罪を犯してしまった障害者(触法障害者)に対し、刑罰を与えるのでなく、社会での更生を期待する司法の動きが出ている。知的障害で罪悪感のないまま罪を犯したり、繰り返したりするケースもあり、関係者は福祉支援の重要性を説く。有罪判決を受けて刑期を終えた後、社会復帰を支える仕組みづくりも始まっている。(佐々木香理)
千葉地検は二月、有罪判決の執行猶予期間中、自転車を持ち去ったとして占有離脱物横領罪に問われた知的障害のある男性の公判で、懲役十月、保護観察付きの執行猶予を求めた。検察側の執行猶予付き求刑は異例だ。
千葉地裁は「福祉や行政の支援が再犯防止につながる」として、この男性に検察の主張に沿った執行猶予付き判決を言い渡した。
福祉の観点を重視した同様の判決は、長崎地裁でも三月に言い渡されている。東京地検は、起訴猶予になった障害者と福祉施設を仲立ちするため、一月に社会福祉士を非常勤職員として初めて採用した。
刑務所などを出所した障害者の社会復帰を支援するため、厚生労働省は二〇〇九年度から、全国に支援拠点の配置を始めた。県内では一〇年十月、国の委託を受けた福祉団体が「県地域生活定着支援センター」を設立し、支援に携わっている。
センターでは、刑期を終えた後の生活基盤を確保するため、本人の代わりに生活保護や障害者手帳を申請。その後、条件に合った福祉施設など受け入れ先を探し、入所後の生活もフォローする。設立から二年半ほどたち、これまでに罪を犯した知的・身体障害者ら約四十人を支援した。なかには犯行当時未成年だった障害者もいた。
十代で傷害事件を起こし、少年院に入っていた知的障害のある男性(22)は、十代のころから両親と離れて暮らし、身寄りのないまま独り、社会に放り出される恐れがあった。センターの支援で、県内の福祉施設に入所できた。男性は「ちゃんと規則正しく暮らせるし、自分のことを考えてくれる人がたくさんいる」と、前向きに社会復帰に取り組んでいる。
県支援センター長の岸恵子さんは、窃盗などを繰り返す触法障害者について「適切な福祉サービスの受け方が分からず、生きるために万引などを繰り返すことが多い」と指摘する。
〇六年の法務省特別調査でも、知的障害やその疑いがある受刑者の約四割が、犯行動機を「困窮・生活苦」と答えている。適切な福祉の支援があれば再犯も減る可能性があり、「まず福祉につなぐことが重要」(岸さん)という。
センターの現状の課題は、受け入れ先の確保だ。要支援者の障害区分と、受け入れ意思を示した施設の入所基準に差があるためだ。罪を犯した経験のある人を福祉で支える取り組み自体が、まだ社会的に認知されていないという事情もある。
刑務所などの施設は法務省、出所後の支援は厚労省と、国の所管が分かれている点も、情報が共有できないなどスムーズな支援の壁になっている。岸さんは「二省の中間組織があれば」と強調する。
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支援センターの仲立ちで福祉施設に入所し、育てた花を販売用に束ねる男性=県内で
東京新聞-2013年5月12日
千葉地検は二月、有罪判決の執行猶予期間中、自転車を持ち去ったとして占有離脱物横領罪に問われた知的障害のある男性の公判で、懲役十月、保護観察付きの執行猶予を求めた。検察側の執行猶予付き求刑は異例だ。
千葉地裁は「福祉や行政の支援が再犯防止につながる」として、この男性に検察の主張に沿った執行猶予付き判決を言い渡した。
福祉の観点を重視した同様の判決は、長崎地裁でも三月に言い渡されている。東京地検は、起訴猶予になった障害者と福祉施設を仲立ちするため、一月に社会福祉士を非常勤職員として初めて採用した。
刑務所などを出所した障害者の社会復帰を支援するため、厚生労働省は二〇〇九年度から、全国に支援拠点の配置を始めた。県内では一〇年十月、国の委託を受けた福祉団体が「県地域生活定着支援センター」を設立し、支援に携わっている。
センターでは、刑期を終えた後の生活基盤を確保するため、本人の代わりに生活保護や障害者手帳を申請。その後、条件に合った福祉施設など受け入れ先を探し、入所後の生活もフォローする。設立から二年半ほどたち、これまでに罪を犯した知的・身体障害者ら約四十人を支援した。なかには犯行当時未成年だった障害者もいた。
十代で傷害事件を起こし、少年院に入っていた知的障害のある男性(22)は、十代のころから両親と離れて暮らし、身寄りのないまま独り、社会に放り出される恐れがあった。センターの支援で、県内の福祉施設に入所できた。男性は「ちゃんと規則正しく暮らせるし、自分のことを考えてくれる人がたくさんいる」と、前向きに社会復帰に取り組んでいる。
県支援センター長の岸恵子さんは、窃盗などを繰り返す触法障害者について「適切な福祉サービスの受け方が分からず、生きるために万引などを繰り返すことが多い」と指摘する。
〇六年の法務省特別調査でも、知的障害やその疑いがある受刑者の約四割が、犯行動機を「困窮・生活苦」と答えている。適切な福祉の支援があれば再犯も減る可能性があり、「まず福祉につなぐことが重要」(岸さん)という。
センターの現状の課題は、受け入れ先の確保だ。要支援者の障害区分と、受け入れ意思を示した施設の入所基準に差があるためだ。罪を犯した経験のある人を福祉で支える取り組み自体が、まだ社会的に認知されていないという事情もある。
刑務所などの施設は法務省、出所後の支援は厚労省と、国の所管が分かれている点も、情報が共有できないなどスムーズな支援の壁になっている。岸さんは「二省の中間組織があれば」と強調する。
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支援センターの仲立ちで福祉施設に入所し、育てた花を販売用に束ねる男性=県内で
東京新聞-2013年5月12日