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被害者の実名を伏せる神奈川県警の二重の差別 支援団体からも疑問

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 ナチスドイツの「優生思想」にかぶれたかのように、無辜の命を次々と葬り去っていった植松聖(26)。が、その凶行にたおれた方々の情報は、いっこうに伝わってこない。警察当局の“計らい”で身元が秘匿されているというのだから、実におかしな話ではないか――。

 ***

 相模原市の障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で起きた事件では、19名の入所者が死亡、26名が重傷を負った。が、今回、県警が公表したのは、被害者の性別と年齢のみ。殺人事件においては通常、各都道府県警はおしなべて犠牲者の氏名を公表するのが原則であるから、実に奇妙な対応がとられたことになる。

 神奈川県警担当記者が言う。

「県警によれば、事件当日に19人の遺族全員を対象に個別の聞き取りをしたところ、全員が氏名公表を望まなかったとのことでした。障害者福祉施設での犯行という事情も勘案し、特例として非公表にしたというのです」

 メディアにとっては、報じようにも素材がないのである。ひとたび事件が発生すると、加害者については“実名報道”をめぐる議論がしばしば湧き起こるところだが、今回のようなケースはいわば稀。とはいえ、

「一律匿名での発表という扱いには、大いに違和感を覚えます」

 そう話すのは、立教大学の服部孝章名誉教授(メディア法)である。

「『個人情報保護』『捜査情報非開示』などと理由を並べ立てますが、明らかに他の事件との扱いが異なっています。理由づけも曖昧なまま、このように非公開とするのは、人間の死に対する差別とも言えます」

 プライバシーの尊重などといえば聞こえはいいが、現状では“二重の差別”を生んでいるというのだ。

「遺族によっては『闇から闇に葬られたくない』という方もいます。1人の人生が報道されずに時が経つことに違和感を持つのです。匿名か実名かについては各マスコミの責任であって、公的機関が決めるべき問題ではありません」(同)

■「遺族でも議論を」

 実際に、障害者を支援する団体からも疑義を呈する声が上がっている。全国知的障害者施設家族会連合会の由岐透理事長が言う。

「警察の判断で名前を伏せたというのは、あまりに衝撃的な事件を前にして、知的障害者だからと勝手に忖度しているような気がしてなりません。どんな事件であれ、亡くなった人の名前や年齢は公表されるのに、この取り扱いはおかしいと思います」

 あわせて遺族にも、提言があるという。

「我々のような障害を持つ者の家族が『隠したい』という姿勢をとれば、いくら運動の中で『障害があっても健常者と同じ人間』と訴え続けたところで、言っていることと違うのではないか、との疑問を抱かれかねません。どんな思いで警察に伝えたのか、遺族の皆さんにも、もっと議論を深めてほしいのです」

■危険思想

 ジャーナリストの徳岡孝夫氏も、

「言論の自由か個人のプライバシーかという問題は永遠のテーマではありますが、安否情報という観点からは報じる必要があるでしょう。また、いかに些細な事柄であれ、今回のように当局が一つ隠し始めると、隠すことへのハードルがどんどん下がっていくのです」

 そう危惧するのだ。

「かつてソ連が反体制運動家のアンドレイ・サハロフ博士を抑え込み、あるいは中国が天安門事件を隠蔽した。こうして、言論の自由は確実に衰えていくことになります」(同)

 つまりは「危険思想」への一里塚に他ならないというわけだ。

 選択の余地を排除し、独断で各メディアを縛りつけた格好の神奈川県警に尋ねると、

「質問されても一日では答えられないと考えてほしい。回答する場合は、来庁してもらう」(広報県民課報道係)

 などとしながら、

「方針は変えるつもりはありません」

 と、木で鼻をくくった“お返事”が戻ってきたのだった。

「特集 障害者施設襲撃! 死亡19名の実名を隠した神奈川県警の『危険思想』」より

「週刊新潮」2016年8月11・18日夏季特大号 掲載


障害者支援、選手が活躍 アスルクラロ沼津

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 障害者の支援事業を手掛ける「富士山ドリームビレッジ」(富士市、伏見修代表)で、サッカーの日本フットボールリーグ(JFL)アスルクラロ沼津の選手が活躍している。選手は職員として放課後等デイサービスなどを担当し、誰もが尊重し合って生活する「ノーマライゼーション」について考える機会を地域に与えている。一方で、選手自身は仕事を得ることができるなど企業とチームの双方に有益な環境が生まれている。
 7月下旬、富士市依田橋の放課後等デイサービス「ビレッジキッズ富士」で「パズルがしたい」という子供に、薗田卓馬選手(23)が優しく「先にプリントを終わらせよう」と声を掛けた。選手は子供の送迎に付き添い、宿題の手伝いや一緒にサッカーをすることも多い。同社役員の西躰亮貴さんは「子供たちを全身で受け止めてくれる。保護者からは『突然暴れることが少なくなった』という声も聞く。子供も選手を信頼しているのが分かる」と目を細める。
 選手にとっても、子供たちと過ごす時間は重要だ。保健体育の教員免許を持ち、特別支援学校で働いた経験もある中筋誠選手(29)は「暴れたりする子もいて、うまくいくことばかりではないが、子供から元気をもらう。人として成長させてもらっている」とやりがいを語る。沼津市の工場内にある同社の請負作業場で作業訓練に臨む障害者の指導員として働く選手もいる。

 「障害者を知ってもらうには、地域というキーワードが重要」と考える同社。「地元で活躍する選手が施設で働いていることで、地域の人に障害者の存在を認識してもらい、ノーマライゼーションの考えを理解してもらうきっかけになっている」と、関係者は効果を実感する。その上で「選手は子供や利用者にとって憧れの存在。夢を追う姿を見せてくれ、良い刺激を与えてくれる」と評価する。

 <メモ>アスルクラロ沼津 来季のJ3参入を目指し、沼津市を拠点に活動するJFLチーム。選手の大半はアマチュアで、午前中の練習を終えると、午後は製造や接客などの仕事をして生活費を稼いでいる。練習や試合などで就労時間が限られるため、さまざまな企業が「協力企業」として選手を雇用している。富士山ドリームビレッジでは、5人の選手が働いている。

  元気いっぱいの子供たちの宿題などを手伝う選手ら   2016/8/23   @S[アットエス] by 静岡新聞

四肢まひの医師 流王さん講演 障害者差別をなくすには

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 岡山大病院精神科医師の流王雄太さん=岡山市北区=は、高校時代に四肢まひの重度障害を負い、車いすでの生活を余儀なくされている。今春、障害を理由にした不利益をなくすため、障害者差別解消法が施行され、法整備は進んだが、施設面はもちろん、心のバリアフリーは十分とはいえないのが現状だ。同市内で行われた流王さんの講演には、誰もが暮らしやすい社会をつくるためのヒントがちりばめられていた。

 障害があると、愚痴を言いたくなるような出来事と嫌になるほど遭遇する。たいてい我慢しているのだが、今回は聞いてほしい。

 20年以上前、就職活動で苦しんでいた時、岡山県内の自治体に就職できないか相談に行った。担当者は「自分一人で通勤できないと雇用できない」と言った。家族に車で送ってもらえば通えるのだが、駄目だという。最近になって論文を調べたところ、ほんの一部を除き、全国の多くの自治体で、このルールが残っていることが分かった。

 他の会社ではこんなこともあった。私は情報処理の資格を持っているので、そういう関連の会社の採用試験に臨んだ。ところが、面接で「お客さんの会社に自分の車で運転して行ける人を探している」と断られた。コンピューターをほとんど触ったことのないような人たちがシステムエンジニアとして雇われ、(仕事について)詳しい私は、他の理由が優先されて雇ってもらえない。悔しかった。

