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障害者をタレントに!

エッセイ・立石芳樹 (たていし・よしき)

今週は、個人的な話題から。

26年間の人生ではじめて(請求書)というものを書くことになりました。先月のコラムで御紹介した「グレイッシュとモモ」の観劇ルポに原稿料が発生し、依頼主の団体に報酬請求書を送付したのです。

請求書の書き方って、案外ややこしいものなんですね。社会人にとってはそんなことは日常茶飯事で(できて当たり前)のことなのでしょうけれど、社会の洗礼を受けていない僕にとっては何もかもが未知の世界でした。

たった一枚の請求書を書き終えた時には、社会人としての通過儀礼をまたひとつ乗り越えられたような気がして、大人としての自信につながりました。

自分の能力を活かして働き、賃金を得るということは、一人の自立した人間として認められた証です。障害者の一般就労への門戸も少しずつ開かれてきていますが、最近ではもうひとつの(働くかたち)として、障害者の芸能界入り、というケースも注目されはじめています。

芸能界入りというのは、少しオーバーかもしれませんね。ここで言いたいのは、障害者が仕事としてテレビに出るケースのことで、要するに(障害者のタレント化)と考えればわかりやすいかもしれません。

「バリバラ」という番組を御存知でしょうか。関東エリアでは、NHKのEテレ(昔の教育テレビ)で、金曜日の夜9時から放送されています。バリバラとは、バリアフリーバラエティーの略。堅苦しいことは抜きにして、バリアフリーに関する情報をどんどん発信していこうというコンセプトの番組です。

この番組の特徴は、司会とゲストタレント以外の出演者が基本的にみんな障害者であること。脳性マヒ、筋ジストロフィー、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、自閉症、発達障害、性同一性障害など、さまざまなハンディを抱えた人たちがざっくばらんにバリアフリーについて語り合う姿には、笑いと共感を誘われます。

この番組に準レギュラー(?)として出演するあべけん太さんは、障害者専門のマネジメント事務所「ケイプランニング」に所属する、プロのタレントです。自らを(ダウン症のイケメン)とユーモラスに表現し、どんな仕事でも笑顔でこなすそのひたむきさは、まさにタレントの鑑。あべさんがいるだけで、スタジオがやわらかい空気になります。

障害者をタレントとして積極的に起用しようという動きは、少しずつではありますが広がっています。ダウン症の少年が役者として連続ドラマに出演したことでも話題になりましたし、障害者だけが所属する芸能事務所も各地に設立されはじめています。

(障害者タレント)のさきがけは、何と言っても乙武洋匡さんでしょう。「五体不満足」の大ヒット以降の活躍ぶりは、今さら説明する必要もないでしょう。もっとも、乙武さん本人は世間からタレント扱いされることに対しては葛藤と抵抗があったようですが、現在ではテレビへの出演も増え、多才ぶりは健在です。良い意味で開き直った、と言えば怒られるでしょうか。

残念なことにと言うべきか、当然の成り行きと言うべきか、今のメディア業界には乙武さんの次の世代、いわゆる(ポスト乙武)と呼べるような存在がいません。いつまでも乙武さんにこだわる発想自体が時代遅れなのかもしれませんが、どの世界にも世代交代は必要です。

なぜ、テレビには障害者が少ないのか。障害そのものを(リスク)という言葉でとらえた時、そのこたえは簡単に見つかります。

障害は、リスクなのです。少なくとも、テレビ局が番組に障害者を起用するという場面において。

ごく一般的な(つまり、障害者を起用しない)番組でも、内容によっては放送後に視聴者から多数のクレームが寄せられるそうです。出演者のちょっとした発言が差別的だったり、番組内の企画が暴力的だったり……。

クレームの内容はさまざまですが、そのほとんどに共通するのは、(差別)というキーワードです。この番組は差別を助長する。あるいは、この企画はいじめにつながりかねない。差別やいじめというキーワードに、視聴者は敏感なのです。

(障害者を見せ物にするな)

障害のある人がスポーツや芸術活動をすることに対する、常套句とも言うべき批判です。障害者を意志ある個人と見なしていないという点において、この批判のほうがよほど差別的ではないかと僕は思うのですが、ともかくこの種の抗議があるかぎり、芸能界への道も閉ざされたままでしょう。

テレビ局も公の企業である以上、視聴者(もしくはスポンサー)からの抗議を無視することはできません。障害のないタレントだけで充分に番組づくりができるのなら、あえて障害者を起用する必要はない。現時点では、そうした判断が大勢なのでしょう。

けれど、流れは変わりつつあります。前半部分で紹介した障害者の芸能事務所は今後も増えていくでしょうし、「バリバラ」のような番組が民放でもつくられるようになれば、その勢いはさらに加速するでしょう。

僕の知り合いに、重度の身体障害を抱えながら役者として自立している男性がいます。仮死状態で生まれた彼は、それでも自分にできる表現方法はないかと自らの意志で劇団に所属し、定期的に舞台に立っています。

僕には、彼のようなタフさはありません。障害者タレントになれるほどの才能もないでしょう。だからこそ、僕は彼を応援したい。彼のように苦労を覚悟で、人生をかけて役者やタレントを志す人たちを、全力でサポートしたいのです。

批判は、大いにけっこうです。けれどそれ以前に、(障害者を表に出すのはかわいそう)などの偏ったクレームによって結果的に本人の活躍の場を奪ってしまうのなら、それは絶対にやめてもらいたい。

一見やさしさに思えるその発想そのものが障害者を個人として見ていない、かたちを変えた差別思想であることに、一日でも早く気づいていただきたいのです。

立石芳樹 (たていし・よしき)

1988年、神奈川県生まれ。生まれてすぐに脳性マヒ(CP)と診断される。中学校の頃から本格的に創作活動を始める。専門はショートショート。趣味は読書と将棋。ツイッター(@dupan216)も始めました。座右の銘は「一日一笑」。

 ・ より良い世界へ希望を込めて アピタルコラムの筆者、立石芳樹さん

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