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障害者の地位向上を目指す「エイブル・アート」という流れ

  障害を持っているからというイメージではなく、一人の人間だと認識した時に障害者が持つ個性や表現能力の可能性は、必ずしも一般の人たちに劣っているとは言えないものだ。時に、その独創的で枠に囚われない表現が大きな評価を得ることもある。時に、何か一つのものに没頭して書き続けた絵画や彫刻などは、一般の人では考えもつかない方法で表現を行うことがある。そうした個性を持った人の活動や、その表現活動によって作られたプロダクトとしての価値を 認めていかない限り、いつまでたっても障害者たちの立場は改善されない。

エイブル・アート、そして「Good job!展」へとつながる、社会的マイノリティが持つ個性をデザインに活かす活動

障害者によるアートを捉え直す動きは、以前から起き始めている。1995年から始まったABLE ART MOVEMENT(可能性の芸術活動)という活動は、エイブル・アート・ジャパンが主導する運動で、障害者芸術自体を「エイブル・アート」といった用語としても一般的に定着している。

目的は2つあり、それまで価値の低いものとみられてきた障害者芸術の素晴らしさを広め、障害者自体の地位を高めること。もう一つはそうした活動を通じて誰もが疎外されない社会を目指すことだという。この考えに共感したトヨタ自動車は、1996年からこれまでに34都市で63回開催した「トヨタ・エイブル・アート・フォーラム」を行ってきた。このフォーラムはエイブル・アート・ムーブメントが地域に根付くことを目的としており、2年連続で開催して1年目はシンポジウム、2年目はワークショップで構成されていたという。他にも、近畿労働金庫と取り組んでいるアートプロジェクト「エイブルアート近畿ひと・アート・まち」や、明治安田生命と舞台表現の可能性を追求した「エイブル・アート・オンステージ」など、さまざまな団体や企業が、障害者アートに関連した活動を行ってきた。

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企業とコラボした新しいデザイン製品の展示「Good Job!展」

こうしたエイブル・アート・ジャパンの活動の中心を担っている団体の一つが、財団法人たんぽぽの家だ。 たんぽぽの家は、障害のある人たちのための場作りや、自分らしくありたいと考える個人の生き方を支えるためのコミュニティづくりを行っている。また、これ までのプロダクトのメインターゲットから外れていた高齢者や障害を持った人たちを積極的にデザインのプロセスに参加させる「インクルーシブデザイン」をも とにしたユーザー参加型のワークショップの企画・コーディネートなども企画するなど、共創社会を見出す活動を行っている。今回、これまでのエイブル・アー トを通じて生まれた数十名のアーティストたちの表現の可能性の幅を広げるために、企業と協働して新しい製品開発を行なうGood Job!プロジェクトがスタートし、その展示会として「Good Job!展」がスタートした。

Good Job!展は、たんぽぽの家が運営事務局として11月29日から12月1日まで東京の渋谷ヒカリエにて、12月15日から12月17日まで宮城のせんだい メディアテークにて開催された。また、2014年2月15日から17日まで、福岡のイムズでもGood Job!展が開催される。出展には、靴下専門店のTabioとハンカチ専門店のH TOKYO、Able Art Campanyがコラボして2013年9月から販売しているハンカチと靴下や、コクヨファニチャーとたんぽぽの家、Able Art Campanyで制作したロビーチェア、博多織織元のサヌイ織物とNPO法人まるが製品開発して完成したブランド「marugococi」による風呂敷など、10数点以上ものプロダクトが展示・販売がされている。

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社会貢献という意識から脱却し、ものづくりとしてのプロダクトへと昇華

たんぽぽの家の岡本太郎氏に、展示期間中のヒカリエで話を聞くことができたので、今回の目的などについて話を伺った。 ヒカリエの8階にある展示スペースでは、アートやデザインといったクリエイティブに興味関心のある人が集まりやすい。せんだいメディアテークでも、同様に クリエイティブに関心の高い人たちが集いやすい。そうした場所で展示を行うことで、これまでのエイブル・アートといったアートに興味がある人たちだけでは なく、デザインやプロダクトに関心の高い人や、デザイナーといった人たちにも、その実物を触ってもらうことを目的としている。より、一般の人たちに対して も注目してもらうためにも、アクセサリーや靴下、織物や椅子といった一般の人たちの普段の生活に馴染みのあるプロダクトを軸に製品が作られている。

