自分の障害特性に合った働き方を見つけることが、就労への近道となる。
去年12月3日、東京大先端科学技術研究センター(先端研、東京都目黒区)にある研究室。大きなテーブルについた男女10人が、仕事の合間の雑談を楽しんでいた。「一番使われる手話って何だろうね」と、口と同時に手をしなやかに動かしながら女性が問いかける。発達障害、感覚器障害、肢体不自由……。全員が何らかの障害がある。
障害がある学生はアルバイトなどの就労経験が乏しく、仕事への具体的なイメージを持てないまま就職活動に臨む場合が多い。そこで先端研の人間支援工学分野では、障害学生や卒業生ら約30人をアルバイトや非常勤職員として雇用し、研究室の補助作業などに携わってもらうプロジェクトに取り組む。
先端研の近藤武夫准教授(37)は「発達障害が3分の1を占める。職場で『合理的配慮』を求める当事者として、どのような配慮を受ければ働けるかを、実体験を通して理解してもらうのが目的」と話す。
仕事の内容は、近藤准教授が文部科学省と共同で進める教科書デジタル化など。就労時間や研究室に通う頻度は、各自がそれぞれのペースで決める。
デジタル化作業の中心になっているのは桑原拓磨さん(31)(仮名)。広汎性発達障害の診断があり、精神障害者保健福祉手帳を取得している。東大に入学したが、対人関係を築いたり、限られた時間の中で優先順位をつけたりするのが苦手だった。それでも、「他人に助けを求められなかったし、自分に困難な部分があることを認めたくなかった」と振り返る。
休学期間を含め、9年間かけて大学を卒業。去年7月から週に1日、研究室で働き始めた。「チームで働けるようになった自分を評価しているし、過剰に集中して体調を崩さないよう対処できるようになってきた。焦りもあるが、今は着実に進むべき時」。桑原さんは、自分に言い聞かせるように言葉を選びながら説明してくれた。
去年4月から、企業に義務づけられる障害者の法定雇用率が1・8%から2%に引き上げられた。2016年からは「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行され、障害者への合理的配慮が義務化される。ただ、近藤准教授は「障害に合わせた働き方を認め、多様性を受け入れられる社会へ変わらなければ、障害者は排除されてしまうだろう」と指摘する。
発達障害の就労問題に詳しい梅永雄二・宇都宮大教授(58)によると、苦労して就職しても、仕事とのミスマッチで離職してしまう発達障害の学生が多いという。「入学後の早い時期からインターンシップ(就業体験)を通して、いろいろな仕事を試すことが重要。障害特性に合った職種を選ぶジョブマッチングの視点が求められる」
(この連載は保井隆之が担当しました)
(2014年1月4日 読売新聞)
去年12月3日、東京大先端科学技術研究センター(先端研、東京都目黒区)にある研究室。大きなテーブルについた男女10人が、仕事の合間の雑談を楽しんでいた。「一番使われる手話って何だろうね」と、口と同時に手をしなやかに動かしながら女性が問いかける。発達障害、感覚器障害、肢体不自由……。全員が何らかの障害がある。
障害がある学生はアルバイトなどの就労経験が乏しく、仕事への具体的なイメージを持てないまま就職活動に臨む場合が多い。そこで先端研の人間支援工学分野では、障害学生や卒業生ら約30人をアルバイトや非常勤職員として雇用し、研究室の補助作業などに携わってもらうプロジェクトに取り組む。
先端研の近藤武夫准教授(37)は「発達障害が3分の1を占める。職場で『合理的配慮』を求める当事者として、どのような配慮を受ければ働けるかを、実体験を通して理解してもらうのが目的」と話す。
仕事の内容は、近藤准教授が文部科学省と共同で進める教科書デジタル化など。就労時間や研究室に通う頻度は、各自がそれぞれのペースで決める。
デジタル化作業の中心になっているのは桑原拓磨さん(31)(仮名)。広汎性発達障害の診断があり、精神障害者保健福祉手帳を取得している。東大に入学したが、対人関係を築いたり、限られた時間の中で優先順位をつけたりするのが苦手だった。それでも、「他人に助けを求められなかったし、自分に困難な部分があることを認めたくなかった」と振り返る。
休学期間を含め、9年間かけて大学を卒業。去年7月から週に1日、研究室で働き始めた。「チームで働けるようになった自分を評価しているし、過剰に集中して体調を崩さないよう対処できるようになってきた。焦りもあるが、今は着実に進むべき時」。桑原さんは、自分に言い聞かせるように言葉を選びながら説明してくれた。
去年4月から、企業に義務づけられる障害者の法定雇用率が1・8%から2%に引き上げられた。2016年からは「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行され、障害者への合理的配慮が義務化される。ただ、近藤准教授は「障害に合わせた働き方を認め、多様性を受け入れられる社会へ変わらなければ、障害者は排除されてしまうだろう」と指摘する。
発達障害の就労問題に詳しい梅永雄二・宇都宮大教授(58)によると、苦労して就職しても、仕事とのミスマッチで離職してしまう発達障害の学生が多いという。「入学後の早い時期からインターンシップ(就業体験)を通して、いろいろな仕事を試すことが重要。障害特性に合った職種を選ぶジョブマッチングの視点が求められる」
(この連載は保井隆之が担当しました)
(2014年1月4日 読売新聞)