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Channel: ゴエモンのつぶやき
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社説:刺された盲導犬 人の心も傷ついた

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 さいたま市の全盲の男性が連れていた盲導犬オスカーが7月下旬、何者かに腰付近を刺されけがをした。盲導犬は、視覚障害者の目の代わりになって生活を支える。男性は「ショックで外に出るのが怖い」と話したという。卑劣と言うほかない。

 視覚障害者に対する悪意や敵意を感じさせる事件だ。模倣犯が出てくるのではと不安も募る。オスカーにとどまらず、全盲の男性の心にも大きな傷を負わせた罪は重い。警察は徹底的に捜査してもらいたい。

 男性が仕事に向かう電車内でオスカーは被害に遭ったようだ。先のとがったもので刺されたとみられる。

 盲導犬と障害者の関係は濃密だ。1年近い訓練を経た盲導犬は、最後に障害者と約1カ月間の合宿生活を経てパートナーになる。盲導犬が献身する一方で、障害者側は衛生面を含めた日常の世話を尽くす義務を法的に負う。深い信頼関係で結ばれ、生活を共におくる。

 人間との生活を楽しみ、穏やかに反応する犬が盲導犬に選ばれる。主人に危険が及んだ時以外はむやみにほえない。オスカーも刺された時にほえなかった。

 そのため、事件の報道後、「盲導犬は痛みをがまんする訓練を受けている」との誤解が広まった。「盲導犬は抑圧されてかわいそう」といった、矛先を障害者に向けるかのような言葉を投げかけられた人もいる。看過できないことだ。こうした無理解が障害者を深く傷つける。

 また傷害に至らなくても、盲導犬をたたこうとしたり、しっぽを踏んだりの嫌がらせは多くあるという。

 盲導犬のほか、肢体の不自由な人を助ける介助犬、さらに聴導犬について定めた身体障害者補助犬法が2002年に成立した。

 公共施設や交通機関、民間でも不特定多数の人が利用する施設は、原則として補助犬を伴った入店を拒んではならないと規定する。だが、入店拒否がいまだ後を絶たない。

 飲食店や医療機関などが衛生面などを理由に拒むことも多い。だが、補助犬は決まった場所でしか排せつしないようしつけられ、障害者の責任で清潔に保たれる。

 そうした前提で、法が同伴の受け入れを義務付けていることを理解したい。補助犬を拒むことは、その隣にいる障害者を拒むことと同じなのだ。

 残忍な事件の動機は不明だが、障害者や補助犬への社会の理解がまだまだ足りない。事件をきっかけに、そんなことを考えさせられる。

 ただし、盲導犬の育成団体などには事件後、「市民の一員として盲導犬の安全を見守りたい」との声が多く寄せられたという。そうした声が社会の力となることを信じたい。

毎日新聞 2014年09月05日 02時40分

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