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車いす妨げる点字ブロック バリアフリーの盲点 整備進み問題点が浮き彫り

高齢者や身体障害者が移動しやすいように施設を改良する「バリアフリー」化が新しい段階を迎えている。駅や公共施設でエレベーターや多目的トイレなどの導入が進んでいるが、視覚障害者用の点字ブロックが車いす利用者には妨げとなるなど、抱える障害によっては対策がかえって障壁となる側面が浮かぶ。利用者の悩みをきめ細かくくみ取っていこうとする取り組みも始まっている。

■設置目的が伝わらず

国や自治体の積極的な支援もあり、東京都内の駅では約9割が段差を解消するなど、設備面でバリアフリー化は進んだ。しかし、多額を投じて作った設備が新たな障壁となるケースが浮上している。例えば点字ブロック。近年は景観に配慮して丸い突起部分だけ黄色く塗装したタイプが増えているが「かすかに見える色が頼りの弱視の人にとっては、見つけることが難しい」。視覚障害を持つ東京都江東区の鈴木弘美さんはこう指摘する。

日本工業規格(JIS)では、点字ブロックの突起部分だけの塗装を認めている。国土交通省のバリアフリー整備ガイドラインは、駅などの公共交通機関では原則として点字ブロック全体を塗装するよう定めているものの、一般の建築物は対象外。このため突起に気がつかずにつまずいてしまった、というケースもあるという。

点字ブロックが車いす利用者にとって妨げとなってしまう場合も。ブロックの上に乗るとガタガタ揺れてしまい、足がずり落ちて危ないことがある。点字ブロックの突起の高さはJISで5ミリメートルとしているが、規定まで様々な議論が重ねられてきた。不便な部分はあるが、車いす利用者も視覚障害者も折り合いをつけて妥協している状態だ。

設置目的が正しく伝わらない工夫もある。例えば、駅の階段などに近づくと聞こえてくる「鳥のさえずり」。鉄道各社の採用した音がバラバラなうえ、隣接するホームと区別するため複数の音色を使い分ける鉄道もある。「人を和ませるための音かと思っていた」(全盲の視覚障害者)との声があるほどで、国交省も「そもそも鳥の鳴き声を音案内として使用するのは賛否両論がある。今後もガイドラインとして推奨するかどうか、検討が必要」と認める。

整備が進む多目的トイレも、階段を使わないとたどり着けなかったり、手すりが遠すぎて車いすから便器に乗り移れないなど、実は障害者が使えないままになっている施工例がある。国交省のガイドラインは、便器の両側に設置する手すりの間隔は「70〜75センチメートル程度が望ましい」などと詳細に記載。周知徹底を図っているが、設置者にとって義務ではないため、設置場所の面積や予算の関係で、せっかくの整備がフイになっている。

こうした実態を踏まえ、行政にもよりきめ細かく対応しようとの機運も高まりつつある。

「高齢者は長く歩くと疲れるから、歩道のベンチを増やしては」「いや、視覚障害者や車いす利用者にとっては、歩道のベンチは邪魔」

東京都江東区が1月中旬に開いた研究会「ユニバーサルデザインまちづくりワークショップ」では、約30人が活発な議論を繰り広げた。若者や高齢者のほか、車いす利用者や視覚障害者、聴覚障害者など、様々な背景をもった区民が参加。多様な意見を吸い上げて、今後の街づくりに反映する方針だ。

■「障害者の行動範囲を広げたい」

バリアフリー化した施設についての情報を、インターネットを使って伝える取り組みも始まっている。「車いすの利用者や視覚障害者が外出時に一番気にするのがトイレの場所」と話すのは、障害者向けに旅行を手配する東京バリアフリーツアーセンター(東京・江東)の斎藤修理事長。そうしたニーズに応え、NPO法人のチェック(東京・世田谷)はトイレ情報サイト「チェック・ア・トイレット」を充実させる。全国から寄せられた約5万件のトイレ情報をインターネットやスマートフォンのアプリで提供する。

段差などのバリアーがあっても、健常者の手助けを得て障壁を乗り越えようという動きも。NPO法人アクセシブル・ラボ(宇都宮市)は、施設の内外に大きな段差があるもののスタッフが出入りを手伝う用意がある飲食店や施設の情報を提供するサイトを開設している。

代表理事の大塚訓平さん(33)は4年前に転落事故で負傷、車いすに乗るようになって考えた。「障害者も、おいしい物が食べたいし、行きたいところにも行きたい」

多少段差が残っていても、少しの介助があれば利用できる施設は少なくない。大塚さんは「サイトを通じて、障害者の行動範囲を広げたい」と話す。現在は栃木県内の飲食店を中心に約90件の施設情報を提供。新たな掲載情報を提供した車いす利用者の会員には、報酬として1件あたり原則1000円を支払うシステムで、今後は掲載対象を全国に広げたい考えだ。

■都内の駅、88%が段差解消

ハードの面ではバリアフリー化は順調に進んでいる。国土交通省によると、2011年に定めた基本方針で、1日あたり利用者が3千人を超える全国すべての駅やバスターミナルなどで20年度末までに「可能な限りのバリアフリー化」を進めることにしている。具体的には、段差解消、点字ブロック、障害者用トイレなどの導入が目標。国や地方自治体は鉄道事業者などに補助金を支給し、整備を後押ししている。

東京都によると都営バスでは、車いすで乗降しやすいノンステップバスの導入率が12年度末時点で100%に達している。都内のJR、私鉄、地下鉄などの鉄道駅では、99.4%で点字ブロックを設置済み。92.6%で車いすで利用可能な多目的トイレがあるほか、88.7%の駅でエレベーターなどを導入して段差も解消済みとなっている。

2014/1/29 6:30 -日本経済新聞

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