リンジー・ジュリストロスナーには、子ども時代からの秘密があった。それは、多発性硬化症を患う母親の介護をしてきたこと。「長年に渡り、さまざまな形で介護をしてきました」。現在38歳のジュリストロスナーはこう語る。
成長するにつれ、その役割は家事周りの手伝いから、朝に母親の起床と着替え、朝食の介助へと変わっていった。そして全てをフルタイムのマーケティングの仕事に出勤する前に急いで済ませなければならなかった。
「これまでの人生で最もつらく、孤独で、ストレスの溜まる生活でした」と彼女は言う。
母親が入院したのは、ビジネススクール1年生の時だった。このため予定通りに期末試験を受けることができず、教授や友人らに母親の病気について打ち明けざるを得なかった。ところが、周囲からの言葉は予想外のものだった。多くが自分と似た経験をしていたのだ。
「深いつながりを感じた瞬間でした。自分と同じような悩みを持った人がいたのです。私たちはなぜ、自分のような家庭により多くの支援やインフラを提供する方法を見つけられなかったのでしょう?」
これがきっかけとなり、ジュリストロスナーは高齢者や慢性疾患患者、障害者の介護サービスをコーディネートする企業「ウェルシー(Wellthy)」を立ち上げた。人口動向や政策転換にも後押しされ、ウェルシーはここ4年間で急成長。現在ではハーストやスナップチャットを含む400近くの企業が従業員の福利厚生としてウェルシーのサービスを提供している。
介護に特化した他の企業もまた、需要の急増を経験している。創業12年のケアリング・トランジションズ(Caring Transitions)は、高齢者向け介護施設入居や遺品整理を支援する企業で、全米各地に200のフランチャイズを展開している。
同社のアル・スコベル最高執行責任者(COO)は「どの家族にもそれぞれのストーリーがある」と語る。彼自身もそのひとりだ。ニューヨークに住む母親ががんで亡くなった時、スコベルはインディアナ州に住んでいた。
仕事と子育てに追われていた彼とその兄弟は、性急に遺品整理を行い、保管しておきたいものだけより分けて残りは捨ててしまった。「私たちはとても取り乱していた。感情が高ぶっていたため、家族にしばらく悪影響が残った」とスコベルは振り返る。
スコベルは現在、他の人々がより落ち着いた形で家族の死や施設への入居に対処できるよう手助けする仕事に、誇りを持って取り組んでいる。ケアリング・トランジションズの目標は「エキスパートになることで差別化を図ることだ」とスコベルは語る。「私たちは、家族の負担を取り除きたいと思っている」
米国では、ジュリストロスナーやスコベルのような経験をする人がこれまでになく増えている。毎年約4000万人の成人が、愛する家族をできるだけ長く自宅に住まわせるため、食事、入浴、買い物など身の回りの世話や医療面での介護をしている。米国で家族の介護に携わる4人に1人はミレニアル世代だ。
介護の代償は家庭内に留まらない。ギャラップの調査によると、フルタイム勤務者が介護のため欠勤することによる生産性損失は、年間250億ドル(約2兆8000億円)を超える。介護の負担は依然として女性の方が大きいものの、男女間の差は狭まってきており、米国の労働者で介護に携わっている人の割合は女性で20%、男性で16%だという。
ジュリストロスナーは、多くの企業が福利厚生にウェルシーを利用するようになってきている背景にはこうした厳しい現実があると語る。
「これは大きなウィンウィンの関係」とジュリストロスナーは言う。「企業は価値の高い従業員を支援し、従業員の定着率や生産性を改善できる。一方で従業員は、自分の生活の中でも非常に私的で重要であるこの分野について、支援や安心感、そして専門家の意見を得ることができるのです」
州レベルの対応も進んでいる。連邦政府による「家族医療休暇法」では介護者に12週間の無給休暇を与えるよう定められているが、ニューヨーク、カリフォルニア、ニュージャージー、ロードアイランドの各州では有給の家族休暇や医療休暇を認めている。また、さらに少なくとも30の州が介護に関する法律を導入している。
「介護と介護が従業員に与える影響に関しては、議論は始まったばかりです」とジュリストロスナーは言う。「これが今後5年、10年と続く膨大なトレンドとなることを私は期待しています」
ビジネス 2018年12月17日