 エレベーターが怖い

 大きめの電動車いすに乗って街に出掛けると、さまざまな問題にぶつかる。予約した店で、エレベーターが小さくて入れないということは日常茶飯事。乗れても、ボタンに手が届かないことがある。

 ある日のこと、エレベーターのドアを開けて待ってくれる人がいたので乗り込み、降りる階のボタンを押してもらおうと思ったら、その人はそのまま出て行った。ドアが閉まり、自分ではボタンを押せない。次の人が乗ってくるまでじっと待つしかなかった。エレベーターはいまだに怖い。

 スマートフォンやタブレットを使うのも大変。指での操作ができないので、私は特別な装具をつける必要がある。障害があるというだけで、人の何倍もお金がかかる。

 米国には(建築物や道路の段差をなくしたり、雇用での差別を禁じたりした)ADA法という法律がある。内容的には日本の障害者差別解消法のようなものだが、ADA法の方が義務や罰則がはっきりしている。障害を理由に機会の平等を与えないことは差別だとし、就職面接の際に障害や病気の有無、重度を尋ねてはいけない。約20年前、米国に住んでいる親戚の家に数週間遊びに行った。山奥であろうと行く先々でエレベーターやスロープがちゃんとついていて驚いた。観光地でない普通の町でもだ。

 日本のように事前に電話をして入れるか確認しなくてもいいし、入店を断られるのではと心配する必要もない。行きたい所に行けて、やりたいことがやれる。自分がどんどん元気になっていくのを実感した。

 大切なのは相談

 障害者差別解消法に出てくる「合理的配慮」について考えてみたい。内閣府が示した合理的配慮の事例をみると、ハードルの高いものが多い。具体例を挙げれば、エレベーターがない施設で移動する際にマンパワーでサポートするなど。これはどこでもできることではない。障害がある人に言いたいのは、あまり期待をしすぎないように、ということだ。実際に支援する方は相当大変。うまくいかなくても諦めてはいけない。

 支援者側にも注意が必要。それは最初からあまり気合を入れすぎないことだ。そうしないと、本来できることも放棄してしまう“アレルギー”が出てくるのではないか。明らかにおかしいルールは早く変えてほしいし、誰でも簡単にできることはすぐに実行してほしい。ただ、それ以外の問題は時間をかけて、みんなで工夫して合理的配慮を“育てていく”べきだと思う。

 一番大切なのは、互いに意見を言って相談すること。支援者が一方的に考えても、当事者の望んでいることは違うかもしれない。障害の種類によっても分かることと、分からないことは違う。一緒に考えることが合理的配慮につながる。

 7月24日、岡山市北区南方のきらめきプラザで開かれた障害者差別解消法施行にちなんだシンポジウムでの講演要旨。

 障害者差別解消法 障害を理由とした差別を禁止する目的で4月に施行された。障害者本人や家族、支援者らから要望があった場合、費用面などの負担が過重にならない範囲で、障害者の社会的障壁を取り除く「合理的配慮」を国や自治体に義務付けた。民間企業には努力義務とした。

 りゅうおう・ゆうた 高校1年の時、所属していたラグビー部の試合中に首を骨折。両手首や指先、両足が動かなくなり、車いす生活になった。岡山大大学院に進学後、山形県に車いすの医師がいることに勇気づけられ、医学を志す。2001年に医師国家試験に合格。07年には、仙台市の社会福祉法人が前向きに生きる全国の障害者を表彰する「ありのまま自立大賞」を受賞した。

 

誰もが暮らしやすい社会の実現を訴える流王さん

(2016年08月23日  更新)山陽新聞

障害者の労働環境 6割が「困難」経験と回答

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 人材紹介の「Vagas.com」と、障害者雇用促進に取り組む「タレント・インクルイール」が行った調査で、障害を持つ専門職労働者は国内労働市場において依然としては何らかの困難に直面しているという結果が出た。こうした専門家達の62%が既に問題に直面したと述べており、うち66%はチャンスの不足、40%は低い給与、38%はキャリアプランの欠如を挙げているという。G1サイトが18日付で報じた。

 「Vagas.com」の調査部門コーディネーター、ウルバノ氏は、調査で提起された主要な問題が、障害者が労働市場の専門分野における条件の改善を強く望んでいる事を示しているとの見方を示した。

 調査回答者の10人中4人が、労働環境において何らかの差別を受けたことがあると答えている。このうちの57%はいじめの被害にあっており、12%は昇進の困難を経験、9%は仲間外れにされたなどとなっている。

 ウルバノ氏はこうした状況について、「多くの障害者が抱える現実の一部」だと指摘。企業に障害者雇用枠を定めた法律制定から25年がたったが、「多くの人が障害を持つ専門職に敬意を抱いていない。残念な事に今回の調査にその事実が反映されている」と述べている。

 この調査には4319人が回答しており、うち男性は62%。51%は独身者、56%は子供がなく、52%は雇用されている。

 全回答者のうち58%は身体に障害があるといい、26%は聴覚、19%は視覚、7%は知覚の障害を持っていると答えている。

 回答者の58%は、人事部門において障害者と契約を結ぶ準備ができていないと回答した。人事部門が障害者の必要を支援したかどうかとの問いに対して、22%は支援があった、28%は支援がなかった、そして50%は助けが要らなかったと答えている。

 支援があったとの回答の内訳は、14%が机等の備品や設備の適合、14%が援助などのサービスがあった、12%はアクセスの支援となっている。

 雇用されていると答えた52%のうち、53%は10年以上就労しており、60%は既に昇進したと回答。また、障害を持つ専門職は平均で5つの企業で働いているが、うち84%は障害に関連した理由で解雇された事はないと答えたという。

 一方、1年未満の失業者は61%を占めている。理由としては、まだ求職していない(17%)、給与(13%)、キャリアプランの欠如(13%)、健康上の問題(9%)等が挙げられている。

2016年8月20日付け   サンパウロ新聞

点字ブロック上にフェンス 視覚障害者転倒し骨折 兵庫

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 兵庫県姫路市飾磨区の山陽電鉄西飾磨駅で7月、視覚障害がある50代の男性が点字ブロックの上に置いてあった鉄製の工事用フェンス(高さ約1・8メートル)に白杖(はくじょう)が引っかかり転倒。太ももを骨折する2カ月の重傷を負っていたことがわかった。

 山陽電鉄によると、ホームから改札へ続く階段の踊り場にある壁に沿って設けられた点字ブロックの上に、壁の修理のため工事用フェンスが設置されていた。男性は7月2日午前7時15分ごろ、下りホームから改札へ向かってフェンス沿いに歩いていたところ、右手に持っていた白杖がフェンスに引っかかり、バランスを崩し倒れたという。

 山陽電鉄とフェンスを設置した工事の委託業者は同日、男性の自宅を訪れて謝罪した。山陽電鉄は「駅施設内で発生した事故を重く受け止めている。今後は駅施設の管理者として、より安全の視点から再発防止に努めたい」とのコメントを出した。

2016年8月23日   朝日新聞

障害者の転落死 危ない時は声掛けよう

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 東京都港区の地下鉄・銀座線で、盲導犬を連れた視覚障害の会社員男性が、ホームから転落し、電車にはねられて亡くなった事故が波紋を広げている。

