◇倉敷芸術科学大 教育動物病院長 古川敏紀教授
視覚障害者の社会参加や日常生活を支える盲導犬は近年、映画やテレビドラマで描かれるようになり、認知度が高まっている。国内約1000匹のうち、県内では20匹が活動しているが、中には病気にかかる犬もいる。これまでに1000匹以上の盲導犬と、正式な盲導犬として活動する前の候補犬の眼科検診に取り組んできた倉敷芸術科学大(岡山県倉敷市連島町)教育動物病院長の古川敏紀教授(65)に、安全に人を導くために必要な犬の健康管理について尋ねた。
――なぜ、盲導犬の目の検査に携わるようになったのでしょう。
「2003年に、目に障害のある盲導犬が北海道にいると聞き、北海道盲導犬協会に、検査の協力を申し出ました。それ以降、北海道のほか、関西、九州、兵庫の盲導犬協会で定期的に検査をしています。それまでは、定期的な盲導犬の目の検査はなかったようです。犬を必要とする人が視覚障害者のため、犬の目の異常に気づかなかったり、気づくのが遅れたりすることもあるのではないでしょうか」
――どんな検査をするのでしょう。また、どのくらいの頻度で病気が見つかりますか。
「まず肉眼で犬の目を観察し、まぶたを触診します。さらにランプを使った反応試験、眼底検査も行います。問題があれば、教育動物病院に運んで、備え付けの検査機器で詳しく調べます。盲導犬候補の犬も含め、白内障や結膜炎、ドライアイなど何らかの異常が見つかるケースは10〜15%です。日常生活で歩くルートを犬が体で覚えているため、使用者側が気づかなかったのかもしれません」
――盲導犬の検査を続けるうえでの課題は。
「盲導犬の育成事業に寄付をする人はいますが、健康診断などへ寄付をする人は少ないのではないでしょうか。盲導犬を育てるために、多くの盲導犬の育成団体や国は、犬の出産費用や餌代、飼育費用、訓練士らの給料は考慮しています。ただ、盲導犬の仕事を考えると、日常の健康検査は欠かせません。今は複数の獣医師が、ボランティアに近い状態で検査を続けているのです。検査をしなければ事故が起きる可能性もあります。国や公的機関の支援が必要です」
――教育動物病院は、動物病院の依頼で、盲導犬以外の犬や猫にも高度な治療を施しています。飼育するペットの目の病気に関して、家庭などで気をつける点はありますか。
「家の中で飼う犬や猫などのペットが増え、病気は見つかりやすくなっています。また、飼育する動物が長生きするようになり、目の病気も増えています。飼い主と動物の間で、目と目を合わせる『アイコンタクト』を、日常的にすることが大切。飼い主をしっかり見つめているか、目の表面に傷などがなく、しっとりとした輝きがあるか、角膜に混濁などがなく、結膜は白いか、目やにが出ていないかなどを観察してください。そうすれば目の病気は早期に見つけることができます」
<メモ>盲導犬
日本に盲導犬が紹介されたのは、盲導犬を連れて世界を旅していた視覚障害者のアメリカ人青年が1938年、日本に立ち寄ったのが最初とされる。翌年には、失明した兵士のためにドイツから4匹が輸入された。国産第1号は、後に盲導犬育成団体「アイメイト協会」を設立し、2010年に88歳で亡くなった塩屋賢一さんが訓練し、1957年に誕生した「チャンピイ」。盲導犬になる犬種で多いのは、ラブラドール・レトリバーやゴールデン・レトリバーなど。国家公安委員会から指定を受けた国内10団体が、盲導犬を育成している。
◆古川敏紀(ふるかわ・としのり) 1949年、福岡市生まれ。麻布獣医科大(現麻布大)大学院獣医学研究科博士課程修了後、筑波大講師、国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)主任研究官、広島大助教授などを経て、2004年から倉敷芸術科学大教授。専門は獣医眼科学。高度な眼科学的知識や診療技術を持った獣医師らに授与される比較眼科学会専門職資格の名誉専門職。
