講道館柔道6段の有段者で非日系人のパウロ・ドゥアルテさん(67)がこのほど、「Princípios Metodológicos do JUDÔ(柔道の基本動作とその原理)」という柔道の「形(かた)」の指導書としては初のポルトガル語版を上梓した。神学の研究者で講師としても活動しているドゥアルテさんは、講道館柔道の創始者である故・嘉納治五郎氏の教えを「自分の使命として後世に伝えていきたいと思った」と述べ、発刊の目的を強調した。
12歳で柔道を始めたドゥアルテさんは二宮道夫氏に師事し、14歳ですべての「形」を習得。19歳の時に病院内感染が原因で左足を切断するという柔道家にとっては致命傷となるハンディを負いつつも、「自分が柔道を続けるのは人生の使命」という思いのもとに後継者を指導。バルセロナ五輪金メダリストのロジェリオ・サンパイオ氏をはじめ、五輪及び世界選手権に出場する強豪選手を育ててきたブラジル屈指の指導者でもある。
同書発刊の目的についてドゥアルテさんは、「単に柔道の技術的なものや知識のみならず、哲学として柔道が日本の教育の中にいかに含まれているかを伝え、日本のそうしたことをブラジルに広く紹介することで、モチベーション(意欲)を高めたいと思った」と話す。
また、ドゥアルテさんによると柔道をやっている人には一つのパターンがあるとし、「柔道が人生の中でかなりの役割を果たしていることが多く、今回この本を出せたことを本当に嬉しく思う」と述べ、笑顔を見せた。
今回の書籍を執筆するのに約4年の時間を費やしたが、同書は柔道の基本である「受け身」「姿勢」「打ち込み」をはじめ、「投げ」「締め」など高等技術の説明とともにカラー写真がふんだんに使われていることから、初心者にも分かりやすい内容となっている。ドゥアルテさんは武士道や東洋の教育思想にも探究心があると言い、9月には別の書籍を出版する予定もあり、意欲的だ。
同書に柔道家としての紹介文を寄稿しているブラジル講道館柔道有段者会の岡野脩平名誉会長は「本当に良くできている。基本である打ち込みの動作や、たち振る舞いを通じて講道館柔道の精神を伝えている」と称賛する。
「19歳で身体障害者になった時はこれで自分の人生もおしまいかと思ったが、『今後、自分が何をすべきか』ということへの神の啓示もあって指導者として柔道を続けてきた」と語るドゥアルテさん。「方法論も含めて柔道の指導で選手たちの成果を出してきた。障害者であっても、これだけのことができたということを同じ境遇にいる人たちや一般の人たちに知らせることが自分の大きな役割だと思っている。嘉納治五郎先生の教えを自分の使命として後世に伝えていきたい」と穏やかな表情で語った。
同書は2000部を印刷し、インターネットを通じて1冊130レアルで販売されている。詳細はドゥアルテさん(電話13・3225・3222か99143・1313)まで。
案内に来社した岡野有段者会名誉会長、ドゥアルテさん、金兼文典有段者会会計専任理事(左から)
2015年8月21日 サンパウロ新聞