■多様性の時代に傾聴力で対応
今年1月、日本は障害者の差別禁止や社会参加を促す国連の「障害者権利条約」を批准した。これにより、例えば企業がプログラマーを募集すると、能力的に問題がなければ障害者や高齢者だからといって断ることはできない。採用すれば支障なく仕事ができる職場環境を整える必要もある。
少子高齢化とグローバル化で多様な人材が一緒に働くダイバーシティ(多様性)の時代がやってきた。多様化は職場だけではない。世の中も複雑化し、進むべき方向が予測しにくくなっている。
リーダーの資質も変わる。従来の「君臨・支配型リーダー」がもつカリスマ的能力だけで、多様な人材を引き付けることはできないからだ。むしろ多様で異質な人材の能力を引き出して組織を活性化させる「支援・奉仕(サーバント)型リーダー」が求められる。
このサーバント・リーダーシップは米ロバート・グリーンリーフ氏が1970年に提唱したリーダーシップ実践哲学で、「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」と説いた。
サーバントとは使用人、召し使い。組織を指導し統率するリーダーシップとは正反対な言葉が続くため、不思議な感じがするが、NPO法人(特定非営利活動法人)日本サーバント・リーダーシップ協会の真田茂人理事長は「リーダーは人を率いて成功に導く必要がある。そのためには大義あるミッション・ビジョンを示し、それを部下に遂行させなければならない。そのための奉仕(支援)を行う」と説明する。
部下の言うことをなんでも聞き入れるわけではない。部下の行動がミッションから離れていれば、改めるよう強く指導する。こうした奉仕型リーダーシップを発揮するには、部下から「あの人のためなら一肌脱ごう」と思わせる器量がリーダーに求められる。権力で人を動かすのではなく、人格で評価・支持を得る。
「そのために必要なことは傾聴」と真田氏は指摘する。聞き上手ということだ。確かに、会社をつぶす経営者は「人の話を聞かない、勉強しない、社員を信じない」と言われる。変化が激しい時代は、有能なリーダーが過去の成功体験を踏まえて決断しても、それが正しいとはかぎらない。
経済が右肩上がりの時代、つまり作れば売れる時代は、経験から何をやればいいか分かっていたリーダーが的確な指示を出し部下を統制。効率が重要なので、部下も言われた通りにやれば成果が出た。リーダーが一方的に指示・命令し、部下はそれに服従・依存していればよかった。
しかし効率化と大量生産でつくれば売れる時代は終わった。成熟社会の今、過去と同じやり方では通用しない。環境変化が激しく、顧客ニーズも高度化・多様化。作れば売れるような単純なビジネスは存在しない。消費者に一番近いところにいる社員の話を聞かないと、市場や顧客の変化に気づくことが遅れ、間違った指示を出しかねない。当然ながら結果はついてこない。部下もやる気をなくす。
だからこそ傾聴力が問われる。正しい情報がなければ、正しい意思決定はできないからだ。部下のモチベーションも「話を聴いてくれる」ことで高まる。正解を発見しようと情報収集のアンテナを高く張り、自律的に行動する。組織への参加意欲も高まる。リーダーは奉仕の精神により部下のモチベーションと自律性を引き出せば、正しい戦略を発見しやすくなるというわけだ。
多様性の時代を勝ち抜く企業には奉仕型リーダーシップが欠かせないようだ。しかも企業トップ自らが謙虚になって奉仕型リーダーにふさわしい行動、つまり従業員満足と顧客満足の両方を高める必要がある。職場では女性、高齢者、外国人、障害者が机を並べて働く。一方で、多様性を知ることが商品開発にも生かされ、新たなビジネスチャンスを生む。それだけに傾聴力をもった奉仕型リーダーのもと、メンバーが一丸となって正解を求める「最強の組織」をつくる必要がある。最近、プロの経営者がもてはやされている。マネジメント力も従来型リーダーシップも間違いなく備わっている。ただ奉仕力は未知数だ。
2014.8.5 05:00 SankeiBiz
