■こんにちは!あかちゃん 第4部■
わがままに応える検査なんです−。出生前診断に携わる産科医は、検査が持つ一面をそう言い表した。取材を始めた当初、記者の私(32)も同じ考えだった。
検査では胎児の障害を見つける。別の医師からは「中絶を選ぶ家族も多い」と聞き、障害児を望まない親のわがままが、ひいては障害者を排除する社会につながるのではと困惑した。
私自身の妊娠が分かったのはその後まもなくだ。産院の超音波画像で、初めて自分に授かった命を確認すると感動した。自然に「元気で生まれてきて」とおなかに語りかけ、妊婦健診の度に元気に育っているか知りたい気持ちが湧いた。出生前診断を受ける妊婦の思いと重なった気がした。
連載1回目の智子さん=仮名=は教員経験があり、障害児に接する機会もしばしばあった。それぞれに個性があるのが分かり、障害児に対し否定的な気持ちを抱いたことは一度もないという。「けれど、わが子には障害を背負わせたくないのです」と話す。
今、私は「健康なわが子を願う気持ち」は誰もが抱く感情だと考えるし、智子さんのような思いで検査を受けた人を「わがまま」と見なすことはできない。
一方で「すべての命はかけがえのないもの」という考えを大事にする社会であってほしいとの気持ちも強い。そして、これも、誰もが抱く感情だと考える。
出生前診断は、この二つの感情を両立させない場合がある。どう向き合えばいいのか。連載を通じて読者のみなさんと一緒に考えていきたい。
●血液分析 分かる異常は一部 新型検査Q&A
胎児の異常を調べる出生前診断で、今月始まった新型検査とはどんなものか。Q&A方式で紹介する。
Q 調べ方は?
A 妊婦の血液を採取して分析します。血液にはわずかに胎児のDNAの断片が混ざっていて、それを分析すると高い確率で分かります。妊娠10週の早い段階で検査できます。
調べるのは、23対46本ある染色体のうち、13番、18番、21番で、通常より1本多い3本になる異常(トリソミー)です。21番はダウン症、13番と18番は心臓の疾患などを発症します。
Q 誰でも新型検査を受けられるのですか。
A (1)高齢出産(2)以前に染色体異常の子を妊娠したことがある(3)妊婦健診の超音波検査などで胎児の染色体異常が疑われる−など、いずれかの条件に該当する妊婦に限ります。国内で現在実施しているのは日本医学会に認定された15施設。検査前に、遺伝に詳しい医師のカウンセリングを必ず受けてもらう仕組みです。高齢出産とは一般的に35歳以上とされています。
Q 高い確率とは?
A 異常なしが濃厚な「陰性」の場合、的中率は99%以上です。ただ、異常が疑われる「陽性」については、実際にダウン症である的中率は、妊婦の年齢などによって約50〜95%と幅があります。例えば35歳の場合で約80%です。
Q 陽性でも確定じゃないんですね。
A そう。だから陽性の場合、別の確定検査が必要になります。「羊水検査」といって、妊婦のおなかに針を刺して羊水に混じる胎児の細胞を取り出し、染色体異常や先天性代謝異常などが分かります。1970年ごろに登場し、国内でも妊婦の希望で規制なく実施されています。
Q 針を刺すって怖い。
A わずかながら流産の危険があります。検査時期は15週以降で胎動を感じ始める妊婦もおり、精神的負担もあるとされます。新型検査は陰性の的中率が高く、陰性が出ると羊水検査を受けなくて済む長所があるとの指摘があります。
Q これまでも妊婦の血液で調べる「母体血清マーカー」がありました。新型検査とどう違う?
