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障害者虐待 開かれた環境の実現を

 障害者の人権を守る法整備が進みつつあるのに、なぜ虐待が後を絶たないのか。あまりに悲惨な現実に言葉を失う。

 障害者虐待防止法が施行された昨年10月から半年間に、虐待を受けた障害者が全国で1505人に上ることが、厚生労働省の調査で分かった。うち3人は亡くなった。

 道内には死亡者はいなかったが、被害者は36人に及んだ。

 障害者への虐待はとりわけ、外部の目が届きにくい環境で起こりやすい。今回の数字は氷山の一角ととらえるべきだ。早期発見に力を入れるとともに、防止に全力を挙げたい。

 障害者虐待防止法は、知的・精神・身体障害者への暴力や暴言などの発見者に、通報を義務付けたのが特徴だ。市区町村は窓口を設け、必要に応じて立ち入り調査や被害者の一時保護などを行う。

 調査は、通報や相談をもとに初めてまとめた。加害者の内訳は家族や親族が88%と圧倒的に多く、福祉施設などの職員が12%だった。

 家庭内で虐待が多いのは、障害者への世話や介護に伴うストレスが背景にあると専門家は指摘する。家族が孤立し、追い詰められないようにすることが大事だ。

 行政には相談態勢の充実や、家族の負担を和らげるためヘルパー派遣に柔軟に応じるなど、きめ細かな支援が求められる。

 数は少ないものの福祉施設での被害も見逃せない。道内では根室管内別海町で職員が知的障害の女性の顔をたたくなど2件の被害があった。このため、道は他の入所施設についても実態調査を始めた。

 入所者の権利を守るべき職員の暴力が許されないのは当然で、高い倫理観が不可欠だ。しかし、施設内の研修だけでは限界があろう。

 専門家は、ボランティアの受け入れや地域住民との交流の活発化など、開かれた施設を目指すことが防止にもつながると指摘する。こうした試みを導入したい。

 調査は行政側の体制の脆弱(ぜいじゃく)さも浮き彫りにした。専門知識や経験を持つ職員のいる市区町村は28%(道内は21%)にとどまった。通報を受け虐待と認定した割合や対策も自治体によってばらつきが見られた。

 通報にはパニック状態の入所者を押さえる際のけがなど、虐待かどうか判断が難しいケースが多い。専門知識がなければ対応できないのは明らかだ。国も後押しをしながら、職員研修を充実させる必要がある。

 虐待の温床を絶やすには、家庭や施設、行政だけの取り組みでは十分とは言えない。地域を含め障害者を正しく理解し、社会全体で支える環境を整えるべきだ。

北海道新聞-(12月3日)

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