 男性は今年3月に道内から東京に転居し、現場は勤務先の最寄り駅だった。

 視覚障害者団体などが独自に事故原因を調べている。

 事故から1週間。痛ましい悲劇を繰り返さぬため、社会としてもしっかり検証したい。

 事故が起きた青山一丁目駅はホーム幅が3メートルしかなく、線路際から1メートル付近に敷かれた点字ブロック上には柱があった。健常者でも不安を感じる構造だった。

 男性は、右手で犬につながるハーネスを持ち、点字ブロックを越えたため、駅員がマイクで注意を呼びかけたが、間に合わず、向かって左側の線路に落ちた。

 前方に柱があり、犬がそれを避けようとして男性が線路側にはみ出したのか、向かいのホームの音で電車が到着したと勘違いした可能性も指摘されている。

 訓練された盲導犬を連れていても、こうした事故が起こりうると受け止めるべきだろう。

 障害者団体の調査では、目の不自由な人の4割近くが駅ホームからの転落を経験している。点字ブロックだけでは十分な対策になっていないと受けとめるべきだ。

 求められるのは、可動式ホーム柵「ホームドア」の拡充だ。

 国土交通省によると、ホームドアの設置駅は年々増え、今年3月末段階で全国の鉄道駅665駅で設置されている。しかし、普及率は全駅の7%にすぎない。

 利用客が少ない駅への設置は予算的にも現実的でないが、利用客が多く、構造的に可能な駅は設置を急いでほしい。

 現場駅は乗り換え客も多く、事故は夕方の帰宅ラッシュ時に起きた。周囲には少なからぬ人がいたとみられる。そんな中で事故は起きた。

 身の回りでも、似たような光景を目にすることは少なくない。

 たとえば、駅の階段などで、上り下りに難渋している高齢者や障害者に手をさしのべることにためらうことはないだろうか。

 困っている人が居ても、おせっかいと思われやしないかと躊躇(ちゅうちょ)する。そんな空気が事故を止められなかったとしたら残念だ。

 盲導犬を連れていたり、白いつえを持った人が危ない場面にいたら、小さな勇気を出して声を掛けよう。

08/23    北海道新聞

医師の冷たい目「人生の原風景」 依存し合える社会を

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脳性まひで後遺症 東大准教授・熊谷晋一郎さん(39)

 リハビリを補助する医師が、床に寝そべる自分を上から冷たい目で見下ろしている。東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎さん(39)が、幼い頃に体験し、今も心に残る「人生の原風景」だ。津久井やまゆり園の事件と植松聖(さとし)容疑者(26)の供述を知り、再びその風景が熊谷さんの心に現れた。障害者を取り巻く社会の「時計の針」が巻き戻ってしまわないかと不安が湧いた。

特集:相模原の殺傷事件

 熊谷さんは生まれて3日目に意識不明に陥り、脳性まひの後遺症が残った。手足が不自由で、車イスに乗る生活を送っている。

 食事から排泄(はいせつ)まで、母親に介助される生活を送った。幼いころの休みには山奥の施設に泊まり込み、リハビリに取り組んだ。ほかに大人がいる時と、自分と2人きりになった時で、態度を一変させる医師がいた。「中には足で踏んづけてくる人もいました。人として扱われなくても、どうすることもできない無力感があった」

 1980年代ごろから、環境が変わった。医学的知見の蓄積により、脳性まひなどの障害は、治療に取り組んでも大幅な改善が見込めないことがわかった。世の中は障害者が「健常者の社会」に適合するように求めてきたが、障害者側に近づく方向に大きくかじを切った。「社会はもっとやわらかく、様々な人を包括できるべきだ」という考えだ。熊谷さんは「障害を持ったままでいいと思えるようになった。時計の針はそうやって進んだ」と振り返る。

 だが、事件は障害者と、差別意識を持つ者との「分断」をあらわにした。

 「時計の針を巻き戻すことなく、すべての人のいのちと尊厳が守られる未来を目指してメッセージをわかちあおう」。事件の後、熊谷さんはそんな思いで追悼集会を開いた。約200人が参列し、国内外から追悼の思いが寄せられた。

 事件は日本の社会全体に大きな気づきをもたらしたと熊谷さんは考えている。それは健常者も障害者も、多くの人が「いつか自分が社会にとって不要な存在になり、排除される恐怖を感じている」ということだ。

 人の価値が労働の対価で測られ、グローバル経済の中でだれもが厳しい競争にさらされる。競争に敗れれば、次々と「不要」とされる社会構造。貧富の差が広がり、人工知能(AI)の開発といった技術革新も、従来の仕事を人間から奪っていく。

 「明日にも自分が価値のない存在とされてしまう不安が広がっている社会では、悪意は障害者のような、より不要だと思われている存在に向かいやすくなる」

 どのような社会が望ましいのか。熊谷さんは「人と人が依存し合い、連帯できる社会」と語る。これまでは、重度障害者は施設に依存するしかなかった。一方、健常者なら誰にも依存できなかった。いま、健常者も障害者も同じ不安や恐怖を感じている時代だからこそ、「より人と人との連帯を深めていける可能性がある」と考えている。これから仲間とともに、「依存し合える社会」の形を模索し、提示していくつもりだ。

 くまがや・しんいちろう 山口県出身。東大医学部を出て、小児科医に。東大付属病院や千葉県埼玉県の市中病院などに勤務し、昨年から現職。発達障害者薬物依存症患者らと、生活の困難などを話し合い、互いに原因や解決策を提示しあって改善を目指す「当事者研究」に取り組む。

写真・図版 

「どれだけ社会の役に立つか。そんな物差しは限界にきている」と語る熊谷晋一郎さん=東京都目黒区の東大先端科学技術研究センター

2016年8月24日   朝日新聞

61歳女性ランナーリオへ、パラ視覚障害マラソン

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 9月7日(日本時間8日)に開幕するリオデジャネイロ・パラリンピックで初採用された女子視覚障害者マラソン(42・195キロ)に、44歳で長距離走を始めた弱視ランナー・西島美保子選手(61)(福井市)が挑む。伴走者に関するルールが壁になり、思うように走れない時期もあったが、夫や仲間の支えを受け、世界最高の舞台に立つチャンスをつかんだ。

 「蒸し暑くて、風も強い。リオもこんな感じ、かな」

 暑さの中、大阪市東住吉区の長居公園で30キロを走り切った後、西島さんはそう言って笑顔を見せた。

 先天性の弱視で、視力は両目で0・02。眼鏡やコンタクトレンズでも矯正できず、2、3メートル先の視界がぼやける。1人で大会に出るとコースを間違えてしまうため、輪状にしたロープを使って伴走者にガイドをしてもらいながら走る。

 本格的に走り始めたのは子育てが落ち着いた2000年。44歳だった。盲学校時代は吹奏楽部だったが、趣味でマラソンをしていた夫、徹さん(63)の影響で練習を始めた。すると翌年の初マラソンで市民ランナーの目標タイムで、男性でも難しい3時間半を切り、3時間26分で走った。

 03年に国内開催の国際大会の一つ、大阪国際女子マラソンに出場。ただ、走りに余裕のある男性の伴走者を希望しても、「助力になる」として認められず、女性の出場者に頼んで並走してもらうしかなかった。

 男性伴走者は翌年も認められず、思い切り走れないつらさから、欠場が頭をよぎったが、仲間たちが競技団体に掛け合ってくれ、05年、3回目の出場でようやく認められることになった。

 パラリンピックの視覚障害者マラソンは男子だけだったが、50歳を超えても走力を保ち続け、57歳で強化選手に。女子部門の開催が正式決定した15年には世界選手権で5位、国内の選考レースで2位に入るなど実績を上げ、リオ大会出場の夢をかなえた。

 年を重ね、疲労回復は遅くなったが、高低差のあるコースでの走り込みや筋力トレーニングで補う。

 リオへはメダル候補の呼び声が高い道下美里選手(39)(福岡県太宰府市)や、近藤寛子選手(49)(滋賀県栗東市)も出場する。

 徹さんは「途中でつらくなっても、みんな苦しいと思って粘ってほしい」、リオでも伴走を務める溝渕学さん(56)(神戸市)も、「この年齢までトップレベルを維持してきたのはすごい。本番で力を見せつけてほしい」と励ます。

