気仙地方のツバキ油を原料にしたサラダ用ドレッシングが今冬、全国ブランドとして販売される。東日本大震災で跡取り息子を失い廃業した陸前高田市の搾油業者が、障害者就労施設で続けてきた技術指導が実を結んだ。「諦めないで良かったね」。皆の希望は膨らむ。
東京・銀座の資生堂パーラーが「椿(つばき)が結ぶ復興支援」で開発した「気仙椿ドレッシング」で、オニオンと粒マスタードの2種類。11月10日から同店とイオングループ各社の歳暮品カタログで限定販売される。
気仙地方はツバキの名所で、一日の寒暖差が大きいため実が締まり、油は黄金色で香り豊かなのが特徴だ。女性たちは毎年、実を集めては地元で唯一の「石川製油所」に持ち込み、食用に搾ってもらう冬の訪れの時期を心待ちにしていた。
製油所2代目の石川秀一さん(65)も、農協に勤める長男政英さんに「家業を継ぐ」と言われ、搾油機を新調して心機一転。しかし直後の震災で工場は流され、消防団員だった政英さん(当時37歳)も活動中に犠牲になる。
「跡取りまで失い、再起する気力はない」と失意の石川さんに、陸前高田などで障害者施設を運営する大船渡市の社会福祉法人「大洋会」(木川田典彌理事長)が声をかけてきた。「気仙の伝統を絶やすのはもったいない。うちの施設で技を伝授してもらえないか」。製油所の新規整備には、厚生労働省の補助も出るという。
二度と味わえないだろうと皆が諦めていたツバキ油が復活したのは2011年の冬。話を聞きつけた宮城県気仙沼市からも、実の持ち込みが舞い込む。被災地に、徐々に笑顔が戻ってきた。
その後も細々と作られる逸品に、資生堂グループが着目した。これまでもシンボルマークが「花椿」の同社が、「市の花」がツバキという縁がある大船渡に、植樹などの支援を続けてきたが、独自レシピによる商品化で全国的にPRすることになった。
「気仙の産業、観光の活性化に向けた取り組みを続けていく」と広報担当者。石川さんも「地元の役に立てて、亡くなった息子も少しは喜んでいるかも」と話す。一方の大洋会側は支援を歓迎しつつも「搾油量を上げるためにも、多くの実を持ち寄ってほしい」と訴えることを忘れない。
イオン各社の歳暮は200ミリリットル入り3本セット3240円(税込み)。10月4日には、大船渡市内での「椿の夢フェスティバル」で、ドレッシングを使った料理が提供されるという。
毎日新聞 2014年09月14日 地方版