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[京の深層]「みずのき美術館」8か月 障害者の感性胸打つ絵

 重度の知的障害者たちが描いた絵画を展示する「みずのき美術館」が、亀岡市北町にある。正規の美術教育を受けていない人たちの作品群だが、独特な感性の発露が見る者の心を打ち、国際的な評価も高い。開館から8か月。障害を持つ人たちの存在感と尊さを確かなものとする拠点として、注目を集めている。(上野将平)

 美術館はJR山陰線亀岡駅から南西に歩いて8分の商店街にある。大正時代に建てられた町家(2階建て)を改装し、昨年10月に開館した。外壁と内装を白亜で統一し、大きな窓を備えた開放的な空間だ。社会福祉法人松花苑が運営する知的障害者支援施設「みずのき」(亀岡市河原林町)が企画を担い、展示する絵画も同施設で創作されたものだ。

 みずのきでは、日本画家の西垣籌一(ちゅういち)氏(1912〜2000)が1964年から週1度、入所者に絵筆の使い方を指南していた。生み出された作品は約1万8000点にも上り、94年にはスイス・ローザンヌの美術館に6人の油絵など32点が永久収蔵された。

 現在も絵画教室は月に2度、施設内の一室で続いている。14日朝に訪ねると、9人がキャンバスに向かっていた。水色の着物姿の女性の写真を見ながら画面では緑色を塗り続けたり、亀岡の山と水田の風景を連想させる絵の一角を濃い紫で塗りつぶしたりと、ハッとさせられるような作品が出来上がった。

 指導役の美術家、森太三さん(38)は「大事にしているのは『あるがままに描く』こと。美術作品に仕上げることを追求してはいない」と語る。


 ローザンヌの美術館は、その名を「アール・ブリュット・コレクション」という。アール・ブリュットとは、第2次世界大戦後にフランスの芸術家が提唱した芸術分野で、日本語で「生(き)の美術」と訳されている。同美術館の館長は2006年に来日した際、この分野の作家を「秘密、孤独、沈黙を持つ人々」と表現した。具体的には、精神疾患や重い知的障害を持つ人たち、何らかの理由で社会から見放された孤独な人々を指す。

 みずのき美術館はこうした概念に沿った施設で、日本におけるアール・ブリュット美術館として注目されている。

 企画・運営担当の奥山理子さん(26)は「施設(みずのき)の入所者は、家族と同居することも難しい人たち。そんな環境に置かれ、社会との接点を求める切実な思いが、創作の源になっている」と語る。

 アール・ブリュット作品を扱う美術館は、全国で少しずつ増えている。先駆けは2004年に開館した滋賀県近江八幡市の「ボーダレス・アートミュージアムNO―MA」だ。同館が呼びかけ、11年に高知市で「藁工ミュージアム」が、12年に広島県福山市で「鞆の津ミュージアム」が産声を上げた。それに続いたのが、みずのき美術館だ。

 みずのきの施設長・沼津雅子さん(62)は「自ら『自分たちも社会の一員なのだ』と声を上げることが難しい障害者たちの『表現の場』を確保する。それにより、障害者が潜在的に持つ豊かな才能を社会に示すことで、美術館が障害者を支える存在になれることは間違いない」と語る。

 同種の美術館をもっと増やし、来館者と障害者、職員の交流が生まれることで、本当のバリアフリーを実現したいというのが、沼津さんたちの願いだ。

 ただ、駆けだしたばかりで認知度はまだ低い。奥山さんは「東日本大震災や経済停滞などの影響で、生き方に迷う人は多い。そんな人たちが、入所者たちの作品を見ることで気持ちが救われ、人生の次の一歩につながる瞬間がある」と語り、来館を呼び掛けている。

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アール・ブリュット作品が並ぶ、開放的な館内(亀岡市北町で)

(2013年6月17日 読売新聞)

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