同じ選考で現在、営業職やエンジニアら四人(自己申告分)が働く。日本IBMは「能力を発揮するため必要なことは、本人に提案してもらい、最大限実現に努める。それが会社の利益につながる」と話す。

働く上で感染者に健康上の問題はないのか。エイズ治療に携わる国立病院機構名古屋医療センター(名古屋市中区)の医師、横幕能行(よこまくよしゆき)さん(43)によると、一日一回一錠から数錠の薬を服用する治療を続ければ、健常者と同様に働くことができる。「エイズは既に『死の病』ではない。早期に治療を始め、定期的に通院すれば定年まで十分働ける」という。日常生活でウイルスが唾液や汗、くしゃみ、せきなどでうつることはなく、「普通の接し方をしていれば、職場で感染することはない」と断言する。
ただ、偏見や差別も根強い。生島さんによると障害者枠で応募しても、面接で障害名を明かしただけで断られたり、職場に感染を伝えた後、休職に追い込まれたケースもあるという。「どこまで職場に開示するかや病状など、感染者の状況はさまざま。本人と雇用者側が十分話し合いながら、相談窓口を明確にしておくことが大切」と指摘する。
中日新聞 : 2013年12月27日