障害者に恋する。障害者に声をかける。きっかけをつくって、障害のある人とない人の間にある壁を壊そうと挑む人たちがいる。
健常者と殴り合い 先入観取り払うため、リングに上がる お笑い芸人、自身の障害もネタに 客席が凍りつく経験も車いすの女性が恋愛経験のある女性に質問した。「エッチってどうやるの?」。囲む女性らが盛り上がる。障害がある人も、ない人もいる。20代の女性5人が東京都内のカフェで開いた女子会だ。
きっかけは「ユニコン」。障害者と健常者が参加するユニバーサルな合コンだ。多様な社会のありようについて発信を続ける市民団体「i(アイ)―link(リンク)―u(ユー)」(神奈川県鎌倉市)が昨年から企画している。
企画は、大学院を卒業後、認知症のグループホームで働いた団体代表の高野朋也(29)が提案した。先天性の病気のため、車いすで生活する男友達から「恋がしたい。彼女がほしい」と聞いたからだ。
人気のデートスポットを半日、参加者10人ほどで散策して相手に思いを伝える手紙を書く。車いすを押したり、目や耳が不自由な人と会話をしたり、初めて経験するコミュニケーションも自然に生まれるという。
ただ、高野の理想からはほど遠い。これまで9回のユニコンに集まった健常者は参加者の3割にすぎない。多くが、高野の友人や友人の知人だった。
「人として何ができるか勉強したいと思った。恋愛がしたかったわけじゃない」。健常者の男性(37)は今年2月のユニコンに参加した理由を語る。
「自分たちの思いばかりが先行している」と高野も言う。ただ、参加者同士が友だちになり、車いすで入れる店を探すのが難しいこと、友人の手助けがあればもっと外出できることを知る機会になっているとも思う。
■差し出した手 今も片思い
高野は昨年夏、一人の女性に出会った。脳性まひのため、車いすで生活する。お互いの仕事や趣味の話をしながら、彼女の笑顔や前向きさにひかれた。
誘ってから半年かかって初デートにこぎ着けた。エスコートしたくて手を差し出したが、すぐに握ってもらえなかった。介助のつもりではなかったが、そう受け止められてしまったかもしれないと不安になった。
思いを伝えた。「ゆっくりお互いのことを知っていきましょう」と言われた。「なぜなのか。自分がチャラいからか。もしくは障害のことがあるのか」。いまも片思いのままだ。
彼女に好きになってもらうこと。ユニコンをめざす形に育てること。「まずは相手を知る。どちらも時間をかけて経験を分かち合っていけば道は開ける」
■助けたい チャームで伝える
名刺大のアクリルカードにYES、NO、病院や電車、携帯電話のアイコン。「コミュニケーションチャーム」だ。NPO法人ピープルデザイン研究所(東京都渋谷区)がセレクトショップ「SHIPS(シップス)」など全国24カ所で販売し、これまでに約1万2千個が売れている。
「困っていたら声をかけて。何でもお手伝いしますよ」というサインとして、かばんなどにつけてもらい、手助けが必要な人と利用者をつなぐ。
同研究所の田中真宏(37)が10カ所以上の福祉作業所を訪ね、デザインの改良を重ねた。田中自身、それまで障害者と関わることがなかったが、話してみればみんな自分と一緒だった。「未知の裏側に無関心や恐怖心があっただけなんだ」と感じた。
利用者からは「着けたら、電車で堂々と席を譲れた」「街で周りの人たちを意識するようになった」との感想が寄せられる。一方で「声をかけたのに『うるさい』と言われ、心が折れた」との声もある。
「障害者も一人ひとり違う。それを知るだけでも意味はあると思う」。チャームによって、出会いが生まれ、意識が変わる。田中はその連鎖に期待している。=敬称略
2016年4月6日 朝日新聞