29日に日本デザイン振興会(東京)が選ぶ本年度のグッドデザイン賞を受賞した松本市野溝木工のウクレレ製造会社「セイレン」の小型エレキベース「モバイルベース」は、社長の高橋信治(しんじ)さん(54)が1人で開発した。一般的なエレキベースより4割ほど小さいにもかかわらず、従来と遜色ない重低音を表現できる新しい楽器だ。審査では、弦から開発した姿勢と「音楽愛好者の裾野を広げたい」という理念が高く評価された。
モバイルベースは全長約75センチ。一般的に1・2メートルほどある普通のエレキベースに比べて弦も4割ほど短くなるため、同じ弦を使うと音域が高くなってしまう。このためセイレンはドイツの弦専門メーカーと協力し、短くても低音が出せる新しい弦を開発。2013年に商品化した。
高橋さんは大町市出身で松本市在住。エレキギター作りでは35年のキャリアを持つベテラン職人だ。ウクレレも「小さくてかわいらしく、誰もが親しみやすい」と、20年ほど前に作り始め、06年にはハワイのコンテストで優勝した。11年にウクレレ専門工房のセイレンを設立した。
モバイルベースを開発したのは「小さい楽器なら女性や子ども、高齢者、障害者にも『やってみよう』と思ってもらえる」との思いからだ。持ち運びやすくする一方で、太くて厚みのある音色にこだわり、見た目の高級感も意識した。今回の受賞に「音楽に親しむ人を増やしたいという思いに共感してもらえたのがうれしい。これからもっと良い音を追求し、この楽器を普及させたい」と話す。
モバイルベースは、通常タイプ(税別12万円から)と、ボディーが空洞のアコースティックタイプ(同20万円から)の2種類。年間20本ほどの生産で注文に生産が追い付かず、現在は「注文から4〜5カ月待ちの状況」という。問い合わせはセイレン(電話0263・88・7490)へ。
グッドデザイン賞を受賞した小型エレキベースを手にする高橋さん
(9月30日) 信濃毎日新聞