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東日本大震災【3.11から未来へ】 就労支援 パン窯の絆

 横浜や川崎のパン店の経営者らで作るNPO法人が福島県の障害者施設にパン焼き窯を寄贈し、障害者が作るパンの店がオープンした。原発事故後の風評被害で立ちゆかなくなった農業に代わり、障害者の就労支援に役立ててもらう試みだ。

 「かぼちゃをいっぱいのせて。早く早く」「もっとよく混ぜないと」

 14日、福島県南部の山あい。石川町の愛恵自立支援センターに併設されたパン店「ベーカリーあい」。真新しいパン工房で横浜市のパン職人、加藤晃さん(75)が穏やかな声で次々に指示を出す。

 昨年12月にオープンした店を担うのは、知的障害や精神障害がある20〜30代の6人とセンター職員。この日、新たなレシピとして蒸しパンやベーグル生地のドーナツに挑戦し、4時間半で18種類、200個を焼き上げた。

 昨年8月から研修を受け持ってきた加藤さんは「パン作りはスピードが大事。最初の倍ぐらいのスピードになってきた」と満足げに作業の様子を見守った。中小パン屋の経営や技術を指導するアドバイザーが本職。「味や品質は町のパン屋さんに負けないパンにしたい」。自家製の発酵種を使ったきめ細かな仕上がりが売り物だ。

 隣接する店舗に人影が見えると、大きな声で「いらっしゃいませ」と飛び出していく。

地域のお客さんと毎日接する機会があることもメリットだ。「おいしい」と言われ、表情も明るくなったという。

 大野広光施設長(51)は「福島ではどの産業も厳しいが、パンを通してたくさんの人とふれ合い、楽しく働いていけるようにしたい」と話す。

 センターでは障害者の就労支援の場として、園芸や農作業、紙すきに取り組んできた。

ところが、東日本大震災で約60キロ離れた福島第一原発の事故が発生。地震の被害はほとんどなかったが、野菜の出荷は一時は完全にストップ。再開後も売り上げは激減した。

シイタケ栽培や稲作で雇ってもらう計画も頓挫した。

 大野施設長は「不安で、これからどうしたらよいのかと思った」と振り返る。

 一方、パン店経営者らで作る横浜市のNPO法人「NGBC」では震災直後から、参加店の各店の店頭で義援金を募ったり、売り上げを募金に充てるクッキーを販売したりしてきた。「自分たちはパン屋だからパン作りで支援しよう」。義援金などを元手に、震災で打撃を受けた被災地の障害者施設に製パン設備を贈り、技術指導もしようと決めた。

 障害者の就労を支援する「日本セルプセンター」を通じ、支援先を募集。昨年4月に岩手県滝沢市で、続いて石川町での開業にこぎ着けた。1月までに集めた募金は約950万円。2施設にパン焼き窯や発酵室、冷凍・冷蔵庫を贈り、加藤さんが定期的に訪問して技術指導する費用にも充てた。セルプセンターも費用の一部を支援している。

 NGBCの副理事長で、横浜市神奈川区でパン店を営む高崎健人さん(45)は「パン作りに関わって元気になってもらえるのがうれしい。人気店になって、福島の活性化につながれば」と話している。

朝日新聞 - 2014年01月28日

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