A マーカー検査は妊婦の血液中にあるタンパク質などを測って、胎児に特定の障害のある確率をはじき出すもの。新型検査に比べて検査可能時期が遅く精度も低いとされます。
Q 各検査で分かるのはダウン症だけではないのに、そればかりが注目されている印象があります。
A 13トリソミーや18トリソミーは重い病気のため、おなかにいる段階で流産することが少なくありません。21トリソミーといわれるダウン症は染色体異常の中で頻度が高く、その中でも流産にならないダウン症は生命力があるということ。ある産科医は「ダウン症は障害の程度は軽く、出生前診断で排除(中絶)される存在ではない」と強調します。
いずれにせよ出生前診断で分かるのは、数多い先天性異常の一部であることを指摘しておきます。
=2013/04/10付 西日本新聞朝刊=
わがままに応える検査なんです−。出生前診断に携わる産科医は、検査が持つ一面をそう言い表した。取材を始めた当初、記者の私(32)も同じ考えだった。
検査では胎児の障害を見つける。別の医師からは「中絶を選ぶ家族も多い」と聞き、障害児を望まない親のわがままが、ひいては障害者を排除する社会につながるのではと困惑した。
私自身の妊娠が分かったのはその後まもなくだ。産院の超音波画像で、初めて自分に授かった命を確認すると感動した。自然に「元気で生まれてきて」とおなかに語りかけ、妊婦健診の度に元気に育っているか知りたい気持ちが湧いた。出生前診断を受ける妊婦の思いと重なった気がした。
連載1回目の智子さん=仮名=は教員経験があり、障害児に接する機会もしばしばあった。それぞれに個性があるのが分かり、障害児に対し否定的な気持ちを抱いたことは一度もないという。「けれど、わが子には障害を背負わせたくないのです」と話す。
今、私は「健康なわが子を願う気持ち」は誰もが抱く感情だと考えるし、智子さんのような思いで検査を受けた人を「わがまま」と見なすことはできない。
一方で「すべての命はかけがえのないもの」という考えを大事にする社会であってほしいとの気持ちも強い。そして、これも、誰もが抱く感情だと考える。
出生前診断は、この二つの感情を両立させない場合がある。どう向き合えばいいのか。連載を通じて読者のみなさんと一緒に考えていきたい。
●血液分析 分かる異常は一部 新型検査Q&A
胎児の異常を調べる出生前診断で、今月始まった新型検査とはどんなものか。Q&A方式で紹介する。
Q 調べ方は?
A 妊婦の血液を採取して分析します。血液にはわずかに胎児のDNAの断片が混ざっていて、それを分析すると高い確率で分かります。妊娠10週の早い段階で検査できます。
調べるのは、23対46本ある染色体のうち、13番、18番、21番で、通常より1本多い3本になる異常(トリソミー)です。21番はダウン症、13番と18番は心臓の疾患などを発症します。
Q 誰でも新型検査を受けられるのですか。
A (1)高齢出産(2)以前に染色体異常の子を妊娠したことがある(3)妊婦健診の超音波検査などで胎児の染色体異常が疑われる−など、いずれかの条件に該当する妊婦に限ります。国内で現在実施しているのは日本医学会に認定された15施設。検査前に、遺伝に詳しい医師のカウンセリングを必ず受けてもらう仕組みです。高齢出産とは一般的に35歳以上とされています。
Q 高い確率とは?
A 異常なしが濃厚な「陰性」の場合、的中率は99%以上です。ただ、異常が疑われる「陽性」については、実際にダウン症である的中率は、妊婦の年齢などによって約50〜95%と幅があります。例えば35歳の場合で約80%です。
Q 陽性でも確定じゃないんですね。
A そう。だから陽性の場合、別の確定検査が必要になります。「羊水検査」といって、妊婦のおなかに針を刺して羊水に混じる胎児の細胞を取り出し、染色体異常や先天性代謝異常などが分かります。1970年ごろに登場し、国内でも妊婦の希望で規制なく実施されています。
Q 針を刺すって怖い。
A わずかながら流産の危険があります。検査時期は15週以降で胎動を感じ始める妊婦もおり、精神的負担もあるとされます。新型検査は陰性の的中率が高く、陰性が出ると羊水検査を受けなくて済む長所があるとの指摘があります。
Q これまでも妊婦の血液で調べる「母体血清マーカー」がありました。新型検査とどう違う?
A マーカー検査は妊婦の血液中にあるタンパク質などを測って、胎児に特定の障害のある確率をはじき出すもの。新型検査に比べて検査可能時期が遅く精度も低いとされます。
Q 各検査で分かるのはダウン症だけではないのに、そればかりが注目されている印象があります。
A 13トリソミーや18トリソミーは重い病気のため、おなかにいる段階で流産することが少なくありません。21トリソミーといわれるダウン症は染色体異常の中で頻度が高く、その中でも流産にならないダウン症は生命力があるということ。ある産科医は「ダウン症は障害の程度は軽く、出生前診断で排除(中絶)される存在ではない」と強調します。
いずれにせよ出生前診断で分かるのは、数多い先天性異常の一部であることを指摘しておきます。
=2013/04/10付 西日本新聞朝刊=