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障害者スポーツへの招待

お盆を過ぎました。社会人の皆様はリフレッシュ休暇を終え、あらためて仕事モードに突入といったところではないでしょうか。学生の皆さんは、長かった夏休みも後半にさしかかり、溜まった宿題に追われている頃かもしれませんね。厳しい暑さも、これから少しずつやわらいできます。もうすぐやってくる行楽シーズンを楽しみに、今のうちから体力をつけておきましょう!夏が過ぎれば、もうスポーツの秋。9月には、日本にとってものすごく大切なイベントが控えています。2020年夏季オリンピックの開催地がいよいよ決定されるのです。今のところ、僕のまわりではそれほど盛り上がった雰囲気は感じられませんが、実際に日本で開催されるとなれば、やっぱりワクワクしますよね。日本での開催は1998年の長野オリンピック、東京での開催ということになると1964年の東京オリンピック以来ですから、2020年のオリンピック招致も、夢物語ではないような気がします。ちなみに、僕のなかではっきりと記憶のある最初のオリンピックは、1996年・アトランタオリンピックです。「自分で自分をほめたい」有森裕子選手のこの言葉は、永遠の名言ですよね。もし、オリンピックが東京で開催されることになれば、当然、パラリンピックのほうも東京で行われることになります。そこで今週は、障害者スポーツの魅力についてじっくり語っていきたいと思います。障害者スポーツ……僕が子どもの頃はこの呼び方が主流でしたが、最近では、「アダプテッド・スポーツ」、「アダプテッド・フィジカル・アクティビティ」といったように、さまざまな呼称が使われているようです。アダプテッド(adapted)という単語には「適応された」といった意味が含まれるため、直訳すると(適応されたスポーツ)あるいは(適応された身体的活動)のような意味になります。確かに本質的ではありますが、これだけだと何だか堅苦しくて、わかりづらいですよね。そこで、このコラムでは一番わかりやすく、僕にとっても慣れ親しんだ(障害者スポーツ)という表現で統一させていただきます。障害者スポーツといわれて、皆さんは何を思い浮かべますか。車椅子バスケ、車椅子テニス、車椅子サッカー、車椅子マラソン……このあたりがその代表例かと思われます。いずれも、一般的なスポーツに(車椅子)という接頭語をつけたもので、いちばんわかりやすいかたちですよね。
特に車椅子テニスは国枝慎吾選手の活躍もあり、注目度がぐんぐんと上がっています。(障害者スポーツ=マイナー)というイメージがどうしても拭えないなかで、これはとても大きな快挙だと思います。
正直に告白すると、僕はある時期まで、スポーツそのものにあまり強い興味はありませんでした。屋外での運動と室内での読書なら迷わず読書を選びますし、FIFAワールドカップ決勝の観戦と将棋名人戦の観戦なら、ためらうことなく将棋をとるでしょう。

僕のなかでの巨人の四番はいまだに清原選手ですし、サッカーのナンバーワン・ストライカーはストイコビッチ選手です。僕のスポーツについての知識は、小学校高学年でとまっています。いずれも、その頃に遊んでいたスポーツゲームからの知識です。

スポーツ音痴の僕ですが、障害者スポーツとまったく無縁なわけではありません。実は高校2年の秋(2004年になりますね)、埼玉県で行われた全国障害者スポーツ大会に、川崎市の代表として出場しているのです!

この大会は別名障害者国体とも呼ばれ、年に一度、一般の国体の後に同じ開催地で行われます。

出場した競技は、スラロームの電動車椅子部門。100mの直線コース上に等間隔でパイロンが置かれ、そのすき間をジグザグに走り、ゴールまでのタイムを競います。もちろん、パイロンに触れてはいけません。前進でゴールするだけでもかなり難しいのですが、コースの後半にはパイロンのまわりを一周したり、後ろ向きで進まなければいけないエリアもあったりして、見た目以上に高度なテクニックが要求されます。

