障害者雇用促進法に基づき、民間企業などに一定以上の障害者の雇用を義務付ける法定雇用率が4月以降、2%から2.2%に引き上げられ、精神障害者も算定対象となった。これを受けて、企業の間では障害者雇用をめぐる動きが活発化している。
潜在能力引き出す
下町の雰囲気が色濃く残るJR西日暮里駅(東京都荒川区)周辺。隠れた名店と称される居酒屋や焼き肉店が多く存在する半面、焼きたてのパンを提供するベーカリーは数少ない。こうした中、2016年11月の開店以来、地域の人気店として注目されている店舗がある。西日暮里に本社を置くクリナップの特例子会社、クリナップハートフルが運営する「クリ夫のパン屋」だ。2号店の開設も視野に入ってきた。
2月に創立10周年を迎えた同社の従業員は、給与計算や施設管理などの仕事に従事する。パン屋を担当するのはフードサービス係で、店舗では3人の障害者が働く。「袋詰めなど与えられた仕事を素直に遂行してくれる」(金子久美店長)といい、1日当たり500個のパンを売る人気店舗を支える。
同社は昨年4月に、いわき事業所(福島県)を開設するなど、障害者雇用に意欲的だ。これに伴って今後力を入れていくのが、外部からの受注の拡大。クリナップグループに依存すれば業績に左右されやすいのに対し、新たな働き方を見つけていけば経営体質の強化につながると判断した。
この課題を達成するに当たり、クリナップハートフルの井上泰延社長は「社内の指導員がスキルアップを図れるように、多種多様な資格の取得を促していくことが必要」と強調する。
障害者の働き方には指導員の存在が大きくかかわってくる。指導員の技能が向上すれば従業員の潜在能力を引き出すことになり、結果として社外のチャンネル開拓につながる-。井上社長は、そんな青写真を描く。
テレワーク普及へ
総合人材サービスのパーソルホールディングスで障害者雇用支援事業を手掛けるパーソルチャレンジ(東京都港区)は、障害者のサテライトオフィス勤務導入推進事業を受託した。
「音や光に過敏で業務に集中できない」といった特性や長時間の通勤が困難なことから、通常の職場での勤務が難しいケースがある。このためサテライトオフィスの導入によるテレワークが有効だと思われるが、普及への歩みは遅い。
このため事業を通じ、障害者雇用を推進するモデル企業を開拓し、導入を支援。一連の取り組みを踏まえマニュアルを策定し普及を目指す。同社の大濱徹・事業推進部ゼネラルマネジャーは「仕事場の多様化がなければ障害者雇用は進まない。サテライトオフィスの潜在需要はある」と話す。
また、精神障害者の場合、ハローワークの職業紹介によって一般企業に就職した場合の1年後の定着率が5割に満たない点を考慮。同社はユニバーサルデザインのコンサルティングを行うミライロ(大阪市淀川区)と共同で、7月に雇用を成功させるための研修を実施。精神障害者が安心して働くために必要な配慮・コミュニケーションのあり方などを解説する。障害者就労支援サービスを行うLITALICO(リタリコ)は、従来のネットに加えてフリーペーパーを創刊。就職を後押しする。
一方、クリナップハートフルの井上社長は、あらゆる業種で人手不足が深刻化している点を踏まえ、「障害者の活躍の機会を増やすためにも、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)との融合・共生を図ることが必要」と指摘する。
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クリナップハートフルが運営する「クリ夫のパン屋」。3人の障害者を雇用している
2018.6.26 SankeiBiz