17年前の交通事故で脳を損傷し、記憶などに障害がある福岡県春日市の安辺真志(あべしんじ)さん(40)が1月、リハビリを経ての就職やボランティア活動の努力を認められ、春日市から表彰された。昨秋、大分市であった日本脳外傷友の会全国大会でも九州で唯一、当事者活動奨励賞を受賞した。全国で50万人が苦しんでいるとされ、誰でもなる可能性がある高次脳機能障害だが、社会的理解度は低いのが現実だ。周囲は「高次脳機能障害者の希望の星になって!」とエールを送る。
3月に春日市であった市民ソフトボール大会。安辺さんは代打で出場し、二塁打を放った。監督を務める父憲治さん(66)の胸には、ベースに向かって懸命に走る安辺さんの姿に込み上げるものがあった。
事故に遭ったのは1997年4月。当時勤めていた水道設備工事会社の残業を終え、バイクで帰宅中に四輪駆動車と衝突した。安辺さんは40日間、意識不明だった。九死に一生を得た後、きついリハビリに励んで生活に不自由ないほど手足は動くようになった。が、記憶障害などが残った。他人の言葉をすぐ忘れ、計画的な物事の遂行も難しい。
しかし、持ち前の頑張り精神で努力する。憲治さんらがつくったNPO法人「福岡・翼の会」で脳活性化訓練などを続け、今は両親と同居の家から福岡市の化粧品通販会社に障害者の仲間とバス通勤する。「きょうは○○をする」。携帯電話のスケジュール管理機能を使い記憶を補っている。
当事者活動奨励賞を「最近で一番うれしかった」と語る彼の目標は自立、そして結婚だが、「正直言って不安はある」と打ち明ける。高次脳機能障害者の自立は難しいのだろうか。
阿部順子岐阜医療科学大教授によると、自立して結婚し、子を持つ高次脳機能障害者は、周りの「希望の星」になっているという。自立を支える方法の一つが、同教授らが考案した「生活版ジョブコーチ支援」。専門的知識を持つ人による訪問型生活支援だ。
「支援なしでの1人暮らし(自立)は挫折の可能性が高いけど、まず一歩を踏み出さないと」と教授は安辺さんの背中を押す。ジョブコーチ支援実現を行政などに働き掛ける両親も、息子の結婚を夢見る。
最近、沖縄の知人が「翼の会」機関誌に載った安辺さんの受賞の弁に感想を書いてきた。「真志さんの『未来は今、自分の取る行動のその先にある』の言葉が私の励み」とあった。地域での理解(支援)の広がりと自身の思いが、「星」を輝かせる。
=2014/04/05付 西日本新聞朝刊=
3月に春日市であった市民ソフトボール大会。安辺さんは代打で出場し、二塁打を放った。監督を務める父憲治さん(66)の胸には、ベースに向かって懸命に走る安辺さんの姿に込み上げるものがあった。
事故に遭ったのは1997年4月。当時勤めていた水道設備工事会社の残業を終え、バイクで帰宅中に四輪駆動車と衝突した。安辺さんは40日間、意識不明だった。九死に一生を得た後、きついリハビリに励んで生活に不自由ないほど手足は動くようになった。が、記憶障害などが残った。他人の言葉をすぐ忘れ、計画的な物事の遂行も難しい。
しかし、持ち前の頑張り精神で努力する。憲治さんらがつくったNPO法人「福岡・翼の会」で脳活性化訓練などを続け、今は両親と同居の家から福岡市の化粧品通販会社に障害者の仲間とバス通勤する。「きょうは○○をする」。携帯電話のスケジュール管理機能を使い記憶を補っている。
当事者活動奨励賞を「最近で一番うれしかった」と語る彼の目標は自立、そして結婚だが、「正直言って不安はある」と打ち明ける。高次脳機能障害者の自立は難しいのだろうか。
阿部順子岐阜医療科学大教授によると、自立して結婚し、子を持つ高次脳機能障害者は、周りの「希望の星」になっているという。自立を支える方法の一つが、同教授らが考案した「生活版ジョブコーチ支援」。専門的知識を持つ人による訪問型生活支援だ。
「支援なしでの1人暮らし(自立)は挫折の可能性が高いけど、まず一歩を踏み出さないと」と教授は安辺さんの背中を押す。ジョブコーチ支援実現を行政などに働き掛ける両親も、息子の結婚を夢見る。
最近、沖縄の知人が「翼の会」機関誌に載った安辺さんの受賞の弁に感想を書いてきた。「真志さんの『未来は今、自分の取る行動のその先にある』の言葉が私の励み」とあった。地域での理解(支援)の広がりと自身の思いが、「星」を輝かせる。
=2014/04/05付 西日本新聞朝刊=