第49回点字毎日文化賞の授賞式で、受賞者の塩谷治(しおのや・おさむ)さん(69)、妻の靖子(のぶこ)さんと、親しく話をさせていただいた。塩谷さんは、視覚と聴覚の重複障害がある「盲ろう者」の支援に取り組んでこられた人で、詳しくは10月6日本紙朝刊の社告と「ひと」欄に紹介されている。
厚生労働省の推計によると、日本には約2万3000人の盲ろう者がいる。しかし、塩谷さんによると、そのうち全国盲ろう者協会が「掘り起こせている」のは1000人ほどで、5%に過ぎない。家族とのコミュニケーションすらほとんどないまま孤独な生活をしている中高齢者が多いと思われ、当事者と支援者で組織する「盲ろう者友の会」の交流会に初めて出てきた人は、必ずこう話すそうだ。
「この障害は、日本で私ひとりだと思っていました」
塩谷さんらの努力で今、すべての都道府県が盲ろう者の通訳・介護者の養成や派遣のための予算を計上している。しかし「友の会」が訪問支援しようとしても、個人情報保護法を前面に出して拒否され、たどりつけないことがしばしばあるという。妻の靖子さんは「障害者の世界もメジャーとマイナーとがあるようで、まずは存在が社会に知られることが第一」と話した。
靖子さんは全盲のソプラノ歌手であり、エッセイストであり、プログラマーとして視覚障害者のパソコン利用にもとても詳しい。「目が見えなければ」「耳が聞こえなければ」と障害の部位と感性についての話になると、「五感というけれど、これは何とか感、これは何とか感と明確に区別して働いているものではなく、スペクトルみたいに連絡しているんですよ」と。いかにも音楽家で文章家らしいとらえ方だ。
点字毎日文化賞は、これまでバイオリニストの和波孝禧さんや、ピアニストの梯剛之さんら音楽家も受賞している。そういうこともあって点字楽譜の話になった。現在使われている6点式の点字を発明した仏のルイ・ブライユ(1809〜1852)は、幼いころからピアノに親しんでいたこともあり、文字と同様、楽譜の表記方法も当初から開発していた。靖子さんは「私も歌曲などクラシックに取り組む時は、点字楽譜に戻ります。楽器の演奏家もそうですが、耳から覚えるという方法では、どうしても作曲家と自分との間に、誰かが介在することになってしまいますから。それと、音楽を教育しようとする時は、(楽譜は)絶対に必要なものです」と話した。
毎日新聞-2012年11月09日
厚生労働省の推計によると、日本には約2万3000人の盲ろう者がいる。しかし、塩谷さんによると、そのうち全国盲ろう者協会が「掘り起こせている」のは1000人ほどで、5%に過ぎない。家族とのコミュニケーションすらほとんどないまま孤独な生活をしている中高齢者が多いと思われ、当事者と支援者で組織する「盲ろう者友の会」の交流会に初めて出てきた人は、必ずこう話すそうだ。
「この障害は、日本で私ひとりだと思っていました」
塩谷さんらの努力で今、すべての都道府県が盲ろう者の通訳・介護者の養成や派遣のための予算を計上している。しかし「友の会」が訪問支援しようとしても、個人情報保護法を前面に出して拒否され、たどりつけないことがしばしばあるという。妻の靖子さんは「障害者の世界もメジャーとマイナーとがあるようで、まずは存在が社会に知られることが第一」と話した。
靖子さんは全盲のソプラノ歌手であり、エッセイストであり、プログラマーとして視覚障害者のパソコン利用にもとても詳しい。「目が見えなければ」「耳が聞こえなければ」と障害の部位と感性についての話になると、「五感というけれど、これは何とか感、これは何とか感と明確に区別して働いているものではなく、スペクトルみたいに連絡しているんですよ」と。いかにも音楽家で文章家らしいとらえ方だ。
点字毎日文化賞は、これまでバイオリニストの和波孝禧さんや、ピアニストの梯剛之さんら音楽家も受賞している。そういうこともあって点字楽譜の話になった。現在使われている6点式の点字を発明した仏のルイ・ブライユ(1809〜1852)は、幼いころからピアノに親しんでいたこともあり、文字と同様、楽譜の表記方法も当初から開発していた。靖子さんは「私も歌曲などクラシックに取り組む時は、点字楽譜に戻ります。楽器の演奏家もそうですが、耳から覚えるという方法では、どうしても作曲家と自分との間に、誰かが介在することになってしまいますから。それと、音楽を教育しようとする時は、(楽譜は)絶対に必要なものです」と話した。
毎日新聞-2012年11月09日