◆障害者権利条約の批准
今年1月20日、国は「障害者のことについて障害者抜きに決めないで」という合言葉のもとに誕生した国連の障害者権利条約を批准した。国としては140番目。遅れた理由は、国内法整備に時間をかけたためだ。
国は、2009年の暮れに障がい者制度改革推進本部を設けた。障害者団体が中心となる審議会の意見を受け、障害者基本法の抜本改正、障害者総合支援法の制定、障害者差別解消法の制定など、4年間にわたって条約批准に向けた制度改革を行ってきた。
もちろん、批准によって課題がなくなったわけではない。むしろいまだに山積する課題に対し、条約をどう完全実施させるか、取り組みが求められている。
この条約が目指しているのは、他の一般市民との平等である。障害ゆえに差別され、一般市民が当たり前に享有している人権さえも保障されない現実を変えることにある。
これまで障害者は弱者として保護の対象だったが、差別を受けても能力が劣るため、あるいは、それが本人のためとして、差別の実態が社会的に問題となることは少なかった。
しかし、障害者への差別を禁じた千葉県の条例制定を契機に、障害者に対する差別の実態が明らかになってきた。障害者差別解消法は、このような現実を踏まえ、不当な差別的取り扱いと、合理的配慮を提供しないことを差別とした。
例えば、小学校の修学旅行に障害のある子どもは参加できないといったことを耳にすることがある。障害があるだけで、参加を拒否するのは、障害を理由に他の子どもと違った扱いをするもので、不当な差別的取り扱いとなる。
学校側は、子どもの障害が重度で何かあった時の責任は持てない、と参加を拒むことに正当な理由があるというだろう。
しかし、重度障害があっても他の子ども同様、参加の機会を確保するために学校側はその子の状態に応じた工夫(合理的配慮)をしなければならない。工夫しようとしてもとうてい無理な場合には、仕方がないことにはなるが、法律ではそういった工夫が求められる。「差別禁止」といっても処罰するためにあるのではないのだ。
ただ、この法律の周知度はかなり低いようだ。福岡市でも障害者団体を中心に差別禁止を内容とする条例の制定運動が盛り上がってきている。そうした条例制定の動きを通じて、差別の実態と合理的配慮などについて、地域住民の理解を図ることが必要なのだ。
◇ ◇
ひがし・としひろ 1953年熊本県生まれ。生後1歳半でポリオ(小児まひ)。中央大法学部卒。2009年末から内閣府で障害者制度改革に携わり担当室長を務めた。著書に「障害者の権利条約と日本 概要と展望」(共著、生活書院)
=2014/06/20付 西日本新聞朝刊=
今年1月20日、国は「障害者のことについて障害者抜きに決めないで」という合言葉のもとに誕生した国連の障害者権利条約を批准した。国としては140番目。遅れた理由は、国内法整備に時間をかけたためだ。
国は、2009年の暮れに障がい者制度改革推進本部を設けた。障害者団体が中心となる審議会の意見を受け、障害者基本法の抜本改正、障害者総合支援法の制定、障害者差別解消法の制定など、4年間にわたって条約批准に向けた制度改革を行ってきた。
もちろん、批准によって課題がなくなったわけではない。むしろいまだに山積する課題に対し、条約をどう完全実施させるか、取り組みが求められている。
この条約が目指しているのは、他の一般市民との平等である。障害ゆえに差別され、一般市民が当たり前に享有している人権さえも保障されない現実を変えることにある。
これまで障害者は弱者として保護の対象だったが、差別を受けても能力が劣るため、あるいは、それが本人のためとして、差別の実態が社会的に問題となることは少なかった。
しかし、障害者への差別を禁じた千葉県の条例制定を契機に、障害者に対する差別の実態が明らかになってきた。障害者差別解消法は、このような現実を踏まえ、不当な差別的取り扱いと、合理的配慮を提供しないことを差別とした。
例えば、小学校の修学旅行に障害のある子どもは参加できないといったことを耳にすることがある。障害があるだけで、参加を拒否するのは、障害を理由に他の子どもと違った扱いをするもので、不当な差別的取り扱いとなる。
学校側は、子どもの障害が重度で何かあった時の責任は持てない、と参加を拒むことに正当な理由があるというだろう。
しかし、重度障害があっても他の子ども同様、参加の機会を確保するために学校側はその子の状態に応じた工夫(合理的配慮)をしなければならない。工夫しようとしてもとうてい無理な場合には、仕方がないことにはなるが、法律ではそういった工夫が求められる。「差別禁止」といっても処罰するためにあるのではないのだ。
ただ、この法律の周知度はかなり低いようだ。福岡市でも障害者団体を中心に差別禁止を内容とする条例の制定運動が盛り上がってきている。そうした条例制定の動きを通じて、差別の実態と合理的配慮などについて、地域住民の理解を図ることが必要なのだ。
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ひがし・としひろ 1953年熊本県生まれ。生後1歳半でポリオ(小児まひ)。中央大法学部卒。2009年末から内閣府で障害者制度改革に携わり担当室長を務めた。著書に「障害者の権利条約と日本 概要と展望」(共著、生活書院)
=2014/06/20付 西日本新聞朝刊=