 西島さんは「リオ大会出場は、頑張ってきたご褒美をもらった気持ち。精いっぱい走りたい」と本番を楽しみにしている。

伴走者の溝渕さん(左)と練習する西島さん(大阪市東住吉区の長居公園で)=原田拓未撮影

伴走者の溝渕さん(左)と練習する西島さん(大阪市東住吉区の長居公園で)

2016年08月24日 Copyright © The Yomiuri Shimbun

防災無線を文字に変換 聴覚障害者へアプリ

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 災害情報を聴覚障害者に届けるため、防災行政無線やラジオなどから流れる音声を文字に変換して表示するスマートフォンやタブレット端末用アプリが、IT企業などによって次々と開発され、実用化が始まっている。通信環境が悪化すると使えなくなるファクスやメールと異なり、端末に音さえ届けば情報が伝達できるのがメリットだ。

 「フィールドシステム」(那覇市)が開発したアプリは「サウンドコード」。「津波が来ます。海岸に近付かないように」といった文章を、サウンドコードと呼ばれる特殊な音声に変換し、防災行政無線やラジオを通じて流すと、アプリが端末のマイクでサウンドコードを認識し、文章に再変換して画面に表示する仕組みだ。文章はアプリに蓄積され、必要な時に読み返せる。

 同社は来年4月、このアプリを使った情報伝達システムを自治体やラジオ局向けに発売する予定で、「情報が届くことで一人でも多くの人が助かるようにしたい」としている。

 「エヴィクサー」(東京都中央区)の音声技術を使って、2014年に「パラブラ」(同中野区)が開発した「UDCast(ユーディーキャスト)」も、防災行政無線などから人間の耳には聞こえない周波数の「非可聴音」を発信すると、アプリが感知し、あらかじめ登録されていた「地震」や「水害」などの災害情報を画面に表示する。

 

2016年08月24日   読売新聞

 

可動式ホーム柵設置を 県内障害者団体が運輸局などへ要望書

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 東京メトロ銀座線で視覚障害者の男性が駅ホームから転落し死亡した事故を受け、県内の障害者団体でつくる愛知障害フォーラム(ADF)は二十三日、可動式ホーム柵(ホームドア)の設置などを求める要望書を中部運輸局と地下鉄を運営する名古屋市交通局に提出した。

 要望書は、柱などの障害物で通路幅が狭くなっている危険箇所を調査し、早急に安全対策を講じる▽福祉施設、病院など交通弱者の利用が多い駅に優先的にホームドアを設置する▽ドアが設置されない駅には駅員や警備員を配置する-など六項目。「安全対策は視覚障害者だけでなく、車いすやベビーカー利用者、お年寄りにも必要」としている。

 運輸局には鉄道事業者への指導を求めた。

 ADFを構成する二十九団体の一つ、名古屋市視覚障害者協会の横井由夫事務局長(61)は「ホームでは必ず誰かとぶつかって真っすぐ歩けない」と述べ、警告ブロックは、道を示すもので本来は上を歩くことを想定していないと説明。だが現状では、危険な思いをしながらブロックの上を歩かざるを得ないとして「誘導してくれる人がいれば安心」と人員の配置を訴えた。

 ホームドアの設置には車両の改造や更新、ホーム自体の改修も必要で、短期間には解決できない。

 盲導犬利用者でつくる「あけびの会」の松岡信男会長(63)は「ブロック上に人や物があると、どちらに避ければいいか分からない」と語り、ホームドアの設置に先んじ、ホーム内側を示す内方線が付いたブロックへの交換を求めた。

 市交通局に対し、松岡さんは地下鉄金山駅や新瑞橋駅などホーム両側が線路に接する「島式ホーム」が「特に緊張する」と指摘。「名古屋盲人情報文化センター」の最寄りの名港線港区役所駅に優先して内方線付きブロックを整備するよう要望した。

 堀江弘和運輸課長は「不安なときは遠慮なく駅員を呼び出してほしい」と応じた。

◆県内の駅 設置状況

 国は、1日の利用者が1万人以上の駅は内方線付きブロックを、10万人以上の駅はホームドアを整備するよう鉄道事業者に求めている。

 名古屋市営地下鉄では、桜通線と東山線、上飯田線の全駅でホームドアを設置済み。名城線と名港線は2020年度の整備を予定している。鶴舞線は、相互乗り入れする名鉄との協議が進んでいないという。市営地下鉄での転落事故は14年度に48件(うち視覚障害者は6件)。15年度は37件(同2件)発生し、ドアを設置している駅ではゼロだった。

 JR東海は東海道新幹線のみで、在来線には設置していない。名鉄は中部国際空港駅の一部ホームに設置している。あおなみ線とリニモ東部丘陵線は全駅で備えている。

中部運輸局の秋元利明・鉄道部調整官に要望書を手渡すADFの辻直哉事務局長(右)

2016年8月24日   中日新聞

共生への挑戦、沈黙する政治 障害者施設殺傷事件1カ月

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 相模原市の障害者施設で19人が死亡、27人がけがをした殺傷事件からまもなく1カ月を迎える。容疑者の元職員は「障害者は不幸を作ることしかできません」と差別意識を助長する手紙で、衆院議長や首相に向けて犯行を予告していた。事件が突きつけた共生社会の揺らぎに政治の指導者は沈黙している。

 「容疑者の『障害者がいなければいい』という優生思想に私たちの社会が向かわないか危惧します」

 今月2日、事件を受けて民進党が国会内に障害者団体を集めた会合。団体の代表者は国会議員を前に危機感を訴えた。

 だがその翌日、事件発生後初めてとなる、内閣改造を受けた安倍晋三首相の記者会見では、相模原の事件に触れることはなかった。

 与党幹部は言う。「早速、関係閣僚会議を開いただろ?」。確かに発生2日後、首相は官邸に関係閣僚を集め、「何の罪もない多くの方々が命を奪われました。決してあってはならない事件であり、断じて許すことはできません」「再発防止、安全確保に全力を尽くす」と語っている。

 官邸関係者によると、首相のメッセージには障害者を標的にすることへの非難や共生社会の推進を訴えることも検討したが、「容疑者の身勝手な考え方を取り上げ、独り歩きする方がよくない」「障害者との共生を否定する人はほとんどいない」と判断し、大量殺人という行為への非難に絞ることにしたという。

 しかし、容疑者が2月に大島理森衆院議長宛てに届け、「是非、安倍晋三様のお耳に伝えて頂ければ」とつづっていた犯行予告は、いわば日本社会への挑戦状だ。障害者差別解消法をつくり、「人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」を目指してきた政治の言葉が届いていなかった現実に、多くの政治家が向き合うことを避けている。主要政党で談話を出したのは民進党だけだ。

 アメリカでは6月、性的少数者LGBT)を狙った銃乱射事件が起きた際、オバマ大統領が事件現場を訪問。「性的指向による憎悪は米国の良心への裏切りだ」「性的少数者への差別と暴力に終止符を打たねばならない」と演説した。

 麻生太郎副総理が事件当日の閣議後記者会見で「各閣僚から一つずつコメントをとるというような話にのるわけにはいかない」と語ったのとは対照的だ。

 与党内にも、措置入院の見直しなどが先行する政府の動きに「共生社会の理念が置き去りにされ、隔離すればいいという話にならないか心配だ」(公明党幹部)と懸念する声はある。

 尾上浩二・障害者インターナショナル日本会議副議長は言う。「優生思想を受け入れる素地を変えないと本当の意味での再発防止にならない。政治の沈黙は容認と受け取られる。『殺されていい命はない』。このことを社会全体で共有していく先頭に、政府や国会は立って欲しい」(南彰)

  ■多様性、社会の力

 渡辺靖慶応大教授(文化人類学)の話 アメリカでは「多様性こそが力」と考え、歴代大統領は差別犯罪の悲劇が起きると、現地へ出向いて声明を読み上げる。世論が一方に傾かないように「犯罪への厳しい対処」と「共生社会」の二つの軸で国民にメッセージで伝えるためだ。

 今回事件が起きた施設が目立たない山里にあることに象徴されるように、日本社会はまだ、障害者らを遠ざける発想になりがちだ。だが、東京オリンピックパラリンピックを控え、障害者や人種、女性など、あらゆる人権の観点で日本社会に世界から厳しい目が注がれる可能性がある。

 多様性こそ社会の力だ。単なる犯罪対策強化だけでなく、多様性を認め合う共生社会へと引っ張っていく言葉と率先力が、日本の政治指導者にも求められる。

2016年8月24日   朝日新聞

NHK「バリバラ」が日テレ「24時間テレビ」に挑戦状! 障害者に「美談」「感動」は必要か?