今回のGood Job!展を通じて感じるのは、これまでの障害者デザインのイメージを払拭し、しっかりとしたプロダクトデザインとしての色合いが強いことだ。同時に、展 示されているプロダクトそれ自体のクオリティも高く、一般的に企業が制作したプロダクトとも遜色ないものだ。アーティストとしての表現力と、ものづくりに 向き合うデザイナーや企業とが手を組み、これまでにない新しいプロダクトが作られている。やもすると「障害者が作った」というメッセージが強く出すぎると、プロダクトとしての価値を評価しずらいというイメージがあるが、Good Job!展ではあくまでプロダクトとしてのクオリティをあげ、製品としての価値を見出そうととしている。

「企業の方たちも、社会貢献という意識だけではなく、きちんとしたプロダクト のデザインとして認識した上で、クオリティにもこだわって私たちも含めて互いにプロ意識を持って商品開発に取り組んできました。一般の方たちも一プロダク トとして見てもらいながら、価値を認識して購入していただいたり製品を気に入ってもらったりしています」(岡本氏)

製品の多くも、メイドインジャパンや素材にこだわって作られている。アーティストの個性がうまくデザインに活かされているという意味でも、多様な立場や業種の人たちが協働して作られている製品と言える。す でに、全国の企業やクリエイターからも問合せがきており、こうした展示やセミナーなどを全国に広げていきたいと岡本氏は語る。Good Job!プロジェクト事務局としても、アーティストと企業の間に入り、新しいプロダクトづくりのための活動を引き続き行っていきながら、今後はここでしか できない製品づくりも提案していきたいという。

福祉=社会貢献という意識から脱却し、本来のものづくりとしてのプロダクトへ と昇華させていく。施設のものづくりという価値を見直し、障害者に対して単純労働や低価格のお金しか支払われない現状から脱却し、デザインとしての価値を 高めることで福祉活動としての価値を見出すGood Job!展のプロダクトは、従来の「かわいそう」といった同情から脱却し、社会貢献を通じたプロダクトの再構築を図る動きかもしれない。

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福祉と仕事のこれからの関係を見直すために

エイブル・アートと比較されるものとして、アウトサイダー・アートと言われて いるものがある。アウトサイダー・アートとは、アートに関連した教育訓練を受けておらず、既成のアートの流派や傾向、モードに一切とらわれることなく自然 に表現した作品のことを指し、障害の有無に関わらず既成の芸術概念の枠組みやしきたりに囚われることなく独自に生み出したアートであると考えられている。 内なる欲求や表現活動に突き動かされて制作された作品からは、作者そのものが持つ魅力をひしひしと感じさせ、魂を震わせるものも多い。

エイブル・アートとアウトサイダー・アート。同じように捉えがちなものではあ るものの、前者はより障害者の地位向上といった社会運動に近い。今回のGood Job!展で言えば、企業とのコラボレーションなどを通じて製品価値を高めるという意味において、もはやアートではなくデザインの領域に寄っているものな のかもしれないと、私個人としては考える。障害のある人たちの社会において新しい仕事を生み出すこと。タイトルにもあるように「Good Job!」を作り出すためには、デザイン思考をもとに製品としての価値を見出すことを主眼にしている。

アートは、作者が持つ表現欲求といったより内発的なものであるとするならば、 デザインは製品価値といったユーザーのための設計を行うという意味では、外発的なものに起因する。もちろん、どちらが良くてどちらが悪いというものではな いが、アートでデザインを明確に分ける一つの基準として考えておくべきものだ。Good Job!展に展示されているプロダクトは、障害をもつ人が表現した作品をいかにプロダクトデザインに落としこむかという、企業の技術やデザイナーとの協働 作業が求められる意味でも、デザイン的思考をもとにしている。

障害者がもつ可能性や個性ある表現を、アートで見出すかプロダクトデザインで見出すか、どちらの可能性も大いにある。障害者も含めた社会的なマイノリティの居場所を作り出し、誰もが生きやすい社会を作るという意味では、さまざまな方法が考えられる。福祉と仕事のこれからの関係を見直す意味でも、今回のGood Job!展は、これまでにない新しいアートとデザインを考えさせるものだと言えるかもしれない。

記事 江口晋太朗 (取材協力:日本財団) 2014年01月07日 06:58

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