事故で右目と両腕を失いながら、障害者の自立支援に尽くした故高江常男さんの生涯を描いたアニメ映画『明日(あした)の希望』が作られた。高江さんが北海道赤平市で八十歳で亡くなってから五年。今月中旬の公開を前に、監督の山田火砂子さん(80)に作品への思いを聞いた。
山田さんが高江さんを知ったのは二〇〇九年ごろ。前作のロケ地探しで北海道を訪れた際に、高江さんの長男智和理(ちおり)さんと知り合い、話を聞いた。「両腕がないと食事は犬食いで、トイレには一人で行けない。多感な十七歳は絶望してもおかしくないのに、それを乗り越えた一生を映画にしたいと思った」と山田さんは言う。
高江さんを支えたのは、子どものころに好きになった作文だった。父親に支えられながら「文学で身を立てよう」と鉛筆をくわえて、字を書く練習を重ねた。山田さんは、その描写にこだわったという。
その後、地元紙の記者となった高江さんは、炭鉱が斜陽化する町で自分同様に労働災害で障害を抱えた人たちと知り合った。「彼らに働く場を」と借金をしてクリーニング業の社会福祉法人を興した。
アニメとしたのは「特に子どもや若い親に見てほしい、と思ったから」。いじめによる自殺などを耳にするたびに「なぜそんなに簡単に死を選ぶのか、気にかかっていた」と山田さん。「高江さんは『死ぬ気になれば、何でもできる』と努力を重ねた人。今逆境の人も励まされるはず」と話す。
山田さんも自殺を考えたことがある。長女(49)が重度の知的障害者。「かつては差別や偏見は露骨で、何度も『死のう』と思った。でも『この子を置いては…』と生き抜いてきた」と振り返る。
障害者をテーマとする映画作りで定評がある山田さんの人生は、高江さんの人生に重なるところもある。「生きていれば、悲しみに『ありがとう』と言える時がきっと来る。そのメッセージを伝えたい」
『明日の希望』はミニシアターや区民ホールなどで随時上映される。十一月十一日の四谷区民ホールでは、山田さんが舞台あいさつする。その後は、牛込箪笥区民ホールやなかのZEROホールなど首都圏各所で上映予定。一般千五百円、子ども千二百円。詳細は現代ぷろだくしょん=電03(5332)3991=へ。
東京新聞-2012年11月10日