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 今年もテレビ界の夏の風物詩ともいえる日本テレビの「24時間テレビ 愛は地球を救う」(8月27〜28日)が放送される。39回目となる今回のテーマは「愛〜これが私の生きる道〜」とのこと。

 その「24時間テレビ」がクライマックスを迎える8月28日19時から、NHK教育テレビジョン(Eテレ)の「バリバラ〜障害者情報バラエティー〜」が<笑いは地球を救う>をキャッチコピーに「検証! 『障害者×感動』の方程式」というテーマで生番組を放送する。

 「なぜ世の中には感動・頑張る障害者像があふれるのか?」「チャリティー以外の番組に障害者が出演する方法は?」などをテーマに討論を行うという。

 これまで「24時間テレビ」に対しては、「チャリティー番組なのに出演者にギャランティが発生するのは偽善だ」「感動の押し売りのような内容に疑問を感じる」「マラソンの意味がわからない」といった批判の声も聞かれる。

 真偽のほどは確かではないが、明石家さんまやビートたけしも、そのような理由から出演オファーを断っているらしい。

 とはいっても、募金を集めるパワーはあなどれない。昨年(2015年)は8億5672万8209円、一昨年(2014年)は9億3695万5640円、そして2011年の第34回は東日本大震災緊急募金が含まれているものの、過去最高の19億8641万4252円もの募金が集まっている。

 使い道は主に「地球環境保護支援」「福祉車両贈呈」「災害援助」「障害者情報保障支援・身体障害者補助犬普及支援」「東日本大震災被災地復興支援」。今年は熊本地震の復興支援も加わるのではないだろうか。

 福祉車両贈呈は第1回放送より継続して行なわれ、これまで1万台を超えたという。

『障害者×感動』の方程式を検証する

 フェスティバルと称し「楽しくなければテレビじゃない」と27時間もぶっ通しでどうでもいい内容の番組を垂れ流す局とは、比較にならない社会貢献をしているといえるだろう。ネット上には「やらない善よりやる偽善」という声もある。

 しかし、障害者を「美談」として取り上げる番組の作り方に違和感を感じている当事者=障害者も多い。障害者は努力しなくてはいけないのか、普通に生きているだけじゃダメなのか、と。

 そんな「美談」としてしか取り上げられない障害者像に挑戦状を叩き付けたのが、NHK教育テレビジョン(Eテレ)の「バリバラ〜障害者情報バラエティー〜」だ。

感動を与えない障害者はダメですか?

 この番組を見たことがない人のため簡単に紹介しよう。「バリバラ」は「バリアフリー・バラエティー」の略。1999年に始まった福祉番組「きらっといきる」の中で、かつて月1回のバラエティーとして放送されていた。

 「障害者を笑ってはいけない」という暗黙の了解のあるなか、障害者の運動会や自らの障害をネタにしたお笑いなどは、当時大きな反響を呼んだ。

 そして2012年4月より「バリバラ」は独立した番組として「感動するな! 笑ってくれ!」というコンセプトでスタート。毎週金曜日21時から放映されていたが、2015年からは日曜日のゴールデンタイム19時放映になった。

24時間テレビと違うリアルな障害者の声

 これまでに、障害者のお笑いNo.1を決める「SHOW-1グランプリ」、笑える障害者カップルが競う「バリバカップル」、障害者の婚活をルポする「密着! 婚活パーティー」、タレントのはるな愛が企画した障害者のためのファッションショー「バリコレ」などなど幅広いテーマが放映されている。

 レギュラー出演者には、ラジオDJの山本シュウさんはじめ、脳性麻痺の玉木幸則さん(自立生活センター職員)、多発性硬化症の大橋グレースさん(ボランティア団体運営)、義足の大西瞳さん(陸上競技選手)、先天性四肢欠損症の岡本真希さん(会社員)。

 また、ナレーターには脳性麻痺の神戸浩さん(俳優)、知的障害の伊藤愛子さん、前出のはるな愛さん(性同一性障害)など、当事者である障害者が起用されている。

 同番組は、障害者はもちろん、セクシャルマイノリティーも含めすべての人がバリアを感じないで生きてゆける社会を目指している。合い言葉は「みんなちがってみんないい」。

 28日の生放送では、出演者が激論を戦わせるのはもちろん、Twitterで視聴者も参加できる仕組み。以前このページで紹介した「寝たきり芸人・あそどっぐ」も登場する(障害をネタに笑いを誘う“寝たきり芸人”「あそどっぐ」、究極の個性が爆発!)。

 本人のFaceBook(8/12付け)には「昨日はバリバラロケでした! 28日の生放送中に流れます!」と書かれている。いろんな衣装をとっかえひっかえしたらしい。どのような形で登場するのか興味津々だ。

 さて、28日、バリバラでは24時間テレビの描く「感動を呼ぶ障害者像」と、どのように違ったリアルな障害者の声が聞けるだろうか。

2016.08.23   ヘルスプレス

<支えられるココロ> 障害者運動を共に歩む(上)

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 「元気だった十六歳までは、バスも電車も乗れた。今は乗れない。こんなばかな社会はない。障害者の人権が守られていない」

 一九七三年九月、仙台市で開かれた「車いす市民交流集会」。熱に浮かされたように訴える三十八歳の車いす生活者がいた。当時、東京で働いていた近藤秀夫さん(81)=高知県安芸市。「障害者の人権」を、恐らく国内で初めて世に問うた当事者だ。

 「集会宣言に『人権』の文字を入れろと求めたのですが、それを入れたら浮き上がってしまうと、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論に発展したんです」

 強烈なアピールは、研修で訪れていた東京都町田市の福祉事務所係長の目に留まり、翌年、近藤さんは事務所職員に迎えられる。これも日本初の車いす公務員の誕生。自身にとっては、障害者の自立支援にささげる人生の始まりだった。

 岡山県に生まれ、炭鉱技師だった父とともに九州各地を転々とした。終戦後の十二歳で父を病気で亡くした。同時に一家は離散。炭鉱街の運送手伝いをしていた十六歳の時、トロッコのレールを移動させる作業中、担いだレールの下敷きになる事故に遭い、二度と下半身を動かせない体となった。

 転機は六四年、東京五輪後に開かれたパラリンピック。当時暮らしていた大分県の施設に、障害者スポーツ振興に尽力した整形外科医で、「日本パラリンピックの父」と呼ばれる中村裕さん(故人)が診療に来ていた。身長一五三センチと小柄だが、腕力は人一倍だった近藤さん。中村さんに誘われるまま、バスケットボールや卓球など六種目に出場した。

 「見たこともない」競技の結果は惨めなものだった。それ以上に、欧米の選手はみんな、家族や仕事を持ち、高性能の車いすを操って普通に生活を楽しんでいる様子に肝をつぶした。

