車いすを押しながら、買い物かごを片手に持って食品を選んでいく-。車いすが必要な家族と一緒に出かける買い物は大変だ。付き添い家族のそんな苦労を減らそうと、かごを据えられる特製車いすや補助具が発売されている。買い物は要介護者にとって良い気晴らしでもある。さあ、楽しい買い物に一緒に行こう。
愛知県春日井市の大型スーパー「アピタ高蔵寺店」で八月に行われた車いす補助具の体験会。「自分でほしいものを自由に取って、かごに入れられるからいいね」。
同市の主婦森鏡子さん(63)が話しかけると、車いすに乗った妹の大川美和子さん(60)が満足そうにうなずいた。
車いすの前部には、スーパーの買い物かごが据え付けられており、大川さんが自分でシチューのもとに手を伸ばし、かごに入れた。車いすは日頃使っているもので、かごを置ける補助具を車体前部に付けた。
大川さんは要介護4。一人で買い物に行くのは難しく、姉妹で週一度の買い物を楽しみにしている。ただ、補助具を付けたのはこの日が初めて。これまでは車いすに乗った大川さんの膝の上にかごを置いていた。このため「妹の膝にかごの痕がくっきり残ってしまったこともある」と、森さんは話す。
体験会は、車いす利用者とその家族に楽に買い物をする方法を知らせようと、家族介護者を支援するNPO法人「てとりん」(同市)が企画。大川さん姉妹らが参加した。かごが重くなっても操作がしやすいか、かごに商品を入れやすいかなどの点を確認した。
補助具を製品化しているのは、東京都葛飾区の補助具開発メーカー「あい・あーる・けあ」。車いすの足元の左右の金具に、あらかじめホルダーを取り付けておき、買い物の際に特製金具を差し込んでかごを引っ掛ける。
かごを要介護者の前に置く形になるので、要介護者自身が商品を出し入れできる。同社の落合克良社長(69)自身が車いすの利用者で、一人で買い物をするために二十年以上前に考案した。
同社担当者は「両手が使え、買い物中も自力で車いすを操作できる。車いすの人が自分の意思で、なるべく人の手をわずらわせずに外出できるようにしたかった」と話す。
今回試した製品は、高いもので約二万円。介護保険の適用はなく全額が自己負担。補助具を常備しているスーパーもあるが、要介護者の体形や車いすのタイプによって使えない場合もある。「てとりん」は、体験会で出された意見を各メーカーに送った。
◆専用タイプ 店頭で貸し出しも買い物専用の車いすを開発したのは、店舗備品企画販売会社「スーパーメイト」(岐阜県笠松町)。車いすの背面にかごを置けるようになっている。主に全国のスーパーなどへ販売し、店頭で貸し出してもらっている。
同社担当者は「十年以上前に商品化したが、目立たない存在だった。最近は体の不自由な高齢者や障害者が外出することが多くなり、買い物に便利な車いすへの需要が高まってきた」と話す。
車いすの前に取り付けたかごに商品を入れる大川美和子さん(右)。後ろで車いすを押すのは森鏡子さん
2016年9月28日 東京新聞