都会のオフィスで働く障害者をよく見るようになったが、ある大手企業の特例子会社で京都大学大学院卒の理系男子が働いているのを見たときには驚いた▲民間企業は全従業員の2%以上の障害者雇用が義務づけられている。特例子会社は一般就労が難しい障害者を雇うために認められたわが国特有の制度で、労働条件や賃金体系は一般社員と違うが、そこで働く人を親会社の雇用率に合算できるメリットが企業にはある▲知的障害や発達障害はコミュニケーションや認知機能に独特の偏りがあるのが特徴だ。いくら高学歴でも職場内の人間関係でトラブルになったり、障害特性に合った仕事を確保することが難しかったりするため、企業は敬遠する傾向が強かった▲「上から目線で偉そうにものを言っているように聞こえてしまう。それが障害特性だとわかっているのですが、かんに障(さわ)るんです」。京大院卒の彼が働く会社の管理者は苦笑する。ほかにも数人の発達障害者を雇用しているが、今のところ順調だ▲障害者福祉や発達心理の専門家ではないが、人事畑を歩いてきた管理者にはいろんな癖(くせ)のある社員と飯を食い、仲間として育ててきた経験がある。こういうところに日本の障害者雇用が伸びているカギがありそうだ。こんなにたくさんの知的障害や発達障害の人がオフィスで働いている国はほかにない▲「かんに障ると、これまで出会った上司や役員の顔を思い浮かべるんです」。気持ちが落ち着き、笑えてくるというのだ。「もっと偉そうで、自己主張が強い上司はたくさんいます。それに比べると障害のある社員は純粋なんですよ」
毎日新聞 2014年01月05日 00時49分
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