ただでさえプレッシャーに弱い僕は、競技中にスティックの操作がぶれないように、まず、メンタル面でのトレーニングから始めなければなりませんでした。そして、肝心の競技結果は……6人中6位。早い話が最下位ですね。結果は思わしくありませんでしたが、大会中には運営スタッフの皆さんや他県の出場選手の方々と触れ合うことができ、とても貴重な体験になりました。

同じ時期に出会ったのが、(ボッチャ)という障害者スポーツです。当時通っていたリハビリセンターの夏休みイベントでボッチャ大会というのがあり、そこに参加したのがきっかけでした。

ルールはいたってシンプル。縦12.5m×横6mのコートに、最初に審判がジャックボール(白球)を投げ入れます。そのジャックボールにむかって両チームがコートの外側から交互にボールを投げ合い、最終的にジャックボールに最も近いボールを投げたチームの勝ちです。

ボールは両者のチームカラー(通常は赤と青)によって色分けされ、大きさはおおよそ野球のボールぐらいです。障害が重く、素手での投球が難しい場合は、ランプスと呼ばれるスロープ型の道具を使い、ボールを転がすようにして投げ入れることができます。

派手なアクションや肉弾戦がほとんどなく、一見地味な印象を受けるこの競技ですが、ボールの投げ方には緻密な計算が必要とされ、チームメイトとの連係プレイも絡んでくるなど頭脳戦としての要素が強く、実際にやってみるとかなり白熱します。

リハビリセンターでのイベント以来、ボッチャの魅力にとりつかれた僕は、通っていた高校にその面白さを紹介したところ、年に2回行われる校内球技大会の正式種目として見事採用されたのです。それまで運動系の行事の時は見学というかたちが多かったものですから、自分が主体的に参加できるチャンスが与えられるということで、ものすごく嬉しかったですね。

ボッチャやスラロームも一見の価値アリですが、個人的にはもう一つ、注目したい競技があります。それが(ゴールボール)です。

バレーボールのコートほどの広さがある競技エリアの両端に、各チームそれぞれ3人ずつの選手が横一列に立ちます。この状態で両チームがボールを投げ合い、ボールが選手の壁を超えてゴールラインに到達した場合は、投げたチームの得点になります。

この競技はもともと視覚障害者向けに考案されたもので、ボールの中には鈴が入っており、転がすと音が鳴る仕掛けになっています。この音を頼りに選手たちはボールの位置を探り、1点でも多くの得点を目指すというわけです。

障害者スポーツの動向を見ていて残念だなと思うのは、日本ではまだまだ、こうした競技自体が(障害者の訓練的活動)程度にしかとらえられていない部分があります。選手の方々に対しても、(ただでさえハンディキャップがあるのに、どうしてさらに体を痛めつけるのか)という批判があるのも事実です。

つまり、障害者を一人のアスリートとして認める土壌が、この国にはまだ充分に育っていないということですよね。

そうした的外れな批判や偏見をなくすためには、とにかく障害者スポーツの知名度を上げ、選手自身の人気も高めていくのが早道です。思いきって、パラリンピックの競技中継を民放のゴールデンタイムで放送してみるのはいかがでしょうか。総合司会にジャニーズの人気アイドルやアルファベット3文字の女性グループを抜擢すれば、若者を中心に火がつくかもしれません。

えっ、そんなのただの便乗じゃないかって? いいんです、それで。とっかかりとしては、まず世間に広く知ってもらうことが何よりも大切なのですから。選手に本当の実力があれば、自然に人気は安定します。

僕なりに、障害者スポーツの魅力を御紹介してきたつもりですが、やっぱり文章では伝えきれません。百聞は一見にしかず、百見は一試にしかず。実際に競技を観戦し、自分もその輪に加わってみれば、また違ったかたちの興奮が味わえるでしょう。

2020年、東京パラリンピックの開催を、心から期待しています!

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立石芳樹 (たていし・よしき)

1988年、神奈川県生まれ。生まれてすぐに脳性マヒ(CP)と診断される。中学校の頃から本格的に創作活動を始める。専門はショートショート。趣味は読書と将棋。ツイッター(@dupan216)も始めました。座右の銘は「一日一笑」。

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