 「障害者の人生は、動きが止まった箱(施設)の中にあるんじゃない」

 三十歳の時、再び中村さんの紹介で、施設を出て東京の外資系会社に就職。社長は車いすの米国人で、障害者を積極雇用し、実業団並みにスポーツを仕込んだ。強化された同社の車いすバスケチームは健常者チームと対戦し、連戦連勝。各地の施設慰問も行い「ここまでできる」を広めた。

 近藤さんはその後、社を辞すが、別の仕事をしながら車いすバスケのクラブチームの渉外係として、自治体と体育館を借りる交渉を担当。障害者に配慮がない街の現状に心を痛めるようになっていた。交流集会で発言したのは、このころだ。

 町田市職員になり「何とかしたい」との思いが爆発する。そのころ同市は、革新系市長の号令下、先進的な福祉の街づくりを掲げていた。近藤さんは「ここに車いす用トイレを、スロープを、エレベーターを」と注文。地元建築士の間で「頑固な窓口職員」と有名になった。東京都内の車いす用トイレの八割以上が町田市に存在するという状態をつくり上げた。

 国際障害者年(八一年)を機に、情熱は障害者のネットワークづくりにも注がれる。同障害者年日本推進協議会や障害者インターナショナル結成のため奔走し、地元・町田には障害者自らが考え、決めた事業を展開する自立生活センターを開設した。これらのパワフルな活動は、同じ障害者の妻恵子さん(65)と共に歩むことになる。

自慢のバリアフリー住宅で、電動車いすに乗って過ごす近藤秀夫さんと妻の恵子さん

2016年8月24日   中日新聞

「視覚障害者の甲子園」最後の夏 選手が不足、休止へ

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 「視覚障害者甲子園」と呼ばれる全国盲学校野球大会が24日、北海道で開幕する。グランドソフトボールの全国大会で1951年に始まり、一時中断していたが今年が31回目。だが、選手不足などから今回を最後に休止が決まっている。

 主催する全国盲学校体育連盟によると、盲学校へ通う生徒が減少し、1チーム10人の選手を集めるのが難しい盲学校が増えたという。このため、野球大会の存続が難しくなり休止が決まった。

 一方で、2020年の東京パラリンピックに向け、障害者スポーツが盛んに行われていることをアピールしようと、来年以降は、チームの編成人数が少ない野球以外の種目などで、全国の盲学校が集うスポーツ大会を開催する。

■幼なじみに誓う全国制覇

 香川県盲学校岡山県立岡山盲学校の連合チームのエースとして出場する香川県立盲の山下恵君(17)。幼なじみが逃した全国優勝の夢を、自分が果たそうと意気込んでいる。

 今月19日、高松市香川県盲学校のグラウンドに大会を目前に練習する山下君の姿があった。キャッチャー役の教諭が手をたたく音に向け、山下君が下手から勢いよく球を転がす。「インいっぱい、ナイスボール!」。次々とストライクコースに決まる。宮本格孝監督(49)は、「抜群の制球力と3種類の変化球が山下の武器」と話す。優勝のためには、山下君の好投が欠かせない。

 山下君は生まれつき目が見えない。地元の小学校に通っていた3年生の時、同じクラスになったのが、今春の選抜で準優勝した高松商でエースを務めた浦大輝君(17)だった。

 「話が合う」という2人は放課後キャッチボールをするようになった。浦君が「こっち」と呼ぶ方向に山下君がボールを投げ、浦君は山下君に転がして返す。小学校を卒業するまで、2人はこうして遊んだ。

 小学校卒業後、山下君は香川県盲学校に進んだ。グランドソフトボールに取り組み、エースになった。悩んだときには、読み上げ機能を使い、通信アプリLINE(ライン)で浦君に相談した。「守備を信頼して打たせればいい」。アドバイスを自分のプレーに反映させた。

 浦君は、今春、高松商のエースとして選抜大会に出場した。山下君は、「友達がプレーする雰囲気を生で味わってみたい」と、準々決勝の海星(長崎)戦を甲子園で観戦。ラジオ中継を聞きながら感じる大歓声の迫力に感動した。試合後メッセージを送り合った。「お疲れ すごかったぞ」「ありがとう 次も頑張るわ」。高松商は次の準決勝も勝ち、選抜大会で準優勝した。

 7月、山下君が出場する地方大会前、浦君は「がんばれ 全国行けよ」と励ました。山下君はリーグ戦4試合中2試合で完投。チームを全国大会出場に導いた。一方で高松商は香川大会決勝で敗れ、夏の甲子園出場は果たせなかった。

 全国大会に臨む山下君に、浦君は「同じ『野球』をしているのはうれしい。優勝してくれると思う」とエールを送る。山下君は「浦が甲子園に行けなかった分まで頑張る。目標は優勝」と話している。

 〈グランドソフトボール〉 全盲、弱視の選手による10人制で、4人以上が全盲選手、投手は全盲選手という決まりがある。ハンドボールに似た球を投手が転がし、打者はバットで打つ。基本的なルールは野球やソフトボールと同じ。飛球かゴロかに関わらず全盲守備者が捕球すれば打者はアウト。弱視守備者やベンチから打球の方向を指示することはできないため、全盲守備者は球が転がる音だけを頼りに捕球する。

写真・図版 

投球練習をする山下恵君

2016年8月23日   朝日新聞

障害者自立先駆け、79年創刊の雑誌が来夏終刊

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「そよ風のように街に出よう」

 1979年に創刊され、障害者の自立と社会進出を訴えてきた雑誌「そよ風のように街に出よう」(年2回発行)が来夏で幕を下ろす。障害者雑誌の先駆けとして、長らくタブー視されていた結婚や就職などのテーマに向き合い、最盛期には1万部を発行したが、障害者を支える環境の整備が進み、終刊を決めた。読者からは「いつも勇気をもらえた」と感謝の声が寄せられている。

 出版元は大阪市東淀川区の任意団体「りぼん社」。身体・精神障害者やボランティアの人たちが手弁当で取材と編集を担ってきた。

 創刊当時は公共施設や交通機関でさえバリアフリー化が進まず、障害者の課題を取り上げる雑誌もなかった。それだけに、創刊号の特集は大きな反響を呼んだ。テーマは「結婚・出産・家」。79年に初産をした脳性まひの女性へのインタビューを25ページにわたり掲載した。

 女性は物心ついた頃から、将来を悲観する母親に「私より先に死ぬんやで」と言われて育った。健常者の夫と恋に落ちたが、夫は親から絶縁され、医師からは「産まないほうがいい」と告げられた。そんな境遇にありながら、女性は語った。「産みたいから産むんや。あきらめたらあかん」

 編集部は「あるべき世界を共に築き上げよう」と毎号特集を掲載し、「労働」「性」「教育」などのテーマに取り組んだ。東日本大震災では、編集スタッフが発生直後に現地へ赴き、被災した障害者の声を聴いた。4回にわたって特集を組み、阪神大震災の経験が生かされていないとして、福祉避難所の整備や被災障害者の支援のあり方を訴えた。

 投稿コーナー「今、こうして街に出ています」では、障害者の生活を写真付きで説明し、暮らしのコツなどを紹介した。90年頃には1万部を発行し、読者からは「1人で外出してみます」「私たちの声を代弁してくれてありがとう」などの手紙が絶えなかった。

 終刊の話が持ち上がったのは昨年夏だった。編集スタッフの高齢化に加え、テレビやインターネットなど多様な媒体を通して障害者への理解は深まってきた。今年4月には、障害者への差別を禁じる障害者差別解消法も施行された。

 副編集長の小林敏昭さん(65)は「障害者が外出しやすくなり、手助けしてもらう風景も当たり前になった。これからは障害者が自ら先頭に立って活動していくだろう。未来へのバトンを引き継げたと思う」と話す。