(2014年5月6日 読売新聞)
視覚障害者の社会参加や日常生活を支える盲導犬は近年、映画やテレビドラマで描かれるようになり、認知度が高まっている。国内約1000匹のうち、県内では20匹が活動しているが、中には病気にかかる犬もいる。これまでに1000匹以上の盲導犬と、正式な盲導犬として活動する前の候補犬の眼科検診に取り組んできた倉敷芸術科学大(岡山県倉敷市連島町)教育動物病院長の古川敏紀教授(65)に、安全に人を導くために必要な犬の健康管理について尋ねた。
――なぜ、盲導犬の目の検査に携わるようになったのでしょう。
「2003年に、目に障害のある盲導犬が北海道にいると聞き、北海道盲導犬協会に、検査の協力を申し出ました。それ以降、北海道のほか、関西、九州、兵庫の盲導犬協会で定期的に検査をしています。それまでは、定期的な盲導犬の目の検査はなかったようです。犬を必要とする人が視覚障害者のため、犬の目の異常に気づかなかったり、気づくのが遅れたりすることもあるのではないでしょうか」
――どんな検査をするのでしょう。また、どのくらいの頻度で病気が見つかりますか。
「まず肉眼で犬の目を観察し、まぶたを触診します。さらにランプを使った反応試験、眼底検査も行います。問題があれば、教育動物病院に運んで、備え付けの検査機器で詳しく調べます。盲導犬候補の犬も含め、白内障や結膜炎、ドライアイなど何らかの異常が見つかるケースは10〜15%です。日常生活で歩くルートを犬が体で覚えているため、使用者側が気づかなかったのかもしれません」
――盲導犬の検査を続けるうえでの課題は。
「盲導犬の育成事業に寄付をする人はいますが、健康診断などへ寄付をする人は少ないのではないでしょうか。盲導犬を育てるために、多くの盲導犬の育成団体や国は、犬の出産費用や餌代、飼育費用、訓練士らの給料は考慮しています。ただ、盲導犬の仕事を考えると、日常の健康検査は欠かせません。今は複数の獣医師が、ボランティアに近い状態で検査を続けているのです。検査をしなければ事故が起きる可能性もあります。国や公的機関の支援が必要です」
――教育動物病院は、動物病院の依頼で、盲導犬以外の犬や猫にも高度な治療を施しています。飼育するペットの目の病気に関して、家庭などで気をつける点はありますか。
「家の中で飼う犬や猫などのペットが増え、病気は見つかりやすくなっています。また、飼育する動物が長生きするようになり、目の病気も増えています。飼い主と動物の間で、目と目を合わせる『アイコンタクト』を、日常的にすることが大切。飼い主をしっかり見つめているか、目の表面に傷などがなく、しっとりとした輝きがあるか、角膜に混濁などがなく、結膜は白いか、目やにが出ていないかなどを観察してください。そうすれば目の病気は早期に見つけることができます」
<メモ>盲導犬
日本に盲導犬が紹介されたのは、盲導犬を連れて世界を旅していた視覚障害者のアメリカ人青年が1938年、日本に立ち寄ったのが最初とされる。翌年には、失明した兵士のためにドイツから4匹が輸入された。国産第1号は、後に盲導犬育成団体「アイメイト協会」を設立し、2010年に88歳で亡くなった塩屋賢一さんが訓練し、1957年に誕生した「チャンピイ」。盲導犬になる犬種で多いのは、ラブラドール・レトリバーやゴールデン・レトリバーなど。国家公安委員会から指定を受けた国内10団体が、盲導犬を育成している。
◆古川敏紀(ふるかわ・としのり) 1949年、福岡市生まれ。麻布獣医科大(現麻布大)大学院獣医学研究科博士課程修了後、筑波大講師、国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)主任研究官、広島大助教授などを経て、2004年から倉敷芸術科学大教授。専門は獣医眼科学。高度な眼科学的知識や診療技術を持った獣医師らに授与される比較眼科学会専門職資格の名誉専門職。
(2014年5月6日 読売新聞)