今年1月、日本は障害者の差別禁止や社会参加を促す国連の「障害者権利条約」を批准した。これにより、例えば企業がプログラマーを募集すると、能力的に問題がなければ障害者や高齢者だからといって断ることはできない。採用すれば支障なく仕事ができる職場環境を整える必要もある。
少子高齢化とグローバル化で多様な人材が一緒に働くダイバーシティ(多様性)の時代がやってきた。多様化は職場だけではない。世の中も複雑化し、進むべき方向が予測しにくくなっている。
リーダーの資質も変わる。従来の「君臨・支配型リーダー」がもつカリスマ的能力だけで、多様な人材を引き付けることはできないからだ。むしろ多様で異質な人材の能力を引き出して組織を活性化させる「支援・奉仕(サーバント)型リーダー」が求められる。
このサーバント・リーダーシップは米ロバート・グリーンリーフ氏が1970年に提唱したリーダーシップ実践哲学で、「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」と説いた。
サーバントとは使用人、召し使い。組織を指導し統率するリーダーシップとは正反対な言葉が続くため、不思議な感じがするが、NPO法人(特定非営利活動法人)日本サーバント・リーダーシップ協会の真田茂人理事長は「リーダーは人を率いて成功に導く必要がある。そのためには大義あるミッション・ビジョンを示し、それを部下に遂行させなければならない。そのための奉仕(支援)を行う」と説明する。
部下の言うことをなんでも聞き入れるわけではない。部下の行動がミッションから離れていれば、改めるよう強く指導する。こうした奉仕型リーダーシップを発揮するには、部下から「あの人のためなら一肌脱ごう」と思わせる器量がリーダーに求められる。権力で人を動かすのではなく、人格で評価・支持を得る。
「そのために必要なことは傾聴」と真田氏は指摘する。聞き上手ということだ。確かに、会社をつぶす経営者は「人の話を聞かない、勉強しない、社員を信じない」と言われる。変化が激しい時代は、有能なリーダーが過去の成功体験を踏まえて決断しても、それが正しいとはかぎらない。
経済が右肩上がりの時代、つまり作れば売れる時代は、経験から何をやればいいか分かっていたリーダーが的確な指示を出し部下を統制。効率が重要なので、部下も言われた通りにやれば成果が出た。リーダーが一方的に指示・命令し、部下はそれに服従・依存していればよかった。
しかし効率化と大量生産でつくれば売れる時代は終わった。成熟社会の今、過去と同じやり方では通用しない。環境変化が激しく、顧客ニーズも高度化・多様化。作れば売れるような単純なビジネスは存在しない。消費者に一番近いところにいる社員の話を聞かないと、市場や顧客の変化に気づくことが遅れ、間違った指示を出しかねない。当然ながら結果はついてこない。部下もやる気をなくす。
だからこそ傾聴力が問われる。正しい情報がなければ、正しい意思決定はできないからだ。部下のモチベーションも「話を聴いてくれる」ことで高まる。正解を発見しようと情報収集のアンテナを高く張り、自律的に行動する。組織への参加意欲も高まる。リーダーは奉仕の精神により部下のモチベーションと自律性を引き出せば、正しい戦略を発見しやすくなるというわけだ。
多様性の時代を勝ち抜く企業には奉仕型リーダーシップが欠かせないようだ。しかも企業トップ自らが謙虚になって奉仕型リーダーにふさわしい行動、つまり従業員満足と顧客満足の両方を高める必要がある。職場では女性、高齢者、外国人、障害者が机を並べて働く。一方で、多様性を知ることが商品開発にも生かされ、新たなビジネスチャンスを生む。それだけに傾聴力をもった奉仕型リーダーのもと、メンバーが一丸となって正解を求める「最強の組織」をつくる必要がある。最近、プロの経営者がもてはやされている。マネジメント力も従来型リーダーシップも間違いなく備わっている。ただ奉仕力は未知数だ。
2014.8.5 05:00 SankeiBiz