 長年の愛読者で全盲の東京都の女性(60)は、第1子を妊娠していた時、創刊号を知った。「介助者に読んでもらう一文一文が胸に刺さった」と振り返り、「目が不自由でそよ風のようには街に出られなかったけれど、希望すら持てない時代に強い気持ちを抱かせてくれた。今は2人の孫に恵まれ、命をつなげることができたのは『そよ風』のおかげです」と感謝している。

 発行するのは残り2号で、年内に第90号、来夏に最終号を出す。いずれも読者や関係者からのメッセージを中心に構成する予定で、投稿を募集している。問い合わせは、りぼん社(06・6323・5523)。

    

                   「そよ風のように街に出よう」の編集内容を話し合う小林さん(中央右端)ら(大阪市東淀川区で)

2016年08月23日 Copyright © The Yomiuri Shimbun

障害者施設の防犯対策費、国が助成へ 相模原事件受け

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相模原市の障害者施設で発生した殺傷事件を受け、厚生労働省は施設の防犯対策にかかる費用を助成することを決めた。2016年度第2次補正予算案に118億円を盛り込む。23日に開かれた自民党の会合で、厚労省が明らかにした。

 非常通報装置や防犯カメラ、フェンスなどの設置・修繕費用について、国が2分の1を補助。残りは都道府県や政令指定市、中核市といった自治体と施設の設置者が半分ずつ負担する。118億円にはグループホームなどの施設を整備する費用への補助も含まれる。

 厚労省は措置入院後の支援強化といった制度面の再発防止策も検討しており、秋ごろに結論を出す予定。

 補正予算案には、生活保護受給者を雇い入れた事業所への助成金制度の創設(金額未定)や、定年を廃止したり65歳以上に引き上げたりした事業所への助成金(6・8億円)も盛り込んだ。介護ロボットの実証研究費などとして4億円を計上する。

2016年8月23日   朝日新聞

【パラリンピック】「東京」へ理解深めて

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 世界中を感動させたリオデジャネイロ五輪が閉幕した。関心は次の東京大会へ移りつつあるが、9月7日(日本時間8日)に開幕するパラリンピックを忘れてはならない。多くの困難を乗り越え、障害者スポーツの祭典に集う競技者の姿は胸を熱くさせる。県民を含め広く理解を深めることが、五輪とともに4年後の成功につながるはずだ。
 リオ大会では22競技が行われる。日本は17競技に131人が出場する。本県関係は車いすバスケットボールの豊島英[あきら]選手=いわき市出身=、卓球・車いすの吉田信一選手=須賀川市出身=、柔道の半谷静香選手=いわき市出身=が代表に選ばれた。
 ロンドン大会に続く出場となる豊島選手は母校・平商高での講演で「目標に向かって諦めず進むことが大切」と訴えた。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から立ち直り切れない古里を思い、プレーを通じて希望と勇気を届けると誓う。競技歴20年余りの50歳にして初めて世界のひのき舞台に立つ吉田選手も、「復興を目指す古里を元気づけたい」と闘志を燃やす。
 競技は、陸上や水泳など一般的なスポーツを障害の種類や程度で分けて競うだけではない。脳性まひや四肢機能障害者らが目標にした球に交互に投げた球の近さを競う「ボッチャ」、視覚障害者が鈴入りのボールを転がしてゴールを狙い、相手は音を頼りに防ぐ「ゴールボール」など障害者スポーツ独特の競技もある。ボッチャの日本のヘッドコーチは白河市の村上光輝さんが務める。選手を支える県内関係者がいることも注目したい。
 4年後の東京大会に向け、競技関係者は強化と普及に努めている。県内では企業などの支援を得て、小中学生が車いすバスケを体験する教室が続いている。来年9月には福島市でジャパンパラ陸上競技大会が開かれ、東京大会を目指す選手の熱気を身近で感じることができる。自らの限界に挑む選手への応援は大事だ。さらに一歩進め、盲人マラソンの伴走や、義肢・補助用具の開発調整などに力を貸すことも考えられる。
 東京五輪・パラリンピック組織委員会が募集する大会ボランティアにも手を挙げてほしい。約8万人を想定し、会場や選手村で観客とメディア支援などに当たる欠かせない役だ。リオ五輪の閉会式で紹介された多言語の「ありがとう」の人文字は、震災の支援に対するメッセージだった。被災地から恩返しの行動に移すのは、これからでも決して遅くない。

2016/08/25   福島民報

「非の打ち所のない貧しい人」ってどこにいるの? 〜高校生バッシング、もういい加減やめませんか

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自民党の片山さつき氏が、また余計なことを言っている。

発端は、8月18日にNHKのニュースで放送された「子どもの貧困」特集。

私は見ていないのだが、そこに出ていた母親と2人暮らしの高校3年生の女子生徒について、部屋にアニメや漫画関連のグッズがたくさんあったとか、果ては本人らしき人物のTwitterによると、1000円以上のランチを食べてるとか同じ映画を何度も見てるとかコンサートに行ってるとか、そのようなことから毎度恒例の「本当に貧困なのか」といった声が上がる――という展開に。

そんなネット上での騒動に対し、片山さつき氏は以下のようにコメント。

「拝見した限り自宅の暮らし向きはつましい御様子ではありましたが、チケットグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思い方も当然いらっしゃるでしょう。経済的理由で進学できないなら奨学金等各種政策で支援可能!」

「追加の情報とご意見多数頂きましたので、週明けにNHKに説明をもとめ、皆さんにフィードバックさせて頂きます!」

またか...。

今、私は「嫌な予感」に包まれている。そして2012年の悪夢が蘇る。芸人の母親が生活保護を受けていたということが発覚した際の騒動だ。

この問題に関しては散々「不正受給では」と叩かれたのだが、生活保護問題対策全国会議の見解を見れば明らかにように、この件は不正受給には当たらない。「強い扶養義務」があるのは夫婦間と未成熟の子に対する親だけだ。

しかし、片山さつき氏はこの件に関して厚生労働省に調査を依頼。

「一芸人の家族のこと」が一気に政治問題のトップに踊り出し、当人ももちろん大変なバッシングに晒されたものの、多くのメディアはこの件をきっかけに「生活保護バッシング」へと走り、中には「生活保護受給者の監視」を呼びかけるものまであった。

その果てに起きたことは何か。生活保護を受ける人はスーパーなど買い物にも行けなくなり、精神的な病気を抱える人は病状が悪化。

私のもとにも当事者から「生きていてはいけないと言われてる気がする」「生活保護受給者は死ねということでしょうか」などという悲鳴のようなメールがいくつも届いた。

そうして実際に、自殺者も出ている。自らが支援してきた人を自殺で失った埼玉の男性は、「自死したという一報を聞いた時、頭に浮かんだのは、ある自民党議員の顔でした」と述べている。

生活保護バッシングという国会議員が仕掛けたブームと、それを「ネタ」として手軽なガス抜きの娯楽として消費した大勢の人の「悪意ですらない暇つぶし行為」によって、実際に奪われた人の命。しかし、生活保護受給者が自殺したところで、当然報じるメディアなどない。

さて、このような経緯がたった数年前にあったことから、今回の高校生の報道に対する片山氏の姿勢について、私は非常に憤っているわけだが、彼女に同調する人も多いことを知っている。

しかし、ここで「自分だったら」と置き換えてみてほしい。もし、あなたがそんなバッシングを受けたらどう思うだろうか。どうやったら自分が「貧困」だと証明できるだろう。どうしたらすべての人に大変だと理解してもらえるような「貧困プレゼン」ができるだろう。とびきり悲惨なエピソードでも語ればいいのだろうか。

というか、土下座して謝れば「みんな」に「許して」貰えるのだろうか。だけど、みんなって誰? 誰があなたに土下座をさせる権利があるの?

