10月に岐阜県で開かれた全国障害者スポーツ大会で大会新記録を残した選手らが先日、古川康知事を表敬訪問した。選手、支えてきたスタッフにとって晴れの舞台。知事との歓談は和やかに進んでいたが、私にはどうしても引っかかる光景があった。選手たちの前に置かれた「ふた付きの湯飲み」だ。
参加した選手の一人、前田孝さんは脳性マヒで、全身に障害がある。出場した競技は車椅子でコース内を指示通り前進、後進してタイムを競う「スラローム」。前田さんは手を自由に動かすことも難しく、足で地面を蹴って車椅子を操作する。
彼が熱いお茶の入った湯飲みを一人で持ち、口に運べないことは一目見れば分かるし、秘書課に障害の情報は届いてもいた。「配慮が至らなかった」(同課)とのことだが、古川知事がお茶を「どうぞ」と勧めたときは「目の前の姿が見えていないの?」と勘ぐりたくすらなった。
「表敬訪問」という場で、来客がこの点に対し声を上げることはないだろう。「ささいなこと」かもしれない。しかし、鍵がかかった湯飲みを差し出されて「飲んでください」と言われたら、どう感じるだろう。それがどんなに皮肉な思いやりか、想像できそうな気もする。
毎日新聞 2012年11月09日 地方版
参加した選手の一人、前田孝さんは脳性マヒで、全身に障害がある。出場した競技は車椅子でコース内を指示通り前進、後進してタイムを競う「スラローム」。前田さんは手を自由に動かすことも難しく、足で地面を蹴って車椅子を操作する。
彼が熱いお茶の入った湯飲みを一人で持ち、口に運べないことは一目見れば分かるし、秘書課に障害の情報は届いてもいた。「配慮が至らなかった」(同課)とのことだが、古川知事がお茶を「どうぞ」と勧めたときは「目の前の姿が見えていないの?」と勘ぐりたくすらなった。
「表敬訪問」という場で、来客がこの点に対し声を上げることはないだろう。「ささいなこと」かもしれない。しかし、鍵がかかった湯飲みを差し出されて「飲んでください」と言われたら、どう感じるだろう。それがどんなに皮肉な思いやりか、想像できそうな気もする。
毎日新聞 2012年11月09日 地方版