自分や他人を傷つける問題行動を示す一方で、施設職員らから虐待被害に遭いやすいとされる「強度行動障害者」を適切に支援する人材を養成するため、国が2014年度から本格実施するよう求めている研修事業について、全体の4割に当たる19都道府県が同年度中の実施を予定していないことが毎日新聞の調査で分かった。地方での対策が遅れている現状が浮かび上がったが、人材育成には国の財政支援が不可欠との指摘も出ている。
15人以上の職員による虐待が発覚した千葉県立障害者支援施設「袖ケ浦福祉センター」では、強度行動障害者に被害が集中していた。職員の暴行を受けた後に死亡した入所少年もこの障害の傾向があった。傷害致死容疑で逮捕された元職員は「騒いだ少年を注意したが、聞いてくれずストレスがピークに達した」と供述しており、県も虐待の一因に「職員の支援スキルの低さ」を挙げている。
厚生労働省の研修事業は、計32時間の講義やグループワークなどを通じ、必要な知識を身につけた専門的な施設職員を養成する内容。今年度は研修の指導者役養成に充て、14年度から各都道府県で本格化させる方針だ。ただし国の予算措置はなく、実施するかどうかは都道府県の判断に委ねられている。
こうした状況を踏まえ、毎日新聞が全都道府県に対応を尋ねたところ、19都道府県が14年度に研修実施予定がないと回答した。実施しない理由や課題を尋ねたところ「効果的な研修をするためには補助金の増額が必要」(岩手県)、「専門的な職員を確保するため、強度行動障害者の支援に対する福祉サービスの報酬を見直してほしい」(高知県)などと国による財政支援を望む声が寄せられた。
一方、県立施設での虐待発覚を受けて独自の研修を開く千葉県や、国の補助に頼らずに報酬を加算した滋賀県のような積極的取り組みもあった。千葉県の担当者は「再発防止のための人材養成が急務で、国の研修より内容を充実させる」としている。
研修事業が広がらない現状について、厚労省障害福祉課は「都道府県が実施に前向きになる対策を検討したい」としている。【田中裕之、松崎真理】
◇2014年度に国企画の研修の開催予定がない都道府県◇
北海道、岩手県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、愛知県、京都府、大阪府、奈良県、岡山県、愛媛県、高知県、福岡県、長崎県
◇強度行動障害◇
通常では考えられない頻度で自分や他人を傷つけたり、特定の物事に激しくこだわったりという問題行動をしてしまう障害。明確な判定基準はないが、自閉症を伴う重度の知的障害者らに表れるケースが多い。言葉や身ぶりで自分の考えを表現するのが難しく、近年の研究で、自分の意思が他人に伝わらない場合に問題行動が表れることが分かってきている。知的障害者の1%程度とされる一方で、虐待を受けた障害者の10%前後を占めるともいわれる。
毎日新聞 2014年03月15日 15時01分
15人以上の職員による虐待が発覚した千葉県立障害者支援施設「袖ケ浦福祉センター」では、強度行動障害者に被害が集中していた。職員の暴行を受けた後に死亡した入所少年もこの障害の傾向があった。傷害致死容疑で逮捕された元職員は「騒いだ少年を注意したが、聞いてくれずストレスがピークに達した」と供述しており、県も虐待の一因に「職員の支援スキルの低さ」を挙げている。
厚生労働省の研修事業は、計32時間の講義やグループワークなどを通じ、必要な知識を身につけた専門的な施設職員を養成する内容。今年度は研修の指導者役養成に充て、14年度から各都道府県で本格化させる方針だ。ただし国の予算措置はなく、実施するかどうかは都道府県の判断に委ねられている。
こうした状況を踏まえ、毎日新聞が全都道府県に対応を尋ねたところ、19都道府県が14年度に研修実施予定がないと回答した。実施しない理由や課題を尋ねたところ「効果的な研修をするためには補助金の増額が必要」(岩手県)、「専門的な職員を確保するため、強度行動障害者の支援に対する福祉サービスの報酬を見直してほしい」(高知県)などと国による財政支援を望む声が寄せられた。
一方、県立施設での虐待発覚を受けて独自の研修を開く千葉県や、国の補助に頼らずに報酬を加算した滋賀県のような積極的取り組みもあった。千葉県の担当者は「再発防止のための人材養成が急務で、国の研修より内容を充実させる」としている。
研修事業が広がらない現状について、厚労省障害福祉課は「都道府県が実施に前向きになる対策を検討したい」としている。【田中裕之、松崎真理】
◇2014年度に国企画の研修の開催予定がない都道府県◇
北海道、岩手県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、愛知県、京都府、大阪府、奈良県、岡山県、愛媛県、高知県、福岡県、長崎県
◇強度行動障害◇
通常では考えられない頻度で自分や他人を傷つけたり、特定の物事に激しくこだわったりという問題行動をしてしまう障害。明確な判定基準はないが、自閉症を伴う重度の知的障害者らに表れるケースが多い。言葉や身ぶりで自分の考えを表現するのが難しく、近年の研究で、自分の意思が他人に伝わらない場合に問題行動が表れることが分かってきている。知的障害者の1%程度とされる一方で、虐待を受けた障害者の10%前後を占めるともいわれる。
毎日新聞 2014年03月15日 15時01分