もう、10年もこんな光景を繰り返し繰り返し見せられてきた。一斉に始まる、「あいつは貧困とか言ってるけど、楽して得して甘えてるじゃないか」というバッシング。その正反対の光景も見てきた。

それは、貧困とされる人が死んだ時。餓死や凍死、孤立死、心中などが起きると一斉に「可哀想!」「役所は何をしてたのか!」「この国の福祉はおかしい!」という大合唱が始まる。前者と後者で声を上げる人は、おそらく、一部かぶっている。

さて、今回、高校生の部屋にアニメグッズなどが多かったということから、ある事件を思い出した。それは銚子で起きた母子心中事件だ。

事件が起きたのは14年9月。千葉県銚子の県営住宅で、44歳の母親が中学2年生の娘を殺害した。

母親はシングルマザー。給食センターで働いていたものの月収は14万円ほど。生活は苦しく、事件の2年前からは、娘の制服代などの購入のため闇金にも手を出していた。一方、各種の支払いも滞っていた。健康保険料は未納で、保険証は使えない状態。

1万2800円の家賃は2年以上滞納が続いていた。娘を殺したのは、家賃滞納が原因で県営住宅の明け渡し強制執行が行われることになっていた日だった。

執行官が足を踏み入れた時、母親は放心状態で、既に息絶えた娘の頭を撫でていたという。居間のテレビには、その4日前に開催された娘の運動会の映像が流れていた。母親はその日、娘が運動会で使っていた赤いハチマキで首を締めたのだった。

母親は、本当は自分が一人で自殺するつもりだった。しかし、様子がおかしい母親を心配して娘が学校を休んだことから、事件が起きてしまったのだ。

15年6月、13歳の娘の命を奪った母親には、懲役7年の刑が下っている。

誰もが胸を痛めるこの事件。

母親の裁判では、検察官によって、あることが指摘されている。それは支出について。殺された女の子はアイドルが好きだったようで、アイドル関連の支出が多かったことを指摘されているのだ。また、液晶テレビやブルーレイプレーヤー、エアコンなどを購入したことも検察官に指摘されている。

しかし、この事実をもって殺された女の子や逮捕された母親をバッシングする声を私は聞いたことがない。また、今初めてこの事実を知ったという人も、バッシングしないだろうことはなんとなく予想できる。

理由は、死者が出てるから。母親も、実刑判決を食らっているから。あまりにも痛ましい事件によって、親子は「非の打ち所がない可哀想な貧困者」としての揺るぎないキャラを確立したから。

嫌な言い方をしてしまったが、そういう見方と線引き、もうやめにしませんか、とずっと言ってきたし、書いてきたつもりだ。

元大蔵省という超エリートの片山氏には、生活保護をはじめとした貧困対策が、すべて「コスト」に見えるのかもしれない。しかし、命よりも財源論が優先される社会では、命はどんどん軽くなる。

7月、相模原の施設で障害者19名が殺害された。障害者の生存を否定し、「お荷物」扱いするような容疑者の歪んだ差別意識は、そんな社会の空気とは決して無関係ではない気がするのだ。生産性がない人間、税金で生きる人間を否定するような空気。

翻って、国会議員である片山氏の給料である歳費も税金だ。が、私は片山氏のランチ代がいくらかを詮索するつもりはないし、どんなものにお金を使い、どんな映画を見てどんなコンサートに行き、いくらくらいの服や化粧品を買っているかなどを公開してほしいなどとは思わない。

国会議員のひと月の歳費は、生活保護を受ける単身の人の1年分の生活保護費に相当するほどだが、そのことをバッシングするつもりはない。

最後に。

貧困状態の人や、生活保護を受けている人は、なかなか声を上げられない。バッシングされるに決まってるからだ。政治的に力を持つような当事者団体もない。もっとも手軽に叩きやすい存在なのだ。

よって政治家にとって、「貧困者バッシング」は、最高にリスクが少なく、かつ有権者に「仕事してますよアピール」が、もっとも手間ひまもコストもかからずできるという、非常に「おいしい」パフォーマンスなのである。

そのことを、覚えておいてほしい。

(2016年8月24日「雨宮処凛がゆく!」より転載)

バリアフリー最前線

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5月に大阪・枚方市のスーパーに「楽々カート」が導入されました。通常のショッピングカートとの一番の違いはハンドル部分についた台。体重を乗せると足腰の弱い高齢者でも楽に長い間、買い物することができます。開発したのはベンチャー企業の光プロジェクト。杉村社長は作業療法士として医療用の歩行器を研究していた時、つらそうに買い物をする高齢者を見かけ、歩行器とカートを組み合わせることを思いつきました。4月から障害者差別解消法が施行されたことで、関心を示す企業も増えています。また法律の施行後、病院や銀行などが相次いで導入しているのが会話支援機器「コミューン」。開発したのベンチャー企業のユニバーサル・サウンドデザイン。聞こえを改善するために広く普及してきた補聴器と異なり、話し手側が使用します。また、補聴器は音を大きくすることで聞こえやすくするものですが、コミューンは音を明瞭にすることで聞こえを改善しています。

8月24日   テレビ東京

【日テレ「24時間テレビ」出演決定!NHK「バリバラ」レギュラー出演中!】

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難病肉食女子・大橋グレース愛喜恵(あきえ)の”婚活日記”本を8/25発売!

オリンピック代表を目前に手足が動かなくなる難病を発症

 本書は、NHKのバラエティー番組「バリバラ」にレギュラー出演中の自称「恋する難病乙女」の大橋グレース愛喜恵(あきえ)さんが自身の恋愛、仕事、婚活など難病生活での様々なエピソードを綴った著書です。大橋さんは、元米国柔道オリンピック代表候補で、「多発性硬化症(※)」をはじめ3つの難病を抱えながらも、TV出演や全国で講演を行うなど精力的に活動しています。現在はNPO法人「自立生活夢宙センター」の職員として働き、障害者がひとりで暮らして堂々と自立生活ができる社会を目指して支援活動を行っています。また、今年の日本テレビ「24時間テレビ」に出演することも決まっており、アクティブに人生を楽しんでいる大橋さんの日常生活などが紹介される予定です。
 このたび発売する著書では、自身がモデルケースとなって、自立生活を通して恋に仕事に、明るく楽しく生きる姿をより多くの人に伝えることで、障害者と健常者の間にある壁がなくなることを願うとともに障害者への理解を呼びかけたいという想いが込められています。大橋さんの取材も可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

※脳、せき髄、視神経などに病変が起きる難病で、日本では特定疾患に指定されている。視覚障害や肩から下がほとんど動かず感覚がないなど症状には個人差がある。

書籍『でも、生きてるし、今日も恋してる。』
発売:2016年8月25日
定価:本体1200円+税
著者:大橋グレース愛喜恵(おおはし ぐれーす あきえ)
【プロフィール】現在27歳。自称“恋する難病乙女”。NHK Eテレで毎週日曜日放送中の「バリバラ」のレギュラー陣の一人。多発性硬化症をはじめ、国が指定する3つの難病とつきあいながら、大阪で自立生活を実践中。難病生活の面白エピソードをユーモアを交えてテレビや講演で披露するなど、バリアフリーな社会を 目指して精力的に活動中。

 大橋グレース愛喜恵さんコメント
前は、「息してる。生きている」そう思うだけで幸せでした。だけど今は、もっと、ずっと貪欲!「結婚したい。子どもも産みたい。育児と仕事を両立させたい」そう思っているんです。「死」よりも「生」に焦点を当ててるんだと思います。私のすべてを見てもらうことで誰かのパワーになったら、すっごく嬉しい!

2016年8月24日   株式会社 宝島社

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