障害者の社会参加に欠かせない情報通信技術(ICT)。インターネットの文字情報を音声化するソフトや、点字化する機器などが次々と登場している。ただ、ソフトや機器は高価で、取り扱いの難しさなどが普及の壁となっている。使いこなせる人と、そうでない人とに二極化する問題も生じており、障害者は支援強化を求めている。
■自立への光
「インターネットエクスプローラーを開きます」。視覚障害者がキーボードをたたくと、滑らかな機械音声がスピーカーから流れる。
福井県福井市のアオッサで昨年11月に開かれた障害者向けICT講座。講師を務めた後天性全盲の金生(かねいけ)敏郎さん(43)=敦賀市=がパソコン用音声ガイドソフトの使い方を紹介した。他の障害者用のソフトを兼用すれば、検索エンジンでの調べ物、文書などの作成もこなせる。
視覚と聴覚に障害がある人なら「点字ディスプレー」が有効だ。パソコンに接続すると文字情報がディスプレーのパネルに点字として突起、“読む”ことができる。カセットテープやCDを再生していた読書は、大容量記憶媒体のSDカードを差し込む手のひらサイズのデジタル録音図書(デイジー)に置き換わった。障害者を支えるICT機器はこの10年で一気に発達したという。
「パソコンは健常者のものとあきらめていた。ICTがあるとないとじゃ雲泥の差だ」。講座に参加した全盲の源喜代志さん(57)=坂井市=は言う。全盲の清水一己さん(43)=福井市=は「自立を支える希望の光」と表現した。
視覚障害者だけでなく、自閉症者もICTの恩恵を受けている。意思疎通などのため大量のイラストカードを持ち運ぶこともあったが、「iPad(アイパッド)」のような小型のタブレット型端末に代えれば荷物は少なくて済むという。
■平等な機会を
ただ、機器をフル活用している人がいる一方で、情報化社会について行けない障害者も少なくない。金生さんは「使いこなせているのはごく一部。活用できずに、家にこもりがちな人も多い」と感じている。
講座を企画した福井県立大看護福祉学部の瓦井昇教授は「ICTの重要性はあまり知られていない」と指摘、「情報を提供する機会が少ないために障害者間で格差が生じている。行政や社協は考えを見直し、平等な機会をつくらなければならない」とする。
瓦井教授が代表理事を務める福井市北四ツ居2丁目の「ブロンマ福井」など、草の根でICT普及を進めようとする民間団体もあるが、行政機関も含めて、同様の問題意識を持った支援団体はわずかしかないという。
■自治体で補助に差
ICT機器は大量生産されていない商品が多く、値段が高額なのも普及を妨げる要因。また、各自治体は購入を補助しているものの市町によって対象範囲に差があり、当事者を困惑させている。例えば、音声で通知する体温計、体重計は福井市の場合「盲人のみの世帯及びこれに準ずる世帯」と制限を設けるが、敦賀市は世帯に健常者がいても支給している。
金生さんは「希望すれば誰もがICT機器を活用できる環境をつくってほしい。パソコンなどが健常者の暮らしを変えたように、障害者の暮らしも豊かにすることを分かってほしい」と訴えている。
福井新聞-(2013年1月6日午前11時10分)
■自立への光
「インターネットエクスプローラーを開きます」。視覚障害者がキーボードをたたくと、滑らかな機械音声がスピーカーから流れる。
福井県福井市のアオッサで昨年11月に開かれた障害者向けICT講座。講師を務めた後天性全盲の金生(かねいけ)敏郎さん(43)=敦賀市=がパソコン用音声ガイドソフトの使い方を紹介した。他の障害者用のソフトを兼用すれば、検索エンジンでの調べ物、文書などの作成もこなせる。
視覚と聴覚に障害がある人なら「点字ディスプレー」が有効だ。パソコンに接続すると文字情報がディスプレーのパネルに点字として突起、“読む”ことができる。カセットテープやCDを再生していた読書は、大容量記憶媒体のSDカードを差し込む手のひらサイズのデジタル録音図書(デイジー)に置き換わった。障害者を支えるICT機器はこの10年で一気に発達したという。
「パソコンは健常者のものとあきらめていた。ICTがあるとないとじゃ雲泥の差だ」。講座に参加した全盲の源喜代志さん(57)=坂井市=は言う。全盲の清水一己さん(43)=福井市=は「自立を支える希望の光」と表現した。
視覚障害者だけでなく、自閉症者もICTの恩恵を受けている。意思疎通などのため大量のイラストカードを持ち運ぶこともあったが、「iPad(アイパッド)」のような小型のタブレット型端末に代えれば荷物は少なくて済むという。
■平等な機会を
ただ、機器をフル活用している人がいる一方で、情報化社会について行けない障害者も少なくない。金生さんは「使いこなせているのはごく一部。活用できずに、家にこもりがちな人も多い」と感じている。
講座を企画した福井県立大看護福祉学部の瓦井昇教授は「ICTの重要性はあまり知られていない」と指摘、「情報を提供する機会が少ないために障害者間で格差が生じている。行政や社協は考えを見直し、平等な機会をつくらなければならない」とする。
瓦井教授が代表理事を務める福井市北四ツ居2丁目の「ブロンマ福井」など、草の根でICT普及を進めようとする民間団体もあるが、行政機関も含めて、同様の問題意識を持った支援団体はわずかしかないという。
■自治体で補助に差
ICT機器は大量生産されていない商品が多く、値段が高額なのも普及を妨げる要因。また、各自治体は購入を補助しているものの市町によって対象範囲に差があり、当事者を困惑させている。例えば、音声で通知する体温計、体重計は福井市の場合「盲人のみの世帯及びこれに準ずる世帯」と制限を設けるが、敦賀市は世帯に健常者がいても支給している。
金生さんは「希望すれば誰もがICT機器を活用できる環境をつくってほしい。パソコンなどが健常者の暮らしを変えたように、障害者の暮らしも豊かにすることを分かってほしい」と訴えている。
福井新聞-(2013年1月6日午前11時10分)