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Channel: ゴエモンのつぶやき
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障害者の親へ 稲川淳二さんメッセージ 要らない命なんてない 息子殺そうとして気付き

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 怪談話やリアクション芸でお茶の間に親しまれてきたタレントの稲川淳二さん(65)が、夏場の怪談話を除いてテレビ出演を取りやめ、障害者10+ 件への理解を深める講演やボランティア活動を続けている。あの稲川さんに何があったのか。講演で訪れた福岡市で話を聞いた。

 −次男の由輝(ゆうき)さん(26)は、生まれた時から障害者という。

 「1986年、多くのレギュラー番組に出演していたころ、妻が2人目の命を身ごもった。長男がいて、仕事も絶好調。これで2人目が生まれたら、自分はどれだけ幸せになるかと胸を弾ませていた。ところが、生まれた次男はほとんど泣かない。妻は『この子、おかしいよ』と泣いた」

 −どんな障害があったのか。

 「病名を突き止めようと12人の医師を訪ね、クルーゾン氏症候群という先天的な頭蓋骨の病気だと分かった。頭を開いて船の骨組みのような枠を入れる手術が必要で、それを受けても助かる可能性は低いという。雪が積もった秋田県でのロケ。次男のことを考えるうちに頭の中がぼーっと白くなってきて、今もし、あいつを雪の中に放ったら、すぐ死んじゃうだろうな、とも考えた」

 −由輝さんは生後4カ月で手術を受けることに。一部始終を聞かせてほしい。

 「1人しか入れない無菌室で、手術前の次男を見守っていた。この病気で助かった子はほとんどいない。よしんば大きくなっても、妻は介護が大変だ。長男の結婚にも支障が出るかもしれない。次男の顔を眺め、あれこれ思いあぐねるうち、恐ろしい考えがひらめいた。殺しちゃおうか、と」

 「わずかな時間、鼻と口を押さえれば終わる。周りには誰もいない。死んでも俺がやったとは分からないだろう。自分が墓場まで持って行けば済むことだ。やるなら今しかないぞ。やっちゃえ、やっちゃえ…」

 「で、手を伸ばした。ちっちゃな口と鼻から1センチくらいのところで、手がブルブル震えだした。そのままどうしても手が動かない。どのくらいの時間、そうしていたかは記憶にない。伸ばした手を下ろすと、妻が無菌室に入ってきた」

 −衝撃の告白だが、その後、どうなったのか。

 「手術は半日がかりで何とか成功した。無数の管と針につながれた次男と対面すると『ハッ、ハッ』と呼吸していた。こんなちっちゃな体で懸命に生きている。俺って何て父親だと思った。この子はこれほど闘っているのに…。人として最低だ。その瞬間、初めて息子の名前を呼んだ。『由輝、俺はおまえのお父ちゃんだぞ。ゆうきーっ、ゆうきーっ』って。それまで障害児をわが子だと認めたくない気持ちが、自分の中にあったのだと思う」

 −そうした体験をなぜ語る気になったのか。

 「それほど大げさな話ではない。別に由輝の障害を隠そうとも公にしようとも思っていなかった。ただ、障害者10+ 件自立支援法反対の街頭活動で何か話すことになり、自分はこんなにひどい父親だと、ありのままを話した。すると、いろんな障害者の親御さんが『私も同じ思いだった』『私は子どもを道連れに死のうと思った』と言ってくれた。そうした立場の方々の悩みや苦しみを、少しでも和らげてあげられたらと思う」

 −由輝さんは今、どんな状態か。

 「別居中の妻と、元気に暮らしている。つくり(外見)が普通じゃないから周囲の視線が冷たい時もあるが、障害者10+ 件作業所で物作りを楽しんでいる。昨年もらった手作りのすのこは僕の宝物だ。今、由輝は欲もなく、誰を恨むでもなく、素直な心で一日一日を生きている。親として、これからも穏やかな人生を送れるよう祈るばかりだ」

 −昨年、前立腺がんの手術を受けたそうだが。

 「ロボット技術を駆使した最先端医療のおかげで、元気になった。病気をしてあらためて、個人として言いたいことは言わないといけないと感じている」

 −障害者の親に何かメッセージを。

 「あなた無理することないよ、と言ってあげたい。要らない命なんてない。それを由輝が教えてくれた」

 ▼いながわ・じゅんじ 1947年、東京都生まれ。80年代に熱湯ぶろのリアクション芸やリポーターで人気を集め、多くのお笑い番組に出演。独特の口調の怪談話で、ホラーブームの火付け役となった。工業デザイナーとしても活躍し、通産省選定のグッドデザイン賞を受賞している。

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 【ワードBOX】クルーゾン氏症候群

 主に新生児がかかる頭蓋骨の遺伝性の病気。通常の新生児は脳の成長に伴って自然に頭蓋もふさがっていくが、この病気は生まれた時から頭蓋がふさがっていることが多い。成長しても脳が発育できず、顔面の変形や眼球の突出が現れる。呼吸障害に陥ることもある。

=2013/02/28付 西日本新聞朝刊=

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