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世界一の「耳」 ゴールボール メダリストと体験 暗闇、感覚研ぎ澄ます 

しびれた 世界一の「耳」 ゴールボール メダリストと体験 暗闇、感覚研ぎ澄ます 頭脳戦も…終われば汗だく

 ロンドン・パラリンピックで日本女子が金メダルを獲得し、一躍注目を浴びた「ゴールボール」。アイシェードと呼ばれる目隠しを着け、音だけを頼りに戦うスポーツだ。10月上旬、福岡市であった体験会で金メダリストの小宮正江(37)=福岡市西区、浦田理恵(35)=同中央区、安達阿記子(あきこ)(29)=福岡県八女市=の3選手から指導を受ける機会を得た。世界を制した技の一端に触れ、その面白さと奥深さに驚いた。

 これが世界を制した「耳」なのか。

 浦田選手の指導を受け、アイシェードを着けずに約18メートル先の無人のゴールに向けてシュート練習をしたときだ。1・25キロあるボールはずっしりと重く、コントロールが難しい。運良くゴールに入った瞬間、「うわぁ、入りましたね」と声を掛けてくれた。浦田選手は弱視で見えていないはず…。

 「音を“見て”いるんです」。一緒に指導してくれた工藤力也選手(31)がこう教えてくれた。「彼女のサーチ力(ボールの位置を察知する力)は世界一ですよ」

 約40人が集まり、がやがやした体育館内で、浦田選手は私の投げたボールの音から、スピードは遅く、真っすぐ転がっていることを聞き取ったという。「ボールがどう転がっていくか、目の前に絵を描くことができるんですよ」と浦田選手。一流選手の想像を超えた能力にしびれた。

   ☆   ☆

 次に体験したのは守備。「寝転がっている」なんて言う人もいるかもしれないが、とんでもない。

 ゴール幅は9メートルと広く、高さは1・3メートルと低めなので、座ったような状態から体を横向きに倒してシュートを阻止する。「腕、脚、おなか、全身に力を入れて」。基本姿勢の練習で、小宮選手がアドバイスをくれた。体の隅々に力を入れないと、止められない。

 試合と同じようにアイシェードを着け、相手シュートを止めるのに挑戦。目隠しをすると、想像以上に真っ暗な世界。慣れていないせいか、周りの音も聞こえにくい。

 鈴の音がしたと思う方向に、片っ端から体を倒してみるが、ボールに触れても止められたかどうか分からない。安達選手から「やったね」と言われ、自分が止めたんだ、と理解できた。

 見本を見せてくれた3人の金メダリストたちは、体験会でボールをほとんど止めていた。小宮選手は「位置だけではなく、相手が疲れていることも音から分かります。疲れている相手には集中攻撃をするんですよ」。シュートを投げ返す数秒の間に、弱点を見つけていたのだ。

   ☆   ☆

 あっという間の1時間半。体験会が終わると、汗びっしょり。全身の筋肉が硬直したようで、特に太ももはパンパンに張った。それでも、視覚以外の全ての感覚を研ぎ澄まし、勝つために頭脳戦を展開していることに興味が湧いた。

 福岡県は競技熱が盛んで、競技人口は約50人。視覚障害のある人とない人が競い合う大会もあるという。「筋はいいですよ」。関係者にそう声を掛けられた私は、筋肉痛の中でその気になっている。 

ゴールボール

 アイシェードと呼ばれる目隠しを着けた2チーム(各3人)が、サッカーのように相手ゴールを狙う視覚障害者のスポーツ。コート(縦18メートル、横9メートル)の両サイドいっぱいにゴールがあり、交互に鈴入りのボールを手で転がしてシュートをする。守備側は鈴の音を頼りにシュートを防ぎ、ボールに触れて10秒以内にシュートしないと反則。2000年シドニー・パラリンピックで公式競技となり、日本女子は初出場の04年アテネ大会で銅メダルを、今夏のロンドン大会で金メダルを獲得した。体験会の問い合わせはシーズアスリート=cs-athlete@ahc-net.co.jp。

西日本新聞-(2012年10月18日掲載)

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