来春卒業の高校生を対象にした企業の採用選考が、終盤戦に入りつつあるが、人手不足で「売り手市場」と言われる中でも、自閉症など発達障害のある生徒らは苦戦を強いられている。
県内の特別支援学校高等部三年に通う長男(18)の進路について、守山市の母親(50)は悩んでいる。長男は幼少時から言葉の発達が遅く、三歳ごろに自閉症と診断され、年齢を重ねるごとに集団行動が難しくなった。知的障害はないが、自閉度が高く、小学校高学年のとき精神手帳を取得した。
中学校でいじめに遭い、高校は特別支援学校へ進学。高等部で作業所や事業所での仕事を体験し、三年生になると、実習で気に入った部品の組み立て作業を行う会社を中心に見学した。
しかし、本年度は採用を見送る会社が多く、採用があっても清掃業や検品作業など、長男にはハードルの高い職場ばかり。母親は「長男はコツをつかんだら仕事に取り組めるが、企業側が提示する職種は特性に合わない清掃作業が多く、幅が狭い」と肩を落とす。
今春、全日制の県立高校を卒業した少年(19)も、幼少期に自閉症と診断された。小中学校の特別支援学級を経て、高校へ進学。パティシエを目指し、進学先の専門学校を探したが、教員らとコミュニケーションを図るのが困難との理由で、入学はかなわなかった。
卒業後、県内にある知的障害者らが学ぶ“専門学校”へ進んだが、調理実習などはあるものの、希望する職種とは内容に開きがあり、履修に違和感を覚えているという。母親(53)は「(自分の意思ではコントロールできない)情緒障害の子は、通える場所がない。悪い所が前に出てしまい、職探しでも道を閉ざされてしまう」と吐露した。
別の母親(50)も、特別支援学校に通う次男(16)の居場所探しに不安を抱く。次男には、自分や他人を傷つけたりする「強度行動障害」がある。家族で夕飯を囲んでいる最中、皿をひっくり返して走りだしたり、テレビで悲しい映像が流れると、リモコンを投げ付けてテレビを壊してしまうことも。次男の部屋のクローゼットの扉や天井は、物を投げ付けたり、殴ったりしてできた穴が開いたままだ。
作業所に通うことなどを考えているが、支援体制が不十分に感じられ、不安は尽きない。母親は「(次男は)毎日同じ仕事をすることが苦手。近所には、特性に合った作業ができるところがなかなかない。卒業後は、本人に合った所で過ごせたらいいのだが」と気をもむ。
◆特性に合う仕事紹介必要
障害者の雇用は、一九七六年に身体障害者雇用促進法で、企業に従業員の一定割合を障害者にするよう義務付けられ、徐々に広がりつつある。当初は身体障害だけが対象だったが、知的障害にも拡大。今年四月からは、発達障害や統合失調症などの精神障害者も対象に加わった。
滋賀労働局によると、県内の民間企業で働く障害者数は昨年六月一日時点で、前年比4・6%増の二千八百五十・五人(就労時間が週二十時間以上三十時間未満の人含む)。だが内訳は、身体障害者が千六百三十九人、知的障害者は九百八・五人で、精神障害者は二百九十三人にとどまる。
厚生労働省の一三年度調査では、精神障害者の平均勤続年数は四年三カ月と、身体障害者の十年、知的障害者の七年九カ月と比べて短かった。精神障害者は体調を崩す人の割合が他の障害者より多く、仕事内容や勤務時間の制限が必要なことなどが背景にある。
こうした状況から、精神障害者は企業の受け入れが進まず、採用に至りにくいのが現状だ。社会福祉法人などが運営する事業所へ通うケースが多いが、工賃が安かったり、作業内容が合わなかったりして、早く辞めるケースも少なくない。
障害者雇用の問題に詳しい、村井龍治龍谷大社会学部教授は「日本企業の場合、コミュニケーションが取れるかどうかが重視される」と指摘。「就職を支援する学校側が、企業の仕事内容を理解した上で、子どもに合った職場をマッチングさせ、障害のある子どもたちが持つ特殊な技能などを企業側に伝えることが必要だ。企業側も、その人に合った仕事を提示して支援しなければ、就労が定着しないだろう」と話している。
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技能検定「しがしごと検定」を受ける特別支援学校の生徒。就労を目指しているが、精神障害のある場合、進路選択の幅が狭まると指摘されている。
2018年12月25日 中日新聞