刑務所を出所した高齢者や知的障害者の再犯を防ぐ目的で生活基盤を整えることなどを支援する「県地域生活定着支援センター※」が富山市に開設して1年が過ぎた。これまでに高齢者ら15人を支援し、再犯の悪循環を絶って自立に成功した高齢者がいるなど徐々に効果は上がってきた。一方、受け入れ側の自治体や福祉施設側の理解がなかなか進まないなど課題もある。
「見守ってくれた人に恩返ししなきゃいけない。もう絶対に刑務所には戻らない」。3年半の刑期を終え、7月に出所した富山市内の男性(72)は力強く話した。
前科11犯。これまで出所して仕事に就いても、大好きなパチンコや酒、たばこに金を使い果たし、万引きなどの犯罪に手を染めては刑務所に戻った。誰かに生活の相談をすることなく、親族とは疎遠になって社会からも孤立。「不安もあって罪を重ねた」と振り返る。
しかし、今回は「周囲の環境が前とはまるで違う」。出所の半年前からセンターの社会福祉士と面談を重ね、生活保護の申請手続きや住居探しを手伝ってもらった。出所後も週1回の面談を欠かさず、日々の生活を報告。今は生活保護を受けながら介護付き住宅で暮らす。「少しでも役に立ちたい」と、デイサービスのボランティアとして利用者の話し相手になり、掃除や片づけにも積極的に参加。運営側からも頼られている。社会とのつながりを得て、「残りの人生を納得した形で送りたい」と笑顔を見せる。
□ ■
地域生活定着支援センターの設置には、犯罪を繰り返す高齢者の増加が背景にある。県警によると、県内での検挙者のうち、65歳以上の高齢者が占める割合は2002年の12・8%から11年には18・7%に増えた。検挙された高齢者のうち、窃盗など同じ容疑で検挙される高齢者は毎年3割前後に上る。同センターによると、保護司のつかない満期出所者は出所後に孤立しては犯罪を重ねるケースが多いという。
センターを利用できるのは、障害者や65歳以上で介護を必要とする満期出所者で、出所後に帰る場所がないといった条件を満たした者。刑務所が条件に合った出所者を選び、保護観察所や同センターが面談を行う。
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ただ、センターが支援をしても、こうした高齢者らの受け入れ先となる施設や自治体の理解が不十分なケースも少なくない。受け入れを断られることもあり、「『出所者は怖い人』というイメージが先行しがち」と同センターの社会福祉士、中川妙子さんは嘆く。
利用者が増えた場合は面談などのフォローが手薄になる可能性もある。南沢宏センター長は「ケアマネジャーなどに引き継ぐ仕組みが必要」とした上で、「司法と福祉の連携を進め、一人でも多くの累犯者を悪循環から救えるよう模索していきたい」と話す。
<※メモ>地域生活定着支援センター 満期出所した高齢者や障害者の支援を目的に、国が2009年以降に全国で設置を進め、県内では昨年10月、県済生会が県から委託を受けて済生会富山病院(富山市楠木)に開設。社会福祉士らが出所前から受刑者の住民票の再発行や生活保護の申請、福祉サービスの利用手続きなどを進め、出所後も定期的に面談を続ける。
(2012年11月1日 読売新聞)
「見守ってくれた人に恩返ししなきゃいけない。もう絶対に刑務所には戻らない」。3年半の刑期を終え、7月に出所した富山市内の男性(72)は力強く話した。
前科11犯。これまで出所して仕事に就いても、大好きなパチンコや酒、たばこに金を使い果たし、万引きなどの犯罪に手を染めては刑務所に戻った。誰かに生活の相談をすることなく、親族とは疎遠になって社会からも孤立。「不安もあって罪を重ねた」と振り返る。
しかし、今回は「周囲の環境が前とはまるで違う」。出所の半年前からセンターの社会福祉士と面談を重ね、生活保護の申請手続きや住居探しを手伝ってもらった。出所後も週1回の面談を欠かさず、日々の生活を報告。今は生活保護を受けながら介護付き住宅で暮らす。「少しでも役に立ちたい」と、デイサービスのボランティアとして利用者の話し相手になり、掃除や片づけにも積極的に参加。運営側からも頼られている。社会とのつながりを得て、「残りの人生を納得した形で送りたい」と笑顔を見せる。
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地域生活定着支援センターの設置には、犯罪を繰り返す高齢者の増加が背景にある。県警によると、県内での検挙者のうち、65歳以上の高齢者が占める割合は2002年の12・8%から11年には18・7%に増えた。検挙された高齢者のうち、窃盗など同じ容疑で検挙される高齢者は毎年3割前後に上る。同センターによると、保護司のつかない満期出所者は出所後に孤立しては犯罪を重ねるケースが多いという。
センターを利用できるのは、障害者や65歳以上で介護を必要とする満期出所者で、出所後に帰る場所がないといった条件を満たした者。刑務所が条件に合った出所者を選び、保護観察所や同センターが面談を行う。
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ただ、センターが支援をしても、こうした高齢者らの受け入れ先となる施設や自治体の理解が不十分なケースも少なくない。受け入れを断られることもあり、「『出所者は怖い人』というイメージが先行しがち」と同センターの社会福祉士、中川妙子さんは嘆く。
利用者が増えた場合は面談などのフォローが手薄になる可能性もある。南沢宏センター長は「ケアマネジャーなどに引き継ぐ仕組みが必要」とした上で、「司法と福祉の連携を進め、一人でも多くの累犯者を悪循環から救えるよう模索していきたい」と話す。
<※メモ>地域生活定着支援センター 満期出所した高齢者や障害者の支援を目的に、国が2009年以降に全国で設置を進め、県内では昨年10月、県済生会が県から委託を受けて済生会富山病院(富山市楠木)に開設。社会福祉士らが出所前から受刑者の住民票の再発行や生活保護の申請、福祉サービスの利用手続きなどを進め、出所後も定期的に面談を続ける。
(2012年11月1日 読売新聞)