全国的に増加が指摘されるうつ症状などの心の病や発達障害。社会的な認知の広がりと共に精神科を訪れる患者数も増え、医療の役割が増している。十勝毎日新聞社の年間キャンペーン「いのちを支えて」第5部では、道内公立病院では数少ない精神科単科の道立緑ヶ丘病院を通して、十勝の精神医療の現状と課題を伝える。
大人の発達障害
「生きづらさ」当事者同士共有
「やっぱりなという思いとともに、これで次に打つ手が見つかるという希望で視界が開けた」−。帯広市在住の三浦潤一さん(38)は昨年7月に道立緑ヶ丘病院(音更町緑が丘1)で、「発達障害」と診断されたときの心境を振り返る。
自分自身で“異変”に気付いたのは30代になって。職場でのトラブルで、うつの症状を2度繰り返した。三浦さんは大学を卒業後、現在まで13回職場を変えている。原因の多くは、対人関係で人よりも多くストレスを抱えてしまうこと。心療内科に通い薬も処方されたが、「生きづらさ」(三浦さん)は変わらなかった。最後に勤めた職場で偶然「発達障害」について知り、自分で疑ってみた。
発達障害者支援道東地域センター「きら星」(帯広市西25南4)に相談し、道立緑ヶ丘病院を紹介され受診。IQテスト、心理検査、幼少期についての本人と親への問診など、2回の診察を経て、広汎性発達障害と診断された。
職場や家庭で問題
同院の枝雅俊医長は「発達障害は脳機能のバランスが普通の人と異なり、得意なことと不得意なことがはっきりしている」という。大人の発達障害の場合、子供のときから症状は抱えているが、IQは正常範囲内で学校生活まではうまくいき、社会に出てから職場や家庭生活で困難を抱えるケースが多い。
近年、マスコミなどで取り上げられる機会が増え、同院での受診も増加傾向にある。これまでうつや神経症と診断されていたケースが、実は発達障害だったということもある。発達障害の診断は難しく、一般の医師にも比較的なじみが薄いため、研究と治療はなかなか進んでいないのが現状だ。
自助の力高める
同院は毎週水曜午後7時から、大人になって発達障害と診断された当事者、家族、支援者が集まり、生活上の悩みを打ち明け情報交換する「ピアカウンセリング」を開いている。毎回20人前後がリラックスした雰囲気の中、今の気分や悩み、不安を話す。参加者一人ひとりが耳を傾け、助言する。就労など次のステップに向けて、動きだすきっかけにもなっている。
三浦さんは3月、当事者によるグループ「発達ひろば」を立ち上げた。「当事者が主役になり、自らを研究することで自助の力を高める『当事者研究』に基づき、地域で孤立する人を救うことができれば」と語る。
枝医長は「社会的支援は整いつつあるが、一般の理解はまだまだ。誰にも得意、不得意があるように、生まれつき能力の偏りがあるだけ。社会人として失格と決めつけるのではなく、得意分野を生かしてあげることは、本人にとっても周りにとっても生きやすさにつながる」と話している。(酒井花)
大人の発達障害
生まれつきの脳の機能障害。大人になって診断されるのは、「注意欠陥・多動性症候群」(不注意、多動性、衝動性の症状)、「アスペルガー症候群」(他者との関係がうまく持てないなど)、「学習障害」(特定の学習能力の習得に限り著しく困難)、いずれかの症状に当てはまるが軽度で特定しにくい「広汎性発達障害」がある。俳優のトム・クルーズ、映画監督のスティーブン・スピルバーグなど有名人も発達障害を抱えていると公表している。
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「発達ひろば」のメンバーと次のステップに向けて話し合う三浦さん(左から2人目)
十勝毎日新聞-2012年11月21日 15時27分
大人の発達障害
「生きづらさ」当事者同士共有
「やっぱりなという思いとともに、これで次に打つ手が見つかるという希望で視界が開けた」−。帯広市在住の三浦潤一さん(38)は昨年7月に道立緑ヶ丘病院(音更町緑が丘1)で、「発達障害」と診断されたときの心境を振り返る。
自分自身で“異変”に気付いたのは30代になって。職場でのトラブルで、うつの症状を2度繰り返した。三浦さんは大学を卒業後、現在まで13回職場を変えている。原因の多くは、対人関係で人よりも多くストレスを抱えてしまうこと。心療内科に通い薬も処方されたが、「生きづらさ」(三浦さん)は変わらなかった。最後に勤めた職場で偶然「発達障害」について知り、自分で疑ってみた。
発達障害者支援道東地域センター「きら星」(帯広市西25南4)に相談し、道立緑ヶ丘病院を紹介され受診。IQテスト、心理検査、幼少期についての本人と親への問診など、2回の診察を経て、広汎性発達障害と診断された。
職場や家庭で問題
同院の枝雅俊医長は「発達障害は脳機能のバランスが普通の人と異なり、得意なことと不得意なことがはっきりしている」という。大人の発達障害の場合、子供のときから症状は抱えているが、IQは正常範囲内で学校生活まではうまくいき、社会に出てから職場や家庭生活で困難を抱えるケースが多い。
近年、マスコミなどで取り上げられる機会が増え、同院での受診も増加傾向にある。これまでうつや神経症と診断されていたケースが、実は発達障害だったということもある。発達障害の診断は難しく、一般の医師にも比較的なじみが薄いため、研究と治療はなかなか進んでいないのが現状だ。
自助の力高める
同院は毎週水曜午後7時から、大人になって発達障害と診断された当事者、家族、支援者が集まり、生活上の悩みを打ち明け情報交換する「ピアカウンセリング」を開いている。毎回20人前後がリラックスした雰囲気の中、今の気分や悩み、不安を話す。参加者一人ひとりが耳を傾け、助言する。就労など次のステップに向けて、動きだすきっかけにもなっている。
三浦さんは3月、当事者によるグループ「発達ひろば」を立ち上げた。「当事者が主役になり、自らを研究することで自助の力を高める『当事者研究』に基づき、地域で孤立する人を救うことができれば」と語る。
枝医長は「社会的支援は整いつつあるが、一般の理解はまだまだ。誰にも得意、不得意があるように、生まれつき能力の偏りがあるだけ。社会人として失格と決めつけるのではなく、得意分野を生かしてあげることは、本人にとっても周りにとっても生きやすさにつながる」と話している。(酒井花)
大人の発達障害
生まれつきの脳の機能障害。大人になって診断されるのは、「注意欠陥・多動性症候群」(不注意、多動性、衝動性の症状)、「アスペルガー症候群」(他者との関係がうまく持てないなど)、「学習障害」(特定の学習能力の習得に限り著しく困難)、いずれかの症状に当てはまるが軽度で特定しにくい「広汎性発達障害」がある。俳優のトム・クルーズ、映画監督のスティーブン・スピルバーグなど有名人も発達障害を抱えていると公表している。

「発達ひろば」のメンバーと次のステップに向けて話し合う三浦さん(左から2人目)
十勝毎日新聞-2012年11月21日 15時27分