重い心身障害を持つ子らのための施設として、西日本で初めて滋賀県内に開設されたびわこ学園が、創立50周年を迎えた。
山崎正策理事長(64)は、半世紀の歴史を「障害を持つ子の生活の場、医療の場であり続けた」と振り返り、「今後、すべての障害児者の支援窓口にしたい」と抱負を語る。記念シンポジウムと式典は今秋、開かれる。
びわこ学園は、戦後の混乱期から支援活動を始め「日本の障害者福祉の父」といわれ、県職員だった糸賀一雄氏(1914〜68年)が1963年4月、大津市内に設立した。現在、草津市と野洲市の施設などに約230人が暮らし、約140人が通ったり自宅で訪問介護を受けたりしている。
開設当時、支援制度は今ほど整っておらず、将来を悲観した一家の無理心中が後を絶たなかった。施設を設けるというだけで地域住民が反対する世相。偏見との闘いでもあった。当初、入所者が市街へ出ると周りから珍しがられたという。理解を得るため、小学校の運動会に参加したり保育園や幼稚園で園児らと交流したりを続けてきた。
「この子らを世の光に」。糸賀氏の理念を記した石板が、社会福祉法人・びわこ学園のある野洲市の施設玄関の仕切り壁に埋め込まれている。自ら輝く一人ひとりの生き方を尊ぶ言葉だ。
養護学校(現・特別支援学校)に自宅から通う重度障害の子らを側面から支えるため、学園は78年、短期入所事業を始めた。
その頃、滋賀医科大の小児科医だった山崎さんは、学園の当直医になった。治療した子が、その後も健やかに過ごせているかが気になる。県内の病院を転勤しながらも学園の子たちへの思いが募り転職を決めた。
重い障害を持つ子らは痛みや変調を自ら表現しにくい。山崎さんはしぐさや息づかいにまで注意を払う。学園でのそんな細やかな医療は、全国に知られるようになった。その功績が認められ、山崎さんは2011年、医療功労賞を受けた。
毎年、福祉関係者らが見学に訪れる。「食事はどうしているの」「お風呂は?」と熱心な質問を受けるたび、山崎さんは「障害者の日常を身近に感じる人が増えた」とうれしく思う。
一方、高齢化が進む障害者のための医療体制の弱さを心配する。求められる専門医療のレベルも上がる一方だ。山崎さんは「50年間培った障害者支援と医療のノウハウを生かし、学園があらゆるサポートの窓口になるよう努めたい」と、活動の幅を広げるつもりだ。
創立50周年記念シンポジウムは9月21日に草津市の県立長寿社会福祉センターで、式典は10月19日に大津市のピアザ淡海で開かれる。(生田ちひろ)
<びわこ学園>
重度心身障害児者らのために、病院の形を取る医療型入所施設、療養型介護施設などの事業を県内5か所で運営している。このうち、知的障害者の居宅介護や生活訓練を行う「知的障害児者地域生活支援センター」は、大津市から受託している。
(2013年7月4日 読売新聞)
山崎正策理事長(64)は、半世紀の歴史を「障害を持つ子の生活の場、医療の場であり続けた」と振り返り、「今後、すべての障害児者の支援窓口にしたい」と抱負を語る。記念シンポジウムと式典は今秋、開かれる。
びわこ学園は、戦後の混乱期から支援活動を始め「日本の障害者福祉の父」といわれ、県職員だった糸賀一雄氏(1914〜68年)が1963年4月、大津市内に設立した。現在、草津市と野洲市の施設などに約230人が暮らし、約140人が通ったり自宅で訪問介護を受けたりしている。
開設当時、支援制度は今ほど整っておらず、将来を悲観した一家の無理心中が後を絶たなかった。施設を設けるというだけで地域住民が反対する世相。偏見との闘いでもあった。当初、入所者が市街へ出ると周りから珍しがられたという。理解を得るため、小学校の運動会に参加したり保育園や幼稚園で園児らと交流したりを続けてきた。
「この子らを世の光に」。糸賀氏の理念を記した石板が、社会福祉法人・びわこ学園のある野洲市の施設玄関の仕切り壁に埋め込まれている。自ら輝く一人ひとりの生き方を尊ぶ言葉だ。
養護学校(現・特別支援学校)に自宅から通う重度障害の子らを側面から支えるため、学園は78年、短期入所事業を始めた。
その頃、滋賀医科大の小児科医だった山崎さんは、学園の当直医になった。治療した子が、その後も健やかに過ごせているかが気になる。県内の病院を転勤しながらも学園の子たちへの思いが募り転職を決めた。
重い障害を持つ子らは痛みや変調を自ら表現しにくい。山崎さんはしぐさや息づかいにまで注意を払う。学園でのそんな細やかな医療は、全国に知られるようになった。その功績が認められ、山崎さんは2011年、医療功労賞を受けた。
毎年、福祉関係者らが見学に訪れる。「食事はどうしているの」「お風呂は?」と熱心な質問を受けるたび、山崎さんは「障害者の日常を身近に感じる人が増えた」とうれしく思う。
一方、高齢化が進む障害者のための医療体制の弱さを心配する。求められる専門医療のレベルも上がる一方だ。山崎さんは「50年間培った障害者支援と医療のノウハウを生かし、学園があらゆるサポートの窓口になるよう努めたい」と、活動の幅を広げるつもりだ。
創立50周年記念シンポジウムは9月21日に草津市の県立長寿社会福祉センターで、式典は10月19日に大津市のピアザ淡海で開かれる。(生田ちひろ)
<びわこ学園>
重度心身障害児者らのために、病院の形を取る医療型入所施設、療養型介護施設などの事業を県内5か所で運営している。このうち、知的障害者の居宅介護や生活訓練を行う「知的障害児者地域生活支援センター」は、大津市から受託している。
(2013年7